第52話 石の玄孫(やしゃご)が!
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すると、三春さんは「その頃は、きっと大変な時だったんで、お金をかき集めて行ったんでしょうねえ。だから、もういないとわかった時は、がっかりしたと思いますよ。でも、その後ジステンパーが流行して、うちでは、かなりの犬が死んでしまったんです。もし石がうちにいても、その時に死んでいたかもしれません。たまたま東京に行ったおかげで、いろんな偶然が重なって、幸いにも子孫がちゃんと生き残ったんですよねえ。不思議なことに・・」と、おっしゃった。
その後、ご主人の浩さんが、遠田安道さんの残された膨大な日本犬に関わる資料を整理されたということで、翌年には、たくさんの写真や血統書を見せてくださったのだが、なんと、その中には、石号の子孫の血統書があったのだ!
その犬は、石号から数えて5代目、いわゆる石の玄孫(やしゃご)にあたる。
【石の子孫の血統書】
昭和11年に「タッチの差」で、手に入れられなかった石の子孫は、13年の時を経て、昭和24年、故郷の遠田安道さんの元に帰ってきていたのだ。
遠田さんは、どんな思いだったろうか。あの時は、石を手にすることはできなかった。しかし、そのおかげで、石は「柴犬の祖」となり、優れた純粋小型日本犬の血統を後世に残すことができたのだ。
犬のことを調べていたのが、感動的な人間のドラマにたくさん出会えた。石の存在だけでなく、この物語を丁寧に、地元の人にお伝えしたいと思った。そこで、またまた思いつき、ダメ元で益田市役所の松本さんにお願いした。
地元のCATVで年間通しての帯番組を持たせてもらえないだろうかと。一年くらいかけて、順を追って細かく紹介したい。松本さんは、笑顔で「面白そうですね。知り合いがいますから、ちょっと聞いてみましょう」と言ってくださった。
さっそく私は、10回分の番組企画書をA4用紙数枚にまとめて、松本さんにお送りした。
山陰中央新報で、「柴犬のルーツ益田にあり」という記事が掲載されたことがきっかけとなって、この年の暮れには、地元テレビからの取材依頼が来た。この番組が放映されたことによって、またまた信じられないような新たな動きが始まった。
次号に続きます。