第4話 地域振興バカ
文字数 1,495文字
この一枚の新聞記事が、私の人生を意外な方向に切り替えてくれた。
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山陰柴犬(さんいんしばいぬ)??
聞いたことがない。
夫が見せてくれた記事には、こういうことが書かれてあった。
●「山陰柴犬」は山陰独自の地犬。
●この地犬を作ったのは、鳥取県の故・尾崎益三(おざきますぞう)さんという人。
●地犬が絶えることに危機感を抱き「鳥取の因幡犬(いなばけん)」と「島根の石州犬(せきしゅうけん)」を交配させ「山陰柴犬」とした。(その後、因幡犬、石州犬ともに絶滅)
●山陰柴犬は、戦争や伝染病などの危機を乗り越え、2015年現在では、380頭までに。
●ペットショップなどでは販売されておらず「山陰柴犬育成会」が管理。飼育希望者は順番待ち。
●性格は、温和で穏やか忍耐強い。
●ルックスは、スリムで筋肉質。年をとっても若々しい。
「柴犬」といえば、たしか国の天然記念物で、世界的にも人気が高まってきている純粋日本犬だ。一般に、柴犬というと「信州柴」をいうが、地元「山陰」の名を冠した柴犬が存在するとは知らなかった。しかも、ペットショップでも買えない希少犬種とは。
私は「犬好き」だが「犬バカ」ではない。
が、「地域振興バカ」である。なので、山陰柴犬が、かわいいとか、飼いたいと思う前に、地域資源としての魅力と可能性を、強烈に感じた。
アニメやゲーム、グルメなど日本のカルチャーが、海外の関心を集めている。日本犬もそのひとつだ。その中でも、特に人気の高い柴犬に、ローカル色豊かで、ほとんど無名の希少犬種がいたのだ。しかも、希望しても、すぐには飼えない。
「地域振興バカ」の妄想が広がる。
柴犬人気→ 山陰柴犬注目→ 山陰柴犬世界進出→ ふふふ!
もしのもし、この山陰柴犬が注目され、世界的に有名になると、どうなるか?
そう「山陰柴犬」と共に「山陰」の名も世界へ広まることとなる。
つまり、我が山陰が「世界ブランドに」なるかも⁉︎
アホらしいかもしれないが地域活性化は、こんな「地域振興バカの妄想」から始まることも多いのだ。
そうなると、気になって、気になってしょうがない。実際、その山陰柴犬とは、どんな犬なのか? 山陰を世界ブランドにする(かもしれない)犬をこの目で見てみたい。新聞記事を何度も読み返し、強く思った。
さて、その記事には、山陰柴犬を保存管理する「山陰柴犬育成会」の電話番号が書いてあった。早速に問い合わせたいとこだったけれど、とはいえ、とても犬を飼う気にはなれない。でも見るだけならいいだろう。いや、飼わないと魅力はわからないよ。いやいや、とんでもない。ポン以外の犬に興味はない。などの掛け合いが頭をめぐる。
そして自分に言い聞かせる。
「いいですか。今の私は、保健所行き寸前であった保護犬(もちろん雑種)のポンを亡くして、悲しみにうちひしがれているところですよ。それが、天然記念物だ、世界ブランドだと、何をチャラチャラ浮かれてるんですか…」と。
「地域振興バカ」というアクセルを「ペットロス」というブレーキが必死に抑えていた。
それでも気になって、ネットで山陰柴犬を検索していると「おや、まあかわいい!」羊のような山陰柴犬が!
換毛期に上手に毛が生え変わらず、たまに、羊そっくりのワンちゃんが現れるとのこと!!
そして、迎えた2016年早々、「地域振興バカ」は、その好奇心を抑えきれずに、山陰柴犬育成会の事務局に問い合わせた。
第5話に続きます