第42話 「もうヤ〜メタ!」
文字数 1,144文字
年寄りにしては、この数ヵ月間よくやったよ・・・。
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島根に戻ってからも、力が湧かず、何もやる気が起きない状態が続いた。もちろん、現地での数日の調査で中村鶴吉さんの消息を見つけられるなんて思ってはいなかった。
そんな甘い考えではなかったけれど、なんか調子良くトントン拍子で進みそうだったので、勝手に期待してしまったから意外にダメージが大きい。
別に、これは仕事でも、義務でも、誰かに頼まれたわけでもないのだから「もうヤ〜メタ!」と思えば、それで済む話なのだけれど。
数日後、益田市役所の松本泰典さんから、石号を「タッチの差」で逃した遠田安道さんのお嬢さんのことで連絡をいただいた。その方は、今は大阪在住でいらっしゃるが、幼稚園の役員をされていて、時々益田に帰ってこられる、とのこと。
次に益田に来られるのは10月なのでその時でよければ、会っていただけるらしい。ただ、当時は、お小さかったので、犬のことなどもあまりよくわからない、ということだった。いやいや、お会いできるだけでも、ありがたいことだ。
松本さんには、「ぜひ、よろしくお願いします」とお伝えした。しかし、いくら市役所の方とはいえ、益田市でも石州犬や石号のことを知っている人は、まずいない。そんな中、松本さんには、いつも大変なことをお願いして申し訳ない限りだ。
また、浜田市の大田等さんからも、三隅町での調査結果を教えていただいた。中村鶴吉さんが三隅町で歯科医をされていた形跡があるかどうかを、地元の古老の方、何人にも聞き取りをしてくださったとのことだ。
町誌や古い記録から「中村歯科」という医療機関や「中村」姓の家がなかったかどうかなどを丁寧に調査してくださっていた。
そのために、明治・大正時代頃からの家屋の位置図(世帯主氏名入り・転居履歴等記載)まで確認してくださったそうだが、そこまでしていただいても中村鶴吉さんの、浜田市三隅町での痕跡を見つけることができなかったとのことだ。
これは、よほど短期の滞在であったか、自営ではなく一時的に、歯科医に勤務されていただけかもしれない。
それにしても、大田さんは、一度もお会いしたこともない方なのに、ここまで丁寧に細かく調べてくださるとは・・。
なんと、親切な方なのだろうか。後日、夫と一緒に、お礼に伺ったのだが、にこにことされていて、とても温かいお人柄を感じる方だった。
このように、すでにいろんな方々を巻き込んでしまっている。
そして、みなさんが、不思議なくらい、ご協力してくださっている・・。
なので、「もうヤ〜メタ!」などとは、とても言えない状況にもなっているのだ。
次号に続きます。