第80談 Coda あいのうた

文字数 2,487文字

(ちょっと遅めの)おはようございます。

目の怪我は医師も驚く驚異的な回復を見せ、自動車の運転も映画鑑賞もOK(というのは私の早合点と後に判明)になり、一昨日は映画館に行ってきました。
一瞬とは言え片目の失明も覚悟したので、こうして映画を観ることが出来るのは感謝ですね。

と言うわけで、第80談になる今回は大好きな映画の話題です。
クリント・イーストウッド監督・主演の『クライマッチョ』も気になっていたのですが、予告やラジオの紹介でなんとなく先が見えていたので(苦笑)、去年オンラインで開催されたサンダンス映画祭で話題になった表題作『Coda あいのうた』を観てきました。
実はほとんど先入観や予備知識なく観ました。
8年前のフランス映画『エール!』のリメイクで、舞台をフランスの片田舎からアメリカの片田舎に移し、農家を漁師の家庭に移した作品ということだけは知っていましたが、オリジナルの『エール!』も観ていませんし、知っていたのはサンダンスで話題になったことだけ。

家族全員が歌や音楽を理解できない聴覚障害——障害という言葉を嫌う人も多いのでこれ以降は「ろう者」と書きます——の家に生まれ育ち、高校に通いながら家族の耳や口となって漁師の仕事を支える健聴者の娘ルビーが主人公。
因みに、Coda=コーダは楽章の区切りを表す音楽記号のことですが、この映画のそれは"Child of Deaf Adults"=「ろう者の親を持つ子供」の意味だそうです。

よくあるハリウッドリメイクと思いきや、とてもとても素敵な映画でした。完全なオリジナルではないのでオリジナル作品の『エール!』に敬意を表して☆4つ半。
実は観始めた最初の頃、エキセントリックな家族の性格や、音楽教師の個性的かつ自己中な設定から、もしかして感動ポルノかな?(苦笑)と思ってしまいましたが、ナチュラルで健気なヒロインには目が離せず、ついつい応援したくなってしまいます。そして、物語が進むにつれて彼女の家族たちにもどんどん親近感が湧いて、ろう者の世界を身近に感じるようになりました。これは自ら手話を覚え、役者たちとコミュニケーションを取ったという女性監督に一本取られましたね。

撮影当時17歳というルビー役のエミリア・ジョーンズは、ロンドン生まれの英国人だそうですが、ニューイングランドの漁師の街でろう者の家族を支え、戸惑いながら歌の才能を開花させていく少女を好演しています。
『愛は静けさの中に』で、当時21歳の最年少でアカデミー主演女優賞を受賞したマーリー・マトリンが母親役。彼女だけでなく家族役は皆ろう者の役者さんだそうです。私はNHKの「バリバラ」をよく見ますが、障害者の役は障害のある役者さんが演じるべき……と以前から思っていたので、この映画のあり方には強く共感します。

映画の舞台がマサチューセッツ州なので、目指すはボストンのバークリー音大。
バークリーと言えば、クインシー・ジョーンズや渡辺貞夫さん、上原ひろみさんなど錚々たる大御所の出身校として知られるジャズを中心としたポピュラーミュージック専門の音楽学校。今のバークリーはボストン音楽院も買収してクラシックも学べるようになりましたが、大学と専門学校が併設されています。
日本で「バークリーに留学した」というミュージシャンの多くは専門学校の方ですが、ヒロインが推薦されるのは音大の方。学費がめちゃくちゃ高いことで有名ですが、優秀な学生は奨学金で学費が免除されるアメリカなら実力に努力と根気と周囲の理解が伴えば進学は不可能ではありません。

余談ですが、劇中でメキシコ人の音楽教師が「ベーシストのラボリエルも同級生」みたいなことを言います。バークリー出身のメキシコ人ベーシスト、エイブラハム・ラボリエル(チャカ・カーンから松任谷由実まで幅広く活躍する個性的な名手)を思い出しましたが、現在74歳の彼は世代が違いすぎます。脚本も担当したシアン・ヘダー監督の洒落でしょう。

主演のエミリア・ジョーンズ。第二のエマ・ワトソン——エマ・ワトソンは素敵な女優さんですが、第二の〜は本人に失礼ですよね——と呼ばれる注目の若手女優さんだそうですが、まだ19歳ですから爺さんの私が知らなかったのは当然。
もはや娘と言うより孫を見るような感覚になってしまいますが(笑)、美人だけれど美人過ぎず(他の写真など見るとやっぱり美人です)、モデル体型のように痩せ過ぎてなくて(2年後の今は背も伸びてすっかりモデル体型になっているようですね)健康的なところがとても魅力的。そして何よりもこの映画のテーマである歌がすごく良い!
上手いけど上手過ぎず、自然な声質と表現力豊かな歌声は何度も聴きたくなってしまいます。
さらに、積極的に学び、オフでもろう者の俳優さんたちと家族のようにコミュニケーションしていたという手話も抜群……だと思います。私にはよく理解できないのが残念ですが、それでもなんとなく感じは判りました。

映画のクライマックス近く、バークリー音楽院のホールでオーディションに臨んだ彼女がジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」を手話を交えて歌うシーンでは泣かされました。
その場面を収めた予告編がYouTubeで公開されています。

https://www.youtube.com/watch?v=VJjvTcnPtJk&t=89s

現在上映中ですので、気になった方は映画館へどうぞ!

この映画、アップル・スタジオが2,500万ドルで落札していますので、劇場公開が終わってもApple TV+で視聴できるようになるとは思いますが、今劇場に足を運んでもきっと後悔はしないと思います。

ところで、今日は持病の股関節痛が悪化し、まだ完治はしていない目も休めなければいけないので、仕事は休ませてもらいます。
と言うわけで、小説の執筆はもう少し落ち着いてから。


老人は死なず、若くみずみずしい歌声に癒やされながら目を閉じる
(2022.1.27)

P.S.公開後に何箇所か誤字を見つけ、訂正を機に本文にもかなり手を加えました。
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