第51話 愛犬と愛猿
文字数 681文字
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中村鶴吉さんの評価に、納得いかぬ忸怩たる思いを持っていたある日、「石号」を中村鶴吉さんより早くに見出していたが、タッチの差で手にできなかった遠田安道さんのお嬢さんにお会いすることができた。お会いしたのは、益田市の吉田幼稚園。市内が一望できる高台にある歴史ある幼稚園だ。
遠田安道さんは、日本犬保存会島根支部初代支部長で、吉田幼稚園を経営されていた。「石号」出生の地にあって、その再現を夢見ながら生涯の熱情を燃やし続けてこられた方である。
そのお嬢さんの若松三春さんは、ご主人の浩さんと共に、にこやかに私たちを迎えてくださった。
「父は、本当に動物が大好きな人で、家にはいろんな動物がいっぱいいました。子供達にも、自分より弱いものに対して優しい気持ちを育むために動物とのふれあいが大事だよ、とよく言っていました。ただ、石号や石州犬のことは、私もまだ子供だったので、よくわからないのですが・・」と、おっしゃった。
そして、お父様とご一緒の写真を見せてくださった。
「父と私と、愛犬と愛猿です。『犬猿の仲』なんて言いますけど、そんなことないですね」と、にっこり微笑まれた。
昭和30年頃のお写真とのこと。遠田安道さんが、動物好きのお優しい方だったことが伺える一枚だ。
そこで、私は、益田の犬「石号」が、現在の柴犬の祖犬であること、実は、遠田さんもその石号を見出していたのだけれど、タッチの差で手に入れられなかったことをお伝えした。
次号に続く。