第89談 リソース・オンデマンド

文字数 2,307文字

こんばんは。
日記化して4日め!
はたしていつまで続くのでしょう?(笑)

さて、お約束の「リソース・オンデマンド」です。
前回「タイム・オンデマンド」を応用した……と書きましたが、昔の資料を見たら全く逆でした。
タイムコードの拡張を考えたのは1997年なので、1995年に提案した「リソース・オンデマンド」の方が先でしたね。
それが判ったら、いろいろ記憶が蘇ってきました。

この案をまとめたとき、かなり分厚い企画書になりました。200頁を越えていたと思います。
その全貌を伝えるのは難しい上に、UNIXマシンやネットワークやAIに関する当時の情報はすでに時代遅れになっていますし、実際の企画書は処分してしまったのでもう手元にありません。

と言うわけで、当時を思い出しながら専門的な言葉をなるべく省いて説明させていただこうと思います。

このアイディアを思いついたのは、ドキュメンタリー番組の制作用途でした。
例えば急に特番を作る必要が生じたとき、膨大なアーカイブから適切な素材(リソース)を限られた時間内に揃えなければなりません。
優秀なアシスタントがいたとしても、適切な素材を短時間で用意するのは大変です。優秀なアシスタントがいなければ、ディレクター自ら血眼になって探さなければなりません。
そこでAIの登場となるわけです。

しかし、AIは理解できる言語がないと処理できません。そこで、全てをテキスト化して、AIで処理できるようデータ化することを先ず考えました。

映像や画像であれは、そこに何が写っているか、あるいはその時の天気や撮影状況などのメタデータをデータベース化します。
音楽であればテンポや尺数や「明るい」とか「荘厳」とか「軽快」とか「ミステリアス」とかの特徴を、SE(効果音)であれば音源の種類だけでなく場所や季節や時刻や雰囲気、インタビューや語りのある動画であれば会話部分の書き起こしテキストを映像のタイムコードとリンクさせた状態でデータベース化します。

といった具合に全てをテキストとして検索できる状態にしておくわけです。
さらに、全ての素材には、その素材を生かすのに必要な「時間」をメタデータとして記録します。
これで、AIも素材を「理解(実際には分析ですが)」できるようになるわけです。

ユーザー(ディレクター)は、入力画面に「テーマ」「目的」「放送時間」「提供(ON-AIR)する日時」などを入力し、パーセンテージでセレクトできるバーを使用して、シリアスvsユーモア、癒やしvs警鐘……といった相反する傾向を指示します。

すると、AIがいくつかの番組サンプルを提示します。
最初は大きな傾向としてA,B,Cの3パターンくらい。さらにそこから絞り込んでいく訳です。

サンプルには、テーマに合った音楽やタイトルも加えられていて、ナレーションが必要な部分にはテキストが字幕として添えられています。
ディレクターは選んだ構成を元に、更に細かくリソースの候補を選び直したり、微調整しながら番組を作り上げていくわけです。リソースを加えすぎて時間がオーバーしそうなときは、AIが「この構成ですと3分オーバーします」とか警告してくれるので、最後まで仕上げたときには完パケに近いものになっていると言うわけです。

このシステムを考えた時、「リソース」を映像や音声のメディア素材だけでなく、「予算」や「人材」、「機材」や「資材」、「場所」や「建物」といった要素に当てはめていけば、番組制作に限らない無限の可能性があることに気づき、「リソース・オンデマンド」と名付けたのです。

しかし時は1995年。AIの開発競争は始まっていたものの実用化はまだまだ先の話でした。

21世紀になって、ビジネスのリソースを管理するグループウェアが登場しました。
今では当たり前になったグループウェア的なシステムにAIを秘書として組み込んだら、なんとなくイメージに近いものができるかもしれません。

先に書きましたが、映像制作の要は時間です。
決められた尺(時間)の番組を提案するためには、テキストも音声も写真も映像も全ての要素(リソース)に、伝達するために必要な時間をメタデータとして持たせることが必要になります。
その「タイム」に、時間という長さだけでなく、日付や時刻のような絶対的な時間軸情報を持たせたら?
さらにそこに場所を表すデータを加えたら、タイムマシーンのようなものが出来るのではないか?
と考えた結果が、前回説明した「タイム・オンデマンド」になったわけです。

あまりに端折ったので、なんだかよくわからなかったかもしれませんね。(苦笑)

この案をプレゼンしたとき、関わった多くの方が「すごい」と言ってくれたのですが、その後は実現の「じ」の字にも繋がらなかったので、もはや負け犬の遠吠えみたいなものですね。

そう言えば子供の頃、発明家になりたかった私は、世の中にないものを考えることに夢中になって、いろいろと工作したり図面を引いたりしましたが、アラ古希になった今日まで、なにひとつ実用化されていません。
今では当たり前になったアイディアも世の中にいくつかありますが、私ではない他の誰かが実現させたわけでして。

思いついたアイディアを現実化するには、人脈だったり、予算だったり、人徳だったり、いろいろな要素が必要です。

今日は私が師と仰ぐ方のご命日です。
類い希なアイディアマンだったその方は、その一方でとても優しくおおらかな方でした。

世の中で様々なアイディアを実現させた人に備わっていて、私に足りないもの。
それはたぶん「根気」です。


老人は死なず、根気が足りない老人は昔話をただ呟くだけ
(2022.7.19)

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