第49話 石州犬探査記
文字数 1,194文字
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いろんな文献収集や聞き取りをしていると、中村鶴吉さんに対して、時にネガティブで批判的な表現に出合う。
たとえば、「故郷の犬を東京に送らせた」「売りまくっていた」「犬を商売にしていた」などだ。まるで、鶴吉さんが、犬に愛情があるわけでなく、ただお金が目当てであったかのような言い回しだ。
石州犬の祖となった「石」を讃えるのに、どうしてその犬を山出しした中村鶴吉さんに対して、否定的なことを言う人がいるのか。
私は悲しくなった。というより、腹が立った。
そこで、鶴吉さんがどんな思いで、故郷の犬を「山出し」していたのかを調べようと、それがわかる文献を徹底的に捜した。そして、中村鶴吉さんが書いた「石州犬探査記」を2点見つけることができた。
それらを読むと、鶴吉さんは、東京から何度も石見に帰り、山中に入って、石州犬の探査を行なっていたことがわかる。文中には、実際に歩いて回った順に多くの地名が記されていた。
地図上で、この地名を繋いでいくと鶴吉さんが回ったルートがわかるだろう。面白そうだ。と、作業を始めてみたもののすぐに行き詰まった。
地名の中には、現在の地図には無いものが意外に多い。とりあえず、わかる地名だけを繋げてみたが、中途半端なものとなってしまった。
と、そこで私は、前に中村鶴吉さんの足跡を丹念に調べてくださった浜田市役所の大田等さんに伺ってみようと思った。あの方なら古い地名もご存知かもしれない!
そこで、「中村鶴吉さんの功績を記すために探査マップを作っておりますが、わからない地名が多く、確認できたものだけで作成してみました。不明の中で、大田さんが、ご存知の地名がありましたら、ぜひお教えいただけないでしょうか。」と、お願いをしてみた。
すると、すぐに大田さんから「中村鶴吉先生につきまして、今回お名前を初めて知りましたし、石州犬が柴犬の祖犬ということも驚きです。中村先生の石州犬に対する熱意の賜であり、とても大きな功績(偉業)と思います。ご依頼の件ですが、昭和初期のことで、各村々はこの頃盛んに統廃合を行っており、今は消滅した地名があるようです。少し細かく調べて見ないと確かなことは申し上げられないと思います。私なりに調べて、後日お知らせいたします。」と、とてもありがたいお返事をいただいた。
それから、約1カ月後、大田さんから「調べを進めるうちに、ルートを実際に回ってみたくなりました。その影響でご回答が少し遅れました。」というメールと、一箇所一箇所を回って調べてくださった丁寧な資料をお送りいただいた。
大田さんの資料をもとに作成したのが、このマップである。
次号に続く