第67談 MINAMATAとユージン・スミスと……

文字数 2,051文字

こんばんは。

昨日に続いて映画の秋の話題。今日は久々に一日予定が何もなかったので、地元の映画館に行ってきました。

今もデジカメで写真(画像)を撮るのは趣味ですが、高一から写真部に所属した私は、暗室に籠もってフィルムを現像したり、引き伸ばし機で四つ切りや半切にプリントしたり……と、ドラムの練習やバンドの活動で忙しくなる二年の夏休みまで、ずいぶんと写真に熱中しました。
そんな私が十代の頃一番リスペクトしていた写真家がユージン・スミスです。

報道写真家として『ニューズウィーク』や『LIFE』(写真がメインのTIMEの姉妹紙でしたが後に廃刊)に多くの写真を掲載していたアメリカ人の彼が、日本に渡って写真家生命を賭けて撮影し、世界に発信した水俣病の現実。
そんな彼が千葉県で取材中にチッソの社員に暴行を受けて重傷を負ったことは、高校生の自分にとっては大きなショックでした。その暴行で片目を失明し脊椎を痛めたユージンは、完治することなくアメリカに帰国し、後遺症と闘いながらアリゾナで余生を過ごし、59歳で他界します。

日本の高度成長時代に、経済と政治——政府は企業を擁護して公害を隠蔽——が生み出した「水俣病」という「公害」を世界に知らしめた意味で、ユージン・スミスとその妻アイリーンが果たした役割はとても大きかったでしょうし、国内での裁判の行方にもかなりの影響を与えたはずです。
何よりも十代の私は、アメリカで名声を得ていた写真家が日本に定住してまで捉えようとした「真実」に大きな感動を覚えました。(彼が行き詰まっていた……とは考えなかったので)

そんな訳で、この映画の事は去年から知っていたのですが、映画関係の情報をあまりチェックしていなかったため、公開が始まってずいぶん経った今頃にやっと観て来た次第です。

この映画のプロデュースも務めたジョニー・デップはユージン・スミスになりきっていましたし、奥さんであるアイリーン・奈緒子役の美波も良かったです。
実は、「史実に基づく物語」と謳うにしては事実と少し違うことに、最初は少し戸惑いを感じてしまいました。——ここに「映画的演出」と、少し批判的なことを書いてしまったのですが、興味を持っていた方の気持ちに水を差してしまうことになっては不本意だと考えたためを削除しました——きっと、いつも「映画の敵は期待とネタバレ」と言ってるのに、期待しすぎたうえに背景を知りすぎていたことが私にとってはマイナスに働いてしまったのでしょう。しかし、映画はいかに正確に描くかより、いかに強く訴えかけるかが重要。細かい点をあまり書くとネタバレになりますので、この辺で止めておきます。

この『MINAMATA』という映画を通して、ユージン・スミスという写真家やその作品。彼のパートナーで今も水俣病に留まらず公害などの環境問題に向けて活動を続けているアイリーンさんのこと。かつて日本の企業が人を死や不治の病に至らしめるほどの汚染水を垂れ流し、その影響を知りながら長い間隠蔽し続け、政府もそれを容認していたこと。被害者達は今もその苦しみと闘っていること。そうした事実を知るきっかけになったら、それはすごく意味のあることだと思いますし、この映画はとても大切な作品だと思います。

今の若い人は想像出来ないかも知れませんが、かつての日本人はエコノミックアニマルと世界から侮蔑されるほどマナーや道徳よりも経済を優先し、企業は人畜有害な公害を垂れ流して多くの人が病に苦しみ、欧米の製品のアイディアやデザインを平気で盗用し、政治は汚職や賄賂に塗れ、政治家や経営者などの権力者は複数の愛人を持つのが当たり前、酔っ払い運転は日常茶飯事で交通戦争と言われるほど死亡事故が多く、暴力団の存在は「必要悪」と言われ、動物虐待や喧嘩や怒鳴り合いは街のあちこちで見られました。
それが「古き良き時代」と多くの人が懐かしむ高度成長時代の日本です。
私たちの世代には、安倍政権の時代に報道された不正や悪を「そんなの大したことない」と言う人もいるようですが、もっと大きな「悪」に溢れていたかつての日本と比べてしまうからそうなるのでしょうね。

さて、話を映画に戻します。
午前中に『MINAMATA』を観終わって昼食を食べた後、思いっきりフィクションの映画を観たくなって、午後からは昨日話題にした『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』を観てしまいました。
長時間同じ体勢はキツいので、普段は長い映画を連続して観ることは避けているのですが……めちゃくちゃ長かったです。2時間43分ですよ!?
ところが、実は腰は少し痛くなりましたが、あまり長さを感じませんでした。
アストン・マーチンもDB5だけでなく、新旧取り混ぜて、更にはビックリな車両まで登場しました。
でもそんなガジェットよりも、素直にドラマとして良かったです。
今まで観た007映画の中でもしかしたらベストかもしれません。


老人は死なず、銃よりもカメラの方が自分の手にはしっくりする……
(2021.10.12)
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