第5話 希少犬種「山陰柴犬」
文字数 1,083文字
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「山陰柴犬を飼うと決めたわけではないのですけれど、一度拝見したいのですが…」と、申し上げると、事務局長の松本守人さんが親切に「我が家に3頭いますので、いつでもいらしてください」と言ってくださった。
さて、新年を迎えたが、年度末は昨年同様に、委員会や講演などがあり、なかなか時間がとれなかった。だが、なんとか都合をつけて、3月のある日私と夫は、鳥取県の北栄町(ほくえいちょう)にある松本さん方を訪ねた。
山陰と言っても横に広く私たちの住む島根県石見(いわみ)地方と、鳥取県北栄町は約200キロも離れていて自動車でも3時間以上かかる。
松本さんは、3頭の雌の山陰柴犬を飼っていた。そしてご近所の雄犬のところにも連れて行ってくださり、計4頭に会うことができた。
希少犬種である「山陰柴犬」は、思ったより小柄で地味な印象。普通の柴犬よりもスリムで精悍な感じがした。
しかし、さすが純粋日本犬だ。猟犬ならではの鋭敏さ、敏捷さが感じられ野性味もあり、賢そうで、なんだかこちらの心まで見透かされているような気がした。ポンのような無防備なノーテンキさはまるでない。
山陰柴犬には、もちろん魅力を感じ興味を持ったが、正直、ポンのことを思えば、とても飼う気にはなれない。たとえ、ここに子犬がいて「今日、連れて帰れますよ」と言われても、その子がどんなに可愛くても、そうはできない。ポンに申し訳ない。というかポン以外の犬に心が動かない。
しかしながら、そこは希少犬種。希望しても、すぐには飼えない。場合によっては、数年待ちとのこと。数年後なら、ポンも許してくれるかもしれない。私も犬を飼う気になれるかもしれない。そんな、あいまいな気持ちで、松本さんに「順番待ちします」と、とりあえずエントリーだけして失礼した。
それから数カ月後、鳥取県湯梨浜町(ゆりはまちょう)の尾崎邸で、毎年開催されている「山陰柴犬鑑賞会」にも行った。山陰柴犬の生みの親である故・尾崎益三さん方の「尾崎家住宅」は、国指定重要文化財でもあり実に趣きがある。
この庭先で数十頭の山陰柴犬を同時に見ることができるのは圧巻である。そして、これだけ多くの犬が一堂に会しても、吠える犬がほとんどいない。温和で穏やかな気性の山陰柴犬ならばこそ。
さて、この年は、私自身の生活にも新たな動きが起きてきた。
それは夫と組んでいる音楽ユニットの活動が、本格化?してきたことだ。
第6話に続きます