第78談 バックコーラスの歌姫たち(久々のお薦め映画)

文字数 1,827文字

こんにちは。
偶にしか書かないので、初めましての方も少なくないかもしれませんが、今年もよろしくお願い致します。

大寒を前にして暮れからずっと寒い日が続いています。
夏はより暑く、冬はより寒く、そして春と秋は短く。
日本の四季はずいぶんと変わってきました。

相変わらず「ない」と声高に叫ぶおかしな学者と、それを商売にするカルトな人々がいて、「地球温暖化など嘘だ」と思い込んでいる人の中には、この寒さをその証明と言いたい人もいるようですが、冬の寒さも温室効果ガスを遠因とする異常気象と考えると、日本の冬は今後ますます寒くなっていくのかもしれません。
暢気にそんなことを言っていられるのも今のうちですが。

さて、年末年始にかけて紅白歌合戦のことを書きました。
今日も歌の話題ですが、久々に映画のことを書きたいと思います。
その映画とは、この第78談のタイトルにした『バックコーラスの歌姫たち』

AmazonPrimeのお薦めで紹介されるまで、8年前のこのドキュメンタリー映画の存在も、2013年の年末に日本で公開されたことも、私は知りませんでした。
ミュージックビジネスという言葉はあまり好きではありませんが、数年間日本の録音スタジオで働き、その後渡米してニューヨークで録音を学んだ私にはとても縁の深い世界。
特にアメリカでは、この人が何故無名のバックシンガーなのだろう? と驚くほどのテクニックや魅力を持ったシンガーに数多く出会いました。

リサ・フィッシャーという女性シンガーをご存じですか?
会ったことはありませんが、私も名前は知っています。
バックコーラスとしての長い下積みを経験し、1991年に自身のデビューアルバム『ソー・インテンス』がリリースされると、「奇跡の歌声」と呼ばれ、R&B部門チャートで見事1位に。翌年、シングル「ハウ・キャン・アイ・イーズ・ザ・ペイン」でグラミー賞を受賞した超実力派です。
ミック・ジャガーの恋人として、ローリング・ストーンズのコンサートに同行し、ミックとデュエットで歌う映像を過去に観たことがありましたが、彼女はたった一枚のデビューアルバムで消えてしまった……と私はそう思っていました。
現在(撮影当時54歳)の彼女をこの映画で知って、その変貌ぶりと相変わらずの女神ヴォイスに驚いたのですが、彼女が何故アルバム一枚で終わってしまった(訳ではありませんが)のか、この映画を観て納得できました。

もちろん、リサ・フィッシャーは出演者の一人で、他にも大物が。
1960年代の名プロデューサーと言われるフィル・スペクターの隠し球として、クリスタルズはじめ数々のヒット曲で影武者——朝ドラ『あまちゃん』の鈴鹿ひろ美と天野春子のようなことが当時の音楽業界ではよくあったのです——として歌った無名のヒットシンガー、ダーレン・ラヴ。
アイク&ティナ・ターナーのバック・コーラスグループ、アイケッツのメンバーだったクラウディア・リニア。
レイ・チャールズのバック・コーラスグループ、レイレッツのメンバーだったメリー・クレイトン。
スティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソン、マドンナのバック・コーラスで知られるタタ・ヴェガ。
そしてマイケル・ジャクソンの最後の恋人(?)として、彼を追悼したジュディス・ヒル(お母さんは日本人です)。

彼女たちのほとんどが黒人(アフリカ系)ですが、幼少期から教会でゴスペルを歌い続け、鍛え上げられたその実力は日本なら女神レベルです。
そんな実力者たちが、なぜソロで歌えないのか? 或いはバックコーラスに留まるのか? 一度は光り輝いても家政婦にまでなってしまうのか?

彼女たちの背景を語るその語り部は、ブルース・スプリングスティーン、スティービー・ワンダー、スティング、ミック・ジャガー、ベット・ミドラー、パティ・オースティン、クリス・ポッティ……などなど。メチャクチャ豪華です。

ビジネスの世界は厳しい。
それは文学や文芸でも同じでは?
新人賞や文学賞・文芸賞に選ばれても作家として成功できる人はごく一握り。
ずっと無名のまま書き続けている人や、賞に選ばれなくても神レベルに文章の上手い人……
いますよね?

日頃R&Bやソウルミュージックにあまり関心がない方でも、一見の価値あり。
Amazonプライムなどこの映画を視聴できる環境をお持ちの方は是非ご覧ください。


老人は死なず、人知れずとも心に残る「作品」を一つでも遺したい
(2022.1.6)
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