第88話 なぜ「強運」か!?
文字数 674文字
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昭和の初め、全国各地から多くの日本犬が東京へと「山出し」された。
石見地方だけでも、中村鶴吉さんによって「石」をはじめ、かなりの石州犬が、東京へと送られ ている。
しかし鶴吉さんの残した文章には、「石」のことはあまり触れられていない。むしろ、他の犬を褒め称えていた。
たとえば「神風号」なる犬は「石州随一の名犬」と絶賛されている。
名前だけを見ても「神風」と「石」とでは、 思い入れがまるで違う。
(鶴吉さんは、日本犬保存会に登録する際に、犬たちに新たな名前をつけていたようで、「石」は、「石見」から名付けたとのこと)
また、優れていた犬は繁殖のために、手元に置いておくだろうに、「石」はすぐに人の手に渡って いる。
ある資料には、「石号の子孫が素晴らしいのは、コロ号が優れていたから」と書かれていた。「石」を 低く評価する人も少なからずいた。
つまり、「石」は特別に優れた犬であったから、人為的に「祖犬」にしようとしてなった訳ではない。
伝染病で早死にする犬が多い中、病気になることもなく、飼い主に恵まれ、運良く当時は少なかった雌犬に出会い、子犬にも恵まれ、孫犬、ひ孫に、素晴らしい犬が生まれ、結果として「石」は、ラッキーなことに「柴犬の祖」となっていったのであった・・。
「ああ、なんという運の良い、運の強い犬であることよ!」と思っていた。
いや、それでも十分に「強運の犬」と言えるだろう。
だが「石号」の運の強さは、そんな「たまたま」の連続ゆえではなかったのだ。
次号に続きます。