第44談 最近買った3枚のCD

文字数 3,858文字

(いつもよりちょっと遅いですが)
おはようございます。

最近買ったCD3枚を並べてみました。



1枚は、第37談で話題にしたブーレーズ指揮ニューヨーク・フィルのストラヴィンスキー「火の鳥」です。
LPレコードを納戸から出しても再生が出来ないので、CDを買ってしまいました。昨日届いたばかりですが、なんと1,000円(Amazonで税込み1,090円)でした。
LP時代の名盤が安く変えるのは良いことですね。20bitマスタリングと銘打っているCDがどの程度「良い音」かはわかりませんが。

もう1枚、ガル・コスタの『インディア』も1,000円ですが、かなり前に発売された物なので中古品以外は少々高く、新品を1,840円で購入。
このアルバム、私にとっては曰く付き。昔FMで気に入って何曲かエアチェック(ラジオの放送番組を録音すること)し、アルバムを買おうとレコード店に向かったのですが……そのジャケットを見て立ち竦んでしまい、買いそびれてしまったのです。
ブラジルの歌姫ガル・コスタ自身がインディオの娘に扮したそのビジュアルは、10代の(純情だった?w)私に購入を躊躇させました。当時たまに(偶にですよ)見ていた『週刊プレイボーイ』とか『GORO』のグラビアはもっと過激(と言うほどでもなく今見たらソフトですが)だったはずなのに、なぜ買うことを躊躇したのか今更ながら不思議に思います。(苦笑)
大人になった今ならどうってことないのですが、ガル自身は裸になる必要がないほど売れていた人だったので、きっとレコード店の店頭という意外な場所で衝撃を受けたのでしょう。
どうでもいい話のようですが、LPの時代にジャケットは大きな意味やメッセージ性を持っていました。それだけに、28歳にして8枚目のこのアルバムのビジュアルは彼女の強い意思の表れだったのでしょう。何曲かは記憶にありますが、全曲聴くのは初めてなのでちょっとドキドキです。

そして最後の1枚。ミシェル・ペトルチアーニの"Michel Plays Petrucciani"は輸入盤で、この人のCDを買うのはたぶん12枚目か13枚目。
ミシェル・ペトルチアーニはフランス出身の天才ジャズ・ピアニストです。
知らない方に説明するときに、「ビル・エバンスとキース・ジャレットとチック・コリアを足して3で割らない」と冗談っぽく説明するミシェルは、1999年に37歳の若さでこの世を去りました。しかし、デビューしてからの十数年間に30枚以上のリーダーアルバムを残していったため、まだ私のコレクションはその半分にも届いていません。1980年代のデビューなので、私が持っているのは全てCDで、他にライブのDVDとドキュメンタリーのブルーレイがそれぞれ1枚あります。
この人は存在自体が奇跡なので、いずれゆっくりお話ししたいと思います。
この日記で話題にするか、noteに書くかは新たに私のアドバイザー兼プロデューサーに就任した長女に相談することになると思いますが。(笑)

さて、これからこのアルバムたちをどう調理するか?
「火の鳥」だけは圧縮せずに(WAVEかAIFFで)取り込んでMacで再生すれば、TASCAMのオーディオ・インターフェイスからコンパクトなモニターピーカー……といういつもの環境で、それなりの音で再生できるでしょう。
あとの二枚はできるだけ劣化の少ない圧縮音源にして取り込むことになると思います。

通常、私たちはPCやiPhoneでは、CDなどのデジタル音源を更に圧縮した(つまり音質の低下した)ファイルで音楽を聴いています。一度機会があったら圧縮せずに取り込んで聴いてみてください。その方法はnoteの方に説明しようと思いますが、ヘッドフォンで聴いてみればかなり違いがわかるはずです。

オーディオを(昔)専門にしていた私は、よく「(アナログ)レコードとCD、どっちが音が良いんですか?」と質問されました。
これが「カセットテープとCD」と聴かれたら、私は「ごく一部の例外を除いて圧倒的にCD」と答えますが、LPとCDの比較になると悩みます。

LPレコードの良い点は、周波数特性(一番低い音から一番高い音)や、ダイナミックレンジ(無音から最大の音までの音圧差)の限界がCDほどはないこと。とは言え物理的限界があるので、最終的にマスタリングと呼ばれる仕上げ作業でそこそこのところに収めなければ鳴りませんし、そもそも再生装置が良くなければ(お金を掛けなければ)耳に届く前に大きく損失します。
その一方で、悪い点はノイズと歪み。
スクラッチノイズはパチパチとかプチッと鳴る(これを懐かしむ人もいますね)嫌なヤツです。そして電気的なサーッと言うノイズもアナログ録音時代のテープ(特殊な場合を除いてLPレコードのマスター音源はテープ)に記録されていました。
そして、これも再生装置に依存しますが、音量が大きくなると歪みが多くなり聴くに堪えない音になります。

一方でCDは、アナログの大敵であるノイズから解放されています。そして、安い再生装置でもそれほど歪むことなく、そこそこのハイファイ音質で聴くことが出来ます。
CDは音が硬いとか、レコードは音質が艶やかだとか、それを云々できるのはかなり良い再生装置でないと判りません。
その意味で私は、オーディオマニアではない普通の音楽好きにハイファイ音質を届けたCDは革命的だったと思うのです。

ただCDは、どんなに頑張ってハイレゾ音源でマスタリングしても、容れ物の大きさが決まっているので「そこそこ」の音質で我慢することになります。
それが44.1kHz/16bitという規格。
44.1kHzはサンプリング周波数と言って再生される音はその半分以下になります。
人間の可聴帯域は最高20kHzまでだから22.05kHzで十分だろうと思うところですが、実はその限界部分での信号の有無は倍音成分に大きく影響するために44.1kHzでは不十分で、これをもっと高くすると確実に音質は良くなります。
CDの規格を策定する際に「カラヤンが第九の全曲を1枚のCDに収めるために44.1kHzを選んだ」という逸話があります。
当時デジタル録音をする際に使用されていたVTR(アナログの映像を記録する代わりにデジタル化した音声信号を記録した)の規格に基づく技術的問題で、今で言うハイレゾ音源のような96kHzとか192kHzなどは到底不可能でした。ましてCDは先にサイズが決まったので、その頃のデジタル化技術では収める信号の量に限りがあります。パソコンのメモリーがメガどころかその千分の一の数キロバイトで数万円していた時代です。そこで、48kHzにして60分以内に留めるか、音質面で若干不利でも44.1kHzにして60分以上の収録を可能にするかの判断を開発者達は迫られたわけですが、最終段階でカラヤンのアドバイスを参考に、音質よりも収録時間を選んだ事実はあったようです。

因みに16bitというのは音声信号をデジタル化する際の情報量で、2の16乗……つまり65535までの整数値で切り刻まれた信号ということになります。これを充分と見るかどうか。
階段状に刻まれた連続しない音声信号は、一部分を拡大すれば不自然に見えます。
スタジオなどのプロオーディオの環境で聴いたらその音質の不自然さは、きっと専門家でなくてもわかりますが、カーオーディオやスマホなど通常の再生環境で判別するのは難しいでしょう。

CDが生まれた時点ではそれで充分と思われていましたが、開発した当時に妥協を強いられたフィリップスやソニーの技術者達は満足していませんでした。
後に同じサイズのコンパクトディスクにより多くの情報が収めらるDVDが生まれた時、CDより遥かに音質が良いスーパーオーディオCDが生まれました。リニアPCMではないΔΣ変調による低bit高速標本化方式による1bit 2.8224MHz……なんて話は割愛します。
音質だけでなく、収録時間も4時間を超えていたため、1999年に製品化された当時はCDに代わるものとして普及が期待されたのですが……。
残念ながら全く普及しないまま今日に至ります。

と言うわけで、仮に「192kHz/24bitハイレゾマスタリング」なんて書いてあったとしても、「火の鳥」に20bitマスタリングなんて書いてあっても、それはマスターの音源の話で、CDには44.1kHz/16bit以上の信号は入れられないため、CD規格のふるいに掛けられた信号以上の音は聴けないわけです。
実は元の音源が良ければ、ふるいに掛けられた音でも多少(場合によっては明らかに?)良く聞こえるのですが、それはまたの機会にしましょう。

そんな訳で、今はごく普通のPCベースの再生装置しか持っていないうえに、私は加齢のせいで12kHz以上の音が殆ど聞き分けられないので、CDで充分かもしれません。
最初のCDの発売が1982年。件のカラヤンは当時74歳ですから、加齢で聴覚が劣化していて44.1kHzと48kHzの差が聞き分けられなかった……なんてこともあったのかもしれませんね。(笑)

CDの音楽の話をするはずだったのに、なんだか朝っぱらからテクニカルな話になってしまいました。(笑)
これ、プロデューサーから見たら「noteで発信する話題」だったかもしれませんね。


老人は死なず、音質に拘るより手軽さに慣れてしまった今の自分
(2021.8.12)
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