第74談 最後まで諦めない強い意志に勝利の女神は微笑む

文字数 3,388文字

おはようございます。

この雑記もほぼ一ヶ月ぶりになってしまいました。
長いこと更新していなかったために、もはや日記ともブログとも程遠い物になってしまいましたが、身辺が少し落ち着いてきましたので、少しずつ書かせていただこうかと思います。

ということで、久々のテーマはF1グランプリです。
日本ではCS放送のフジテレビNEXTか、オンラインスポーツ配信のDAZN(ダゾーン)の有料でしか観ることができないマニアックなモータースポーツになってしまいましたが、コロナ禍で大幅に縮小された昨年から復活を遂げた今年2021年は、実に見応えのあるシーズンとなりました。

史上初のオランダ人チャンピオンを目指すマックス・フェルスタッペンと、今年チャンピオンを獲れば史上最多の8度目の王者となるイギリス人ルイス・ハミルトン。
二人は、かつてのアイルトン・セナvs.アラン・プロストに匹敵するか、それ以上のモータースポーツの歴史に残る死闘を最後の最後まで繰り広げ、昨日全てのスケジュールを終えました。
マックスとルイスは何度もシーソーゲームを繰り返し、今シーズンの最終戦となったUAEのアブダビGPを前になんと全くの同ポイントに並んでいました。
つまり、どちらか先にゴールした方が今年のチャンピオンになるということ。
詳細は、そして最後のドラマはインターネットで検索すれば沢山ヒットするはずですから、興味のある方は読んでみてください。

日本時間で昨日の午後10時から手に汗握るスタートを見守っていた私は、運転免許証のない17歳でF1デビューしてしまったために「その国の自動車ライセンスを所有し、かつ18歳以上であること」とF1のレギュレーションを書き換えさせてしまった若き天才マックスを応援していました。
二度のチャンピオン、フェルナンド・アロンソが言うように、今年のドライバーの中でマックスは一人他とは違う異次元の才能を示していました。ちょうど亡きアイルトン・セナがそうであったように。

しかし、引退したら俳優になると噂される黒人初のF1レーサーにして史上最強のチャンピオンであるルイスも、長年最強マシンの呼び名を欲しいままにしてきたメルセデスも、易々とその座を譲りはしません。

F1は同じレギュレーションの下で、各メーカーが競ってそれぞれ独自のマシンを用意する、ハイテクの道具を使用する競技なので、マシンの性能に大きく左右されます。
全く違うコンストラクター(メーカー)が開発したマシンなのに、世界トップクラスのドライバーたちがハンドルを握り、一斉に走り出すとトップチームはコンマ何秒の差に並ぶのは不思議ですが、しかしそんな中で、マックスがドライブするレッドブル・ホンダは、ここ数年無敵を誇ったメルセデス(ベンツ)のマシンと互角に渡り合うまでに強くなっていました。
かつては大きな差があったホンダのエンジンパワーも最後の年に追い付き、シーズン途中は追い詰められたディフェンディング・チャンピオンのルイスにミスが目立ち、マックスの方が余裕があるようにさえ見えました。
しかし、後半にリードを得るとマックスも荒っぽいドライブでそれを死守しようとする姿が見られるようになり、最後の数戦でチャンピオンチーム、メルセデスはマシンの熟成を成し遂げ、天才マックスをもってしてもルイスの連勝を阻止することが出来ず、9対8と優勝回数で勝るマックスが1位をキープしてはいましたが、二人は共に369.5ポイントと全くの同点に並んだわけです。


泣いても笑ってもこの一戦で全てが決まる。
今年で引退するホンダにとっても最後のレース。
そしてマックスはポールポジションを獲得し、ヤス・マリーナサーキットでの過去数戦はポール・ポジションからの優勝がほとんど。
しかしタイヤはルイスが優位。

そのスタートで、マックスは痛恨のミス。
2位スタートのルイスは、トップに躍り出ると追うマックスをどんどん引き離しにかかります。
メルセデスのマシンは安定して速く、双方ともにタイヤ交換を行ってもその差は広がるばかり。
先ずは、タイヤ交換を行っていなかったためにトップに留まっていたマックスのチームメイト、セルジオ・ペレスが鬼神の走りでルイスをブロックし、ルイスとマックスの差を僅か1秒にまで縮めます。

しかし、それでもその差はじわりじわりと広がっていく。そのままでは勝ち目がないと考えたレッドブルチームは、二度目のタイヤ交換を行います。
新しいタイヤで20秒近く先行する先頭のルイスを追いかけ、追い付き追い抜くという作戦は、速いマシンを駆る無敵の王者に勝つための「奇策」にさえ見えました。

実際、レース終盤になっても10秒前後の差はなかなか縮まらず、マックスは万事休す……に見えました。
レースを見守る人々も、おそらくエンジンを開発していたホンダさくらのスタッフも、もう今年のチャンピオンはルイスで決まりか……と諦めかけていたかもしれません。
しかし、サーキットにいるマックスもレッドブル・ホンダのスタッフも最後の最後まで諦めてはいませんでした。

そして、ドラマはレース終了間際に訪れます。
皮肉にもメルセデスがエンジンを提供するウイリアムズ(先日創始者が他界した名門チーム)のニコラス・ラテフィがクラッシュし、壊れたマシンと散らばったパーツを回収するまでの間セーフティーカー先導となります。
その間にマックスはチャンスを生かし三度目のタイヤ交換で新品のソフトタイヤに交換。
一方のルイスとメルセデスチームは、首位のポジションを守るために古いタイヤのままコースに留まります。

通常、セーフティーカー先導は周回遅れを先に行かせて順位通りの隊列を作ります。そのためにルイスとマックスの差は殆どなくなってしまうはず。
これはマックスが有利と思ったら、なんと! コースのコンディション確保に時間がかかるため、周回遅れのマシンはそのままでレースを再開するというアナウンス。
再スタートは、ゴールまで残り1〜2周のタイミングになることは確実。
いくら新しいタイヤを履いたマックスでも、ルイスを抜く前に何台もの遅いマシンを追い抜かなければならないため、逆転勝利はもはや絶望的とも思えました。

ところがギリギリのタイミングで、FIA(国際自動車連盟)のレーススチュワード(審査員)は、通常のセーフティーカーランと同じように周回遅れを先に行かせて隊列を戻す判断を下します。

再スタートとなったラスト一周、直前まで優勝を確信していたルイスは為す術もなくマックスに仕留められ、マックスは劇的な逆転優勝で初のチャンピオンに輝きました。
メーカーやチームが対象になるコンストラクターズ・チャンピオンシップこそメルセデスに獲られましたが、ホンダもドライバーズ・チャンピオンシップはマクラーレン・ホンダ時代にアイルトン・セナが獲得した1991年以来となるチャンピオンで有終の美を飾りました。
結局は一番速いマシンがコンストラクターズ・チャンピオンとなり、一番速いドライバーがドライバーズ・チャンピオンとなった訳です。

それにしても最終戦は、最後のクラッシュとセーフティーカーがなければ、99%、いや99.9%優勝はルイスの手中にあったはず。
レース後に、メルセデスは最後の2周を無効として異議申し立てを行いましたが、棄却されてマックスのチャンピオンが決定しました。

たとえ絶望的に見えても、出来ることは可能な限り試みる。そして最後の最後まで絶対に諦めない。
一見棚ぼたに見える最後のドラマも、マックスとレッドブル・ホンダの執念が手繰り寄せた幸運だったと私は感じました。


さらに、この最終戦でもう一つ嬉しいニュースが。
その才能を世界中から賞賛されながら今年F1デビューしたものの、周囲の期待値と自身の経験の浅さのギャップに苦しんできた角田裕毅が、この最終戦では終始安定した走りで予選8位から4位に入賞し、F1のフィールドで初めてその実力の片鱗を世界に示しました。
角田のマシンはアルファタウリ・ホンダ。
そう、去年開催中止になったモナコGPまでの幻の2020年F1前半戦を描いた拙作『リトルウィング』で主人公タクが駆るマシンです。

久々に長くなりました。


老人は死なず、絶対に諦めない強い意志に勝利の女神が微笑むことをこの歳にして噛みしめる朝
(2021.12.13)
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