第25話 柴犬の「先祖返り」
文字数 736文字
柳尾さんは、ちょっとためらって言葉を続けた。
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「『石見犬保存会』という組織を作ったものの、作出する連中はごく限られていました。その人たちが、自分たちで交配し、子犬が誕生したら自分たちで血統書を作る。一方では、全国から益田市役所に、『石見犬が欲しい、石見犬が欲しい』という声が殺到する。でも、市の職員には専門知識がないので、石見犬は存在しているものだろうと思い、要望を『石見犬保存会』に伝える。そうするとすぐに、血統書を書いて犬を送る。・・・長続きしません」
「つまり粗製乱造ということですか?」
ちょっと乱暴な質問だったかもしれない。
それには答えず、柳尾さんは「当時知り合いが『石見犬を買ってきたから見てくれんか』と言われて見に行きました。が、コメントできませんでしたねえ。日本犬どころか、まるでスピッツみたいな犬で・・」
そして、柳尾さんは、飼い犬の中から1頭の柴犬を見せてくれた。
「実は私も、石見犬に近いような犬にならんかなあと思って、今3代くらい交配を続けています。それがこのオスのコウイチ。実際の石見犬は、これよりもうちょっと泥臭い顔貌。毛色がもう少し泥臭い」
石見犬に面影が近いというコウイチくんはまだ1歳だが、そう言われると普通の柴犬とは、少し雰囲気が違う。ちょっとワイルドでやんちゃな風貌だ。
【石州犬に先祖返りをしたようなコウイチくん】
「こういったローカル色豊かな柴犬が残っていたら、ものすごい貴重な財産になっていたと思いますよ。日本の財産にですね」とコウイチくんを撫でながらおっしゃった。
「しかし、今どきの展覧会で、賞を取れるような犬ではないですがね・・・」と、柳尾さんは笑った。
次号に続きます。