第29談 シトロエンの話(1)

文字数 2,945文字

おはようございます。

オリンピックの話はしばし封印しておきます。

昨日、この日記の表紙を変えました。
だいぶ前にiPhoneで撮影した愛車シトロエンの鼻(自動車の先端部分をノーズと言います)の写真。なんとなく老人が呟いているように見えるでしょ?(笑)
今までの写真も自分が撮ったものですが、季節が変わって夏の画像を——と思ったら結構たくさんあって選ぶのが大変。そのうえ、また秋に変えるくらいなら最初から季節感のない物にと差し替えた訳です。
以前にプロフィール画像にしていたから見覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。

と言うわけで、今日はシトロエンの話。日記と言うより日記の表紙の説明みたいな第29談。
長くなりますし、多少自動車の専門用語も飛び出しますが、自動車だけでなくヨーロッパやフランスの文化に興味がある方は最後まで読んでください。
因みに、拙作『エイリアンズ』にも「プルリ」と言う名前でシトロエンC3プルリエルという個性的なクルマが登場します。

シトロエンは2年前に創業100年を迎えたばかりのフランスでは比較的新しいブランド。
世界最古の自動車ブランド、ドイツのメルセデス・ベンツ(ダイムラー・ベンツ)は135年の歴史を持ち、ドイツで次に古いアウディは112年の歴史を持ちますが、第二次大戦中にナチスの肝いりで自動車を作り始めて戦後に乗用車の生産を始めたフォルクスワーゲンの歴史は100年に満たないし、戦前戦中は航空機用のエンジンメーカーで戦後から自動車の生産を始めたBMWも比較的新しいブランド。
一方フランスでは、プジョーは企業としては200年以上の歴史を持つうえにダイムラーの特許を得て自動車を作り始めて125年。ルノーも123年の歴史があるので、102年のシトロエンは比較的新しい……ということになる訳です。
その辺りはユダヤ教の人がキリスト教を新しい宗教と言うような感じですね。

変な方向に行ってしまいましたが、殆どの自動車メーカーが第二次大戦前後に創業した日本から見ると、100年以上の歴史を持つシトロエンも老舗自動車ブランドということになります。

創業者はアンドレ・シトロエン。
オランダに生まれ、フランスのエコール・ポリテクニークで学び、フランス人として成功を収めた彼は、19世紀末から20世紀にかけて財をなした他の多くの起業家と同じようにユダヤ系です。やがてパリを代表する文化人となった彼は、作曲家のモーリス・ラヴェルとも親しかったと言われています。
ちょうど、ヴァイオレット・エヴァーガーデンの時代……って、あれは架空の時代、架空の国ですが、世界観が第一次大戦後のヨーロッパに近かったので、そんな感じがしてしまいました。

エンブレムは「ヘ」の字状のクサビ形を2つ重ねたもので「ダブル・シェブロン(フランス語ではドゥブル・シュヴロン=double chevron)」と呼ばれます。これは、自動車の生産に乗り出す前に創業者のアンドレがダブル・ヘリカルギア(やまば歯車)の製造で成功を収めていたことからその形を企業のシンボルとして採用した物で、今でもこのダブル・シェブロンはシトロエンのブランドイメージに欠かせません。
私たちシトロエンオーナーは「へへ」と呼んでます。オナー同士、出逢ったときは「へへ」と笑いながら挨拶するわけです。(笑)



シトロエンは前衛的な会社で、1925年のパリ万博、通称アールデコ博ではエッフェル塔を使った電光広告で当時のパリ市民の度肝を抜きました。ヨーロッパで大規模な広告ビジネスが勃興するきっかけになったとも言われていますが、万博以来11年もの間エッフェル塔は「CITROËN」の文字で飾られていました。
因みに、最初の工場はパリのセーヌ川・ジャヴェル河岸にありましたが、その場所は現在「アンドレ・シトロエン公園」になっています。


(「CITROËN」の文字で飾られる1925年のエッフェル塔)

自動車の技術でも、シトロエンは「10年進んだ車を20年間作り続ける」と言われていました。
今では殆どの乗用車に採用されるFF(前輪駆動)やモノコック構造(シャーシーとボディを一体化した構造)も、1934年にシトロエンが製造を開始したトラクシオン・アヴァン(Traction avant =文字通り前輪駆動という名前)が普及のきっかけになりました。


(トラクシオン・アヴァン=Traction avant )

さらに1955年には、当時の自動車のデザインや構造からかけ離れた「異次元の自動車」DSが誕生します。なんと、私と同い年なんですよ。(笑)


(画像はマイナーチェンジ後1969年のDS21パラス ダブル・シェブロンはノーズのエンブレムにありますが小さくて見えません)

セダンだけでなく、オープンタイプやリムジン(運転手がドライブし後ろに偉い人が乗る長めのクルマ)、ワゴンタイプなど様々なバリエーションが作られまますが、このクルマはエアスプリングと油圧システムを組み合わせたハイドロニューマチック・サスペンションを持ち、「魔法の絨毯の乗り心地」と形容されました。
フランスでは大統領専用車として長く使われた一方で、イギリスでは荒れた路面を走っても揺れないために疾走する馬と併走する競馬中継の移動カメラ用にも使われ、ロールス・ロイスやメルセデス・ベンツも特許料をシトロエンに支払って自車にこの構造を採用しています。
デビュー当時からオートマチック・ギアボックス、油圧によるパワーステアリングやブレーキ・サーボ(軽い踏力で最大の効果を生む)といった今では当たり前の先進的装備を備えていたDSは、1999年に開催された「20世紀の名車ランキング」カー・オブ・ザ・センチュリーにおいて、1位のフォード・モデルT、2位のミニに次いで、3番目に偉大な自動車として世界中の自動車関係者に選ばれています。


(最終型のDS23 このクルマは京都のアウトニーズでレンタカーとして貸出中)

発売当時から「宇宙船」と呼ばれた斬新で未来的なデザインは多くの人の記憶に留まり、誕生から66年経った今でも映画やミュージックビデオには欠かせません。

その一方で、経済的にゆとりのない農民や一般市民にも手の届く乗用車として、1948年からシンプルで安価な2CV(フランス語で二馬力の意味)を発売。このクルマは「フランスの民具」と呼ばれ40年以上も生産されました。簡素な構造ながらハンモックのようなシートの出来が素晴らしく「農道を走ってもシートに置いた生卵が割れない」と言われたそうです。


(シトロエン2CV)

宮崎駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』に登場するシーンも有名ですが、このクルマを所有していた宮崎監督はご自分の会社を「株式会社二馬力」と名付けるほどお気に入りだったようです。

また、様々な用途に応用できる商用車として1947年に登場したHバンも34年間製造され、生産終了から40年が経つ今も、日本ではオシャレな移動販売車用途にとても人気があります。


(シトロエンHバン)


さて、今日はここまで。
明日は、私の愛車と最近のシトロエンの話をしましょう。

老人は死なず、あと10年は乗り続けたいと願うのみ(へへ)
(2021.7.28)
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