第30談 シトロエンの話(2)

文字数 3,883文字

おはようございます。

今日は昨日に続き「シトロエンの話」その2です。

その前に、封印したオリンピックの話を一つだけさせてください。
昨日の男子サッカーは、フランス相手に4-0の快勝!
日本は参加チーム唯一の全勝でグループリーグ突破です。
オリンピックはワールドカップを主催しているFIFAと無関係なため、フランスでは派遣拒否したクラブも多く、FIFAランク世界2位のA代表とはずいぶん差がありますが、それでも日本がここまで快勝するとは思いませんでした。
これから決勝トーナメント。まだまだ先がありますが、オーバーエイジ枠のベテランの強さに、若手の巧さ……これからも楽しみですね。

さて、昨日のサッカーは日本に敗れましたが、ここからまたフランスのクルマの話になります。
かなり長いので覚悟してください。でも昨日の女子柔道70キロ級の準決勝を見た方ならきっと大丈夫です。(笑)

「10年進んだ車を20年間作り続ける」と言われたシトロエンは、その先進性故に開発費が経営を圧迫し、幾度か倒産の危機に直面します。
1934年にはタイヤメーカー(であのガイドブックの)ミシュランの傘下となり、1976年にプジョーに主導される形でPSAプジョー・シトロエンとなりました。
現在はかつての車名から独立した新ブランド"DS"を加え、プジョー、シトロエン、DSと三つのブランドで構成されるPSAですが、昨年からフィアット・クライスラーと経営統合された新たなグループ企業ステランティスの一角となります。

シトロエンはモータースポーツ、特にラリーでの活躍も特筆すべき点ですが、これを書き始めるとキリがないので、今日は現在の日本でのシトロエンと私の愛車のことを書きましょう。

シトロエン独自のハイドロニューマチック・サスペンションのことは前回のDSのところで説明しました。各車輪(のサスペンション)にスフィアと呼ばれる窒素ガスとオイルで満たされた球体が装着されていて、エンジンをスタートすると高い圧力でスフィアにオイルが送り込まれ、沈み込んでいたボディがムクムクと浮き上がってくるんですよ。その様子はまるで生き物みたいです。
この油圧と空気による「魔法の絨毯」のシステムは、DS以降も、SM、CX、BX、XM、エグザンティア……と次々に受け継がれ、その最後の子孫がC6と先代のC5でした。因みにフラッグシップのC6は、椎名林檎や宇崎竜童をはじめアーティストや芸能人にオーナーの多いクルマです。
しかし、複雑なシステムは製造にもメンテナンスにも費用がかかるため、先にC6が製造を終え、ハイドロ最後の車種となったC5も数年前に製造中止となって、現在のシトロエンにはもうハイドロニューマチック・サスペンションを採用する車種はありません。

今のシトロエン各車のプラットフォーム——エンジン、トランスミッション、サスペンションなどの基本構造——は、一部の車種を除いてプジョーとまったく同じです。しかし、ボディやインテリアなどのデザインだけでなく、その乗り味はプジョーとはまったく異なります。
「一部」と書いたのは、C5 AIRCROSSという最新のSUVに採用された「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション」というシステムが「魔法の絨毯」の乗り心地を再現しているとシトロエンが謳っているからです。
しかし、そうしたシステムを持たない他のシトロエンの車種はどうかというと、これが「魔法の絨毯」とまではいかなくても「不思議な絨毯」とでも形容したくなるほど絶妙な乗り心地を持っているんです。
そうした乗り味の違いでブランドの棲み分けを実現できる欧州の自動車メーカーの技術は素晴らしいと思います。

ピカソ財団との契約が切れて「C4グランドスペースツアラー」と車名変更しましたが、私の愛車「グランドC4ピカソ」も殆どの部分をプジョー5008と共有するミニバン。しかし、少し堅めでスポーティーなプジョーと違って、乗り心地はとてもソフトでしなやかです。にもかかわらずコーナーでは足(タイヤのこと)がしっかり路面に吸い付いて、まったく不安がありません。
碓氷峠をそこそこのペースで走っても家族全員がスヤスヤと眠っていたと言えば、その乗り心地を想像して頂けますでしょうか?


(愛車のグランドC4ピカソ)

シトロエンは高いクルマではありません。
それに日本では、フランス車はドイツ車に比べて人気薄なために新車に比べて中古車がすごく安いんです。なぜか日本でだけ人気の高いルノー・カングーはその限りではありませんが。
それだけに手放すときの下取り価格も安い訳ですが、乗り潰す勇気さえあれば怖いものなし?

3年半程前のこと。私はプジョーを2台乗り継いだ後、広島産の欧州車と思ってオーナーになったマツダのデミオ(現在のマツダ2)に乗っていました。
実は、グランドC4ピカソには発売当初から憧れていて、何度か試乗していましたが、愛車のプジョー308を下取りに出しても金額的に手が届かなかったために諦めました。その後目眩の病気をきっかけに一度運転を諦めてプジョーを手放してしまったために、リハビリ後は、維持費のかかる輸入車を家族に反対され、経済的なディーゼルのデミオを購入したのです。ところが、急に腰の具合が悪化して背の低いクルマへの乗り降りが億劫になってしまったため、デミオの初回の車検を機に背の高いミニバンかSUVに乗り換えることにしました。
そんな時に登録3年で走行2万キロ以下のこのクルマをディーラーの認定中古車サイトで見つけ、交渉の末に年末の決算期ということで50万円近く値引きしてもらい、車検に2年の延長保証を付けて乗り出し195万円で入手しました。決算期に在庫を捌きたいディーラーは交渉次第で中古車も値引きしてくれることがありますが、新車は400万を超えるので軽く半額以下。さすがに中古車相場より100万円近く安かったので他のディーラーも驚いていました。
同じ3年めでしたが、私のデミオは4万キロ近く走っていたため、フル装備とは言え下取りだと70万円程度。そこで下取りには出さず、80万からスタートして交渉7店目の大手中古車ディーラー(大きな発動機w)に145万円で買い取ってもらうことが出来ました。手放すタイミングとちょっとした交渉術で中古車の買い取り価格は倍くらい変わります。
と言うわけで、憧れのグランドC4ピカソにプラス50万で乗り換えることが出来た訳です。新車だとピカソはデミオの倍近い価格帯。更に同じ3年でも走行距離は半分になったので、ちょっとしたわらしべ長者ですね。

グランドC4ピカソは、過去に試乗したもう少し高いクルマ(AUxxとかBMxとかVOLxx)より遥かに快適で満足しています。インテリアデザインやシートの座り心地は絶品ですし、自動車文化検定1級という自動車オタクの証明書(?)を持つ私も、今はこれが自分にとって終のクルマかな——と思うほど気に入っています。
街乗りの燃費はそこそこ(8~11km/L)ですが、遠出すると軽く15〜6km/Lは走ります。まぁ、ハイブリッドとは勝負になりませんし、欧州車の常でガソリンはハイオク指定ですが、この車種、実は後発のディーゼルエンジンの方が日本では売れてます。多少高くなってもディーゼルの方が経済的ですしね。

背の高いミニバンにも関わらず、その気になればかなりのペースで峠を攻められます。目眩の病気の後遺症がある私はやりませんけど。
3列目のシートまで使えば7人乗り。3列めはちょっと窮屈で小柄な人以外の長時間乗車は厳しいですが、2列目は3座独立なので、5人なら超快適に過ごせます。
2列目3列目のシートはフルフラットに出来るため車中泊にも最適で、グラスルーフを全開にすると満天の星の下で最高の睡眠が得られます。


(2列目3列目のシートを収納するとセミダブルサイズの空間が生まれます。)

(車中泊一人旅の時の室内)

シトロエンは、斬新で個性的なデザイン。クッションがしっかりした座り心地に優れるシート。スムーズでソフトな乗り心地。ただソフトなだけでなく腰がありスポーツドライビングも楽しめる足回り……そういった点が評価されて、日本国内ではコロナ禍で一気に売上を伸ばした珍しいブランドです。


(2年前から日本に導入され一番人気のベルランゴ 実はその歴史はライバルのカングーよりちょっと古い)


(一番手頃なC3は新車で税込み230万円台から)

どうです? ちょっと欲しくなってきましたか?
興味があったら一度お近くのディーラーで試乗してみてはいかがでしょうか。
このクルマをまったく知らずに人生を終えるのは勿体ないと自動車オタクの私は思います。

今は全車右ハンドルです。
ウィンカーとワイパーが国産車とは左右逆なことやガソリンがハイオク指定なことはVWやフィアットなど他の欧州車と同様ですが、お望みならディーゼルだけでなくハイブリッドやEVもあります。もし買うなら決算期に。ディーラーの試乗車など走行距離が少なくしっかり保証の付いている認定中古車がお薦めです。そして延長保証は必須かも……。

実はちょっとだけハードルがあります。
当たり外れもあるので、ほとんど遭遇しない方もいらしゃいますが、国産車ではあまり経験しないマイナートラブルに目を潰ることさえできれば……"La Vie en rose"シトロエンは人生を豊かにしてくれる最高のクルマだと思いますよ。(笑)

老人は死なず、この一年故障知らずの愛車に安堵の溜息をつくのみ
(2021.7.29)
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