第95談 映画『ラストレター』と文通の思い出 

文字数 2,486文字

おはようございます。
1週間(+1日)ぶりです。

今日は長崎に原爆が投下された日。
拙作『ミウノイタナツ』は長崎を舞台に書かせていただきましたが、いつの日か世界中から核兵器の脅威や戦争という殺し合いがなくなる日が来ることを祈らせていただきます。

さて、今回はアメリカ映画の『ザ・ハリケーン』を取り上げようかと思いましたが、冤罪の話はちょっと重くなるので、次回以降にさせて頂きます。

と言うことで、今回は2020年公開の岩井俊二監督『ラストレター』。
これもAmazon Primeのオンデマンドでの鑑賞です。
岩井監督自身の小説の映画化ですが、初の長編映画『Love Letter』に対するアンサー映画にもなっているそうです。
その『Love Letter』は劇場で観ましたが、もう27年も前なんですね。

主演は松たか子。
この人が主演する映画やドラマには外れがないと思いますが、この映画もその一つと言って良いでしょう。
旦那さん役が(ヱヴァンゲリヲンの)庵野秀明だったり、義理のお母さん役が(シンガーの)水越けいこだったり、実家のお父さんが(ムーンライダーズの)鈴木慶一だったり、役者さんでない人を起用するのは岩井監督の得意技でしょうか。

娘役の森七菜は主題歌『カエルノウタ』(作曲は監督の相棒とも言える小林武史)も歌ってますが、素人っぽさが起用の理由でしょうか?
亡くなった姉の娘は、広瀬すずが演じています。森七菜と従姉妹同士の高校生という役どころ。撮影当時は21〜2歳だと思いますが、彼女は高校生役にぴったりですね。正直言うと大人よりも高校生くらいの少女役が似合うと思います。

映画の内容ですが、監督の出身地である宮城県が舞台。
姉が亡くなったことを知らせるために行った同窓会で姉に間違えられ、姉への想いを小説に書いた(福山雅治演じる)初恋の人とひょんなことから「文通」を始めることになります。
ところがその手紙に差出人の住所を書かなかったことから、その返信は娘と姪のいる実家へ。それを読んだ子供達が……とその先を書くとネタバレになりますので、この辺で。
ちょっとヘヴィーな内容も挟みながら物語は進みますが、ラストレターのタイトルの意味はラストに明かされます。
なんだか最近の映画というより、数十年前の映画を観ているような感じがしましたが、偶にはこういうゆったりしたテンポの映画も悪くないかも?

さて、この映画のような手紙でのやりとりは今の時代にはなかなか見られません。
私は十数年前にメールで文通のような長いやりとりをしたこともありますが、電子メールが無かった時代のコミュニケーション手段は手紙が電話しかなかった訳で、私たちの世代には手紙による文通経験のある人も少なくないと思います。

私は筆無精なので、自分から積極的にペンフレンド(文通友だちをそう呼びました)を募集したことはありませんが、ひょんなことから一人の女の子と4年ほど手紙のやりとり、つまり文通をしたことがあります。

18歳の頃、イエスというイギリスのロック・グループが好きだった私は、ロック専門の音楽雑誌の掲示板コーナーに、イエスの曲を演奏するバンドメンバー募集の投稿をしました。
結局メンバーは見つかりませんでしたが、それを読んで私に手紙を送ってくれたイエス・ファンの女の子がいました。送り主の住所が私の母の出身地である伊勢だったことに親近感を持って返事を書いたら、丁寧な返信が来ました。それからなんとなく文通のような感じになり、その後私があまりイエスを聴かなくなってしまってからも、手紙のやりとりだけは続きました。そんなに頻繁な行き来ではなく、途中半年、いや一年近い空白もあったように思います。

4年の間に私は社会人になりました。都内の録音スタジオでエンジニアとして働き始めた頃、その文通相手から、一人で東京に遊びに来ると書かれた手紙が来ました。
実は私は相手の年齢を知りませんでした。文通相手は年齢や職業を証していなかったからです。その文字や文体から同世代よりは少し下だろうとは思っていたのですが、手紙で高校二年生だと知った時はビックリしました。最初に手紙を貰った年齢を逆算すると……えーっ!? って感じです。

都内を案内する約束をして、品川駅で待ち合わせました。
携帯もポケベルもない時代でしたから、自分の特徴と服装を伝えて、相手に見つけてもらいました。こちらはひげ面の兄ちゃんでしたから、たぶん声をかけるのにかなり勇気が必要だったと思います。
今と違って、当時は芸能人やアスリートの住所や電話番号も事務所に訊けば教えてくれるそんな平和な時代でしたが、私がロリコン誘拐犯じゃなくて良かった。(苦笑)

初めて会った文通相手は、映画に出てくる森七菜ちゃんをシャイにしたような可愛い子でした。
もし5年分時計を巻き戻して自分を17歳にしても、もっと擦れていたというか、ずっと大人びていたし、都会育ちの自分の周囲にはそんなピュアな高校生はいませんでした。
この子に比べて自分はなんと穢れているんだろう……と、一緒に歩いていて感じる違和感。
その時の私は、他人が見たら地方から出てきた無垢な少女を悪い輩が騙して連れ歩いているように見えるのではないか? と人目を気にしていたのかもしれません。
お店に入っても会話は途切れ途切れで、終始居心地の悪さは拭い去れず、急に仕事が入ったと嘘をついて、案内する予定だった場所の行き方を書いたメモだけを渡して早めに別れました。
後日、丁寧なお礼状を頂きましたが、とうとうその返事も書かないままに文通は終了。自分はなんて酷いベンフレンドだったのでしょう。

十七歳とわかって交際していたら(今なら)犯罪になっていたかもしれませんが、私が冷たくあしらったことで、少女のピュアな心を傷つけてしまったのではないかと、もう少し大人になってから猛省しました。

映画の話より私の思い出の方が長くなってしまいましたが、手紙とか文通というと、ついそんなほろ苦い記憶が蘇ってきてしまいます。


老人は死なず、青春時代の思い出は苦く切ないことばかり
(2022.8.9)
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