第47話 いぬ馬鹿
文字数 829文字
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ところで、日本犬の書籍を読みまくって、あらためて思い知ったのが、いわゆる「いぬばか」と言われる人たちの存在だ。
有名なところでは、斎藤弘吉さん。日本犬保存会の創立者であり、渋谷の「忠犬ハチ公」を世に知らしめ、南極地域観測隊の「タロとジロ」たち樺太犬救出のために尽力した人である。
この人をモデルに書かれた「いぬ馬鹿」(戸川幸夫著)を読んだが、その中で主人公は妻から、こう言われている。
「あなたは、画家じゃなかったかしら・・・、まるで犬屋みたいに犬の事ばかり考えてらっしゃる。この頃のあなたを見ると、悲しくなるわ」
主人公はこう答える。
「絵画は、僕がやらなくたってやる人は大勢いる。しかし日本犬の保存をやろうとする人なんてそんなに居る筈がない」と。
そして、持てる財産も、エネルギーも、人生そのものを日本犬の保存に注いでいく。その後、妻は愛想をつかして実家に帰った、とある。
こんな人たちが、日本犬の文献には、よく登場するのだ。
戦争中、人間でさえ生きていくのが大変な時代、犬たちを守り抜いたのはそういう人たちのおかげでもある。犬への愛情はもちろんだが、そういう人たちには、とても裕福な、いわゆる旦那衆のような人が多い。
まさに山陰柴犬の生みの親、鳥取県の尾崎益三さんもそのひとりである。芸術家のパトロンのように、これは資産家の正しい(私たち庶民からすれば、ありがたい)お金の使い方のひとつだろう。
そして「犬バカ」の人たちは、圧倒的に男性だ。何が彼らを「犬」に駆り立てるのか。
「犬好き」ではあるけれど「犬バカ」ではないが、「地域振興バカ」の私にはよくわからない。
ちなみにこの本は、日本犬を学ぶもの必携の書とのこと。ある方に薦めて頂き、古書店で見つけて購入した。
斎藤弘吉さんの書かれた「私の飼った犬」という作品も拝読したが、実に魅力的な人である。
次号に続きます。