第88談 タイム・オンデマンド

文字数 2,619文字

こんばんは。
三日続いたので、久々に日記になってきました。

今日は3年前に京都アニメーション放火事件が起きた日。
そして2年前に俳優の三浦春馬さんが自らの命を絶った日。
今夜の読経の中で深く祈らせていただきます。

前回『ブック・オンデマンド』の時に書いた『リソース・オンデマンド』ですが、いきなりその話をする前に今回の標題「タイム・オンデマンド」について説明させていただきます。

先に書かせていただいた2年3年前の出来事や、元首相の暗殺事件のようについ先日の出来事は私たちもすぐに思い出すことが出来ますが、人の記憶は時間の経過と共に薄れていくもの。

インターネットが普及した今は、今日が何の日であったか、過去にどんなことが起こったか、検索すれば即座に判りますが、情報の真偽を精査するメディア・リテラシーも必要です。
すぐに調べることの出来る便利な時代になっても(なったからこそ?)、人の意識や関心は何かで喚起しない限り薄れていきますし、知恵や歴史は時代と共に書き換わっていきます。
仏教も口伝を尊びますが、だからこそ智を得た者が語り継いでいくことが大切にされてきたわけです。


以前、教育映画的な映像作品の制作に携わっていたときに、明治や大正、昭和初期といった比較的近代のことであっても、自分が生まれる前の出来事や風景は、書き残された書物や記録された写真や映像に頼るしかない——という状況に遭遇することがしばしばありました。
まだWikipediaもなかった時代、私はよく図書館を利用して、「その時代の人が、どんなことを話題にし、どんな物を食べ、どんな服を着て、何を愉しんだり、生き甲斐にしていたのか。そしてどんなことに悩んだり、苦しんだりしていたのか」を調べてはノートに書き綴りました。

昭和から平成に移り変わる頃、まだインターネットは遠い世界でしたが、当時のAppleのMacintosh(Mac)には標準でHyperCardというカード型のデータベースが付属していました。
それは単なるデータベースではなく、カード間をリンクさせることで無限の可能性を与えてくれました。
カードにはテキストだけでなく、画像を表示したり音声を再生したり、後にはQuickTimeという画期的な動画システムによってコンピューターの画面にビデオ動画を再生する機能までが追加されました。

そんなのインターネットでは普通のことでしょ? とZ世代の人は思うかも知れませんが、当時のインターネットはまだ一般人には縁遠く、パソコン通信はEメールや掲示板などテキストが中心で、写真画像さえ表示できなかったのです。

因みに今皆さんがホームページと呼ぶインターネットのWEBサイトを表示する技術は、他のテキストをリンクしたり、メディアを表示することを可能にしたハイパーテキスト言語HTML=HyperText Markup Language(ハイパーテキスト マークアップ ランゲージ)をベースにしていますが、これを初めて実現したのは、マックでもウィンドウズでもなく、Appleを追われたスティーブ・ジョブズが製造していたNeXTというワークステーション上でした。1990年のことです。
今のMacOSは、昔のMacとは全く違い、後にAppleに復帰したジョブズが持ち込んだこのNeXTのOSをベースにしていますが、横道に逸れるのでそれはまたの機会に。

そんな時代に私が考えたことですから、今なら根気と予算があれば実現可能とは思いますが。

先ず、地球の誕生から現在までの時間を、ビデオ映像システムのタイムコードのようにリニアな時間軸のデータにします。
放送や映画の映像業界には、1日の24時間を映像のフレーム(コマ)単位に分割したSMPTEタイムコードというのがありますが、私はそれを年月日まで拡張して46億年前からスタートするタイムベースを考えました。

その時間軸に、地球上の緯度経度や高度をベースにした三次元データを作成してリンクさせ、文字情報や、画像、映像、音声などのメディアを時間軸上で三次元的空間にプロットしていくのです。

それが「タイム・オンデマンド」です。

利用者は、画面に現れた日付のウィンドウに、xxxx年xx月xx日と目的の日を入力します。より細かい情報が必要な場合はxx時xx分と入力。
すると世界地図が表示されます。そこから知りたい場所にズーム・インしていくと、画面上にリンク可能な色分けされたピンが表示されます。
黒はテキスト、青は写真、緑は動画、赤は音声。
色分けされたピンをクリックすると、その時代、その場所のあらゆる種類のデータやメディアが表示・再生される——という訳です。

もちろん、テキストから検索することも可能ですが、大切なのは時間軸。
年月日などの時間を指定して、「望む時代」の「その日」の「世界」や「人々」を眼前に再現する「バーチャル・タイムマシン」のようなものをイメージしていました。

これがあれば、ドラマや映画の時代考証がものすごく楽になります。

残念ながら当時のデータベースでは音声や映像などのメディアデータを処理するのが困難でしたし、その頃のハードディスクはメガバイトが単位でした。そのため、私がこの案を説明した情報関係のスペシャリストからはこう言われました。
「それって、コンピューター内に図書館を作るってことじゃない? 実現するのにどのくらいの処理能力とデータ容量が必要だと思う? 少なくともハードディスクはペタバイト以上。処理能力はスーパーコンピューター並みの物が必要だよ。実現するのは21世紀になってからだね」

そのシステムを誰が構築し、誰が運用するか? 21世紀の今になっても答えは出ていません。
そりゃそうですね。アイディア自体を私の頭の中に仕舞い込んでいたのですから。

しかし、今の私の掌には当時のスパコンを凌駕する小さなスーパーコンピューター(iPhone)がありますし、クラウドを活用すればペタバイト単位のデータストレージも可能になりました。

今更作ろうと思わなくても、いずれWikipediaに時間軸のブラウズ機能が備われば実現するかもしれませんが。

「タイム・オンデマンド」の概念、なんとなくお判り頂けたでしょうか?

次回は「タイム・オンデマンド」を応用した「リソース・オンデマンド」のことを書かせていただきます。


老人は死なず、こうして昔の夢を語り続ける
(2022.7.18)
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