第6談 文字組み(字下げと縦組み )の話

文字数 2,856文字

おはようございます。
映画の話題が続きましたが、今日はガラッと趣向を変えて字下げと縦組みの話。

書き手の方は皆さんご存じでしょうけれど、読み専の方には判らない方もいらっしゃると思うので簡単に説明します。
「文字組み」とは、分かり易く言うと文書のレイアウトやデザイン。出版には欠かせないもので、選んだフォントのサイズやベースラインを調整し、さらに行間や字間をバランス良く調整して読みやすく美しい文章をレイアウトする作業。カーニング、文字送り、文字詰め……など様々なテクニックがあります。新聞や雑誌でお馴染みの段組のように段落をブロック単位でレイアウトする技もありますが、何れもテキスト表示がOSやブラウザーに依存するWEBでは限りがあります。
その中で、WEB上のテキストでも簡単に実現できる「字下げ」は段落頭を下げること。日本語の場合は行頭を一文字分下げるのが一般的です。
「縦組み」は、文字の流れを縦方向に並べるレイアウト。要するに縦書きです。通常のブラウザーでは表示できないのですが……。

字下げは通常の欧文テキストではあまり使いませんが、ワープロソフトやテキストエディターにインデントがあるように、論文やプログラムソースでは必須です。
一方、日本語の文章は「」などの約物(記述記号類)を除き、全ての段落で先頭を全角一文字分(微妙に違うことも)下げるのが約束です。

例文を挙げると……
 四回目のデートで初めてのキスをしたとき、ナオの唇は震えていた。
「わたしたち友達じゃなかったの?」とナオは言った。
(加藤猿実『エイリアンズ』「プロローグ」より)

一方で、この『夢老い人の独り言』は字下げをしていません。
それで、連載6回目にして、やはり字下げした方が良かったかな? と悩んでこんな話題になった次第です。

以前に原稿の校正のようなことをしていたことがあります。
商業誌ではなく企業の社内報のような限定された出版だったので、専門の校閲担当はいません。PDF入稿のフライトチェックをしていた私が急遽校正を担当することになったため、専門外だった私は慌てて専門書を読み漁りました。
確かその頃は、印刷物は行頭を必ず一文字下げ、一方WEBでは下げないというルールだったように思います。

それから十年以上になります。
短めのメッセージ——例えばNOVEL DAYSでも、事務局からのお知らせなどは字下げされていませんが、インターネット上のニュース記事はどうなんだろう? と思い、WEBニュース系サイトを覗いてみました。

意外と字下げされているケースが多いですね。

WIREDやHUFFPOSTのように海外系のメディアや、NHKニュースのように放送系のメディアが発信元の場合は字下げしていないサイトが多いですが、例えば新聞社発信のニュースや、海外発でもCNETJapanのように新聞社系(朝日新聞)から発信されているものは殆どが一文字下げられていました。Yahoo!ニュースもそうです。

う〜〜ん、ますます悩みます。

次に縦組みについて。
通常横組み表示のWEBブラウザーは置いといて、先ずは出版物で考えます。と言うのは、以前に関わっていた出版物が横組みだったからです。
日本語の本は縦組み……と思っている方も少なくないと思いますが、雑誌には意外と横組みも多いのです。
論文を掲載する医学薬学系・物理化学系はもちろん、建築雑誌でも最大手の『新建築』や『日経アーキテクチュア』は横組みです。でも、意匠系(デザイン系)の建築雑誌には縦組みも少なくないようですね。
写真やビデオでは、『コマーシャルフォト』や『ビデオサロン』は横組みですが、歴史ある『アサヒカメラ』(残念ながら去年コロナ禍で休刊)や『CAPA』はじめ縦組みも少なくありません。しかし、カメラの大半がデジタル化した今、今後縦組みの雑誌は減っていくのではないでしょうか?
自動車雑誌を見てみると、老舗『カーグラフィックス』は1960年代の発刊当時から横組みですし、『カーマガジン』など輸入車中心の雑誌は横組みが多いですが、歴史ある『モーターファン』や『オートスポーツ』はじめ縦組みの雑誌の方が数多く見られます。『ベストカー』も縦組みですね(講談社さん、公式サイトの書籍紹介、『ベストカー』のリンク先が、BCキッズ「はじめてのはたらくくるま英語つき」になってますよ?)。

では、IT系はどうでしょう? これは圧倒的に横組み……と思いますよね?
当然プログラマー向けの雑誌は殆ど横組みですが、パソコン雑誌では面白い現象が起こっていました。
かつてMacユーザー向けの雑誌が何冊も発刊されていた時代、その殆どは横組みでしたが、『マックファン』だけが唯一縦組みで個性を放っていました。
ところが、いつの間にか数多あるMac雑誌は次々と休刊・廃刊に追い込まれ、今は縦組みの『マックファン』だけが唯一残っている訳です。

半角英数のデータが多いIT関係や、自動車の諸元データを取り上げる自動車雑誌は、部分的に横組みを併用してレイアウトしたり、流れを不自然に見せないためにタイトルを横組みにしたりと、誌面のレイアウトにはずいぶん苦労の跡が見えます。

さてWEBですが、NOVEL DAYSのビューワー設定には「縦組み」が用意されているので、私のように小説は縦組みで読みたい人にはとても有り難い。
と言うわけで、私はPC(Mac)のブラウザーは縦組みに、スマホ(iPhone)は横組みに設定しています。縦組みの方が「本を読んでいる」気分に浸れるからです。でも考えてみたら、持ち運ぶスマホを本の代用品と考えると、PCとスマホ、逆の方がいいかもしれませんね。

私は頭が固いせいか、「小説は縦組みで行頭を字下げ」「日記やブログは横組みで字下げなし」と自分に課したルールが最近足枷になってきています。

そしてもう一つ問題が。
縦書きを想定すると、組文字が使えないWEB上では数字やアルファベットは全角でないと不自然になります。かと言ってあまり長い数字やアルファベットを全角で並べるのもかっこ悪い。では漢数字を使うと? 内容によってはますます不自然に見えます。
横組みで読んだ時に「二〇二一年十一月iPhone13Proが発表された」なんて書いてあったら「なんじゃこりゃ?」って思う人もいますよね。

とは言え、「この作品は縦組みで読んでください」とか「ビューワーを縦組みに設定している方はこの記事を読むときだけ横組みに変更してください」なんて読者に押しつけるのはちょっと失礼ですよね。

などと悩みながら、これは小説じゃなく日記だから「横組みで字下げ無し、英数文字は半角」というポリシーは曲げずに行こう……と思ったら、すでに第1談から全角半角が混在してました。(苦笑)

あぁ、どうしましょう。
みんなそんなに気にしてませんよ……なんて声も聞こえてきそうですが。
もうちょっと考えてみます。

本日は長い文章を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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