第13談 大森のUFO

文字数 1,838文字

おはようございます。

今日は、ずっと以前に一家で目撃したUFOのことを書きましょう。

私の父親が脊髄小脳変性症という難病で入院し、その後退院して自宅療養していた頃の話ですから、今から20年ほど前のこと。
寒い時期ではなかったし、当時小学生だった子供たちがお休みだったと記憶しているので、夏休みの頃だったように思います。
その時期さえも定かではありませんが、そのとき目にした光景だけは今でも鮮明に思い出せます。

東京大田区大森の特別養護老人ホームにショートステイで滞在する父を一家で見舞った帰りのこと。妻と子供たちはテレビで紹介されていた駄菓子屋に行きたいと言います。
愛車にはナビがなかったので、地図を頼りに辿り着いたのは、確か午後3時か4時頃でした。
住所は交番で調べてもらったように記憶しています。

今ほど駐車違反は厳しくなかったので愛車のマツダMPVを路上に駐め、車外に出てキーをロックした時、私は空に浮かぶ「それ」に気づきました。
周囲に比較する物がなかったので、サイズがどのくらいだったのかはわかりません。
移動する速度や距離感から、その辺りをよく飛んでいる旅客機くらいに見えましたが、形状が旅客機とはかけ離れていることははっきりわかりました。

「あれ、UFOだよね」と私は声を掛け、「ほんとだ」と駄菓子屋に向かおうとしていた妻と子供たちも足を止め、みんなでしばらく空を見上げていました。
色は軽金属のアルミニウムやジュラルミンのように渋い輝きを放つシルバー。
形は銀河系宇宙と言うか、目玉焼きを二つ貼り合わせたような上下対称形で、窓や突起は一切なく表面はシームレスに見えました。

思いつくのが少し遅かったのですが、そうだ! カメラがあった……とクルマのドアを開け、バッグからデジカメを取り出しました。オリンパスのE-10というレンズ交換の出来ない初期の一眼レフ・デジタルで、F2.0の明るいズームレンズが自慢でしたが起動が今のカメラほど速くはありません。
妻から「早く早く」と急かされましたが、準備が整ってレンズを空に向けた時は目の前にただ青空が広がっているだけ。
「行っちゃった?」とみんなの顔を見ると、「行っちゃった……」と。
「お父さん、ホントに間が悪いから」とみんなガッカリしていました。
その後、家族が駄菓子屋で買い物をしている間も、私は何度か店の外に出て空を見上げましたが、UFOは二度と目の前に現れてくれませんでした。

帰宅したあとはテレビのニュースを片っ端からチェックしました。
そして翌朝は朝刊を隈無く探しましたが、どこにもそれらしい記事はありません。
各局のテレビニュースを録画するよう妻に頼んだら、少し呆れられました。
「それを見てどうするの?」
「だって、知りたいじゃないか。UFOだよ? UFOをこの目で見たんだよ?」
「昨日写真が撮れてたら良かったのに。いまさらそんなに必死になって探したって……」

職場でその話をしたら、そういう話題が大好きな人たちのネタにされました。
「ね? やっぱり宇宙人はいるのよ」と言われたので、私は全力で否定しました。
「確かにUFOは見たけど、宇宙人かどうかわからない。未来人が乗ったタイムマシンかもしれないし、そもそも誰か乗っていたのかさえわからないよ。遠隔操作で飛んでいたロシアか中国の秘密兵器かもしれないし、どこかの大学が実験で飛ばしたのかもしれない」
そう言うと「夢がない」と批判されましたが、それは「夢」ではありません。
目撃した「事実」と「憶測」や「想像」との乖離が私は許せなかったのです。

仕事から帰って録画したニュースを見ても、UFOの話題はどこにもありませんでした。
その日以来しばらくの間、インターネットで「大森」「UFO」と検索窓に入力して探してみましたが、結局何も見つかりませんでした。

今でも家族とその話になると、みんなもちゃんと覚えているのになぜか私ほどは熱くなりません。

あれはなんだったのでしょう?
その正体は未だにわからないまま……
だからUFO=Unidentified Flying Object(未確認飛行物体)なのでしょうね。
私にとっては、Unforgettable Flying Object(忘れられない飛行物体)ですが。

もし、当時の何かをご存じな方がいらしたら、是非教えてください。
と言っても、オカルトファンの方はご勘弁を。
私は夢見る理想家ですが、内面は意外と臆病な現実主義者なので。

老人は死なず、ただ思い出しては首を傾げるのみ
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み