第7話 山陰柴犬サニー
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そして、その年の10月、松本守人さんから「山陰柴犬の子犬が生まれましたよ。河部さんの番になりましたよ」との連絡をいただいた。
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数年かかると思っていたのに、まさか年内にとは。育成会の皆さんの努力で、毎年少しずつ山陰柴犬は増えている。この時点で約400頭とのことだった。
正直、まだ心の準備はできてはいなかった。ポンが死んでからちょうど丸2年。ポンに悪い、という気持ちもあった。でも、ためらう一番の理由は、「犬を飼えばペットロスが、もれなく付いてくる」ことだ。
今、犬を飼えば、別れの時は、70代かな? 今よりも、気力や体力が衰えた自分が、果たしてあのような辛く苦しい日々に耐えられるのだろうか。
しかし、将来のペットロスの恐怖よりも「地域振興バカ」の好奇心が、勝ってしまったわけである。ほんと、バカにつける薬なしだ。そんな覚悟もして山陰柴犬を迎えることとした。
さて、そんな神妙な覚悟とは裏腹に、ポンに対する後ろめたさを感じつつも、可愛い首輪やリードなどを、私はウキウキしながら買い揃えていった。音楽一家だからと、おもちゃのギターやピアノまで!
また、苦手だったSNSも、インスタグラムにチャレンジ。まだ掲載する写真がないので、庭に遊びにくる猫ちゃんや早々と用意したペットグッズなどをアップ。
すでに親バカ全開である。
そして12月の初旬、2カ月になったばかりの山陰柴犬が、とうとう我が家にやってきた。
さて、まずは名前をつけなければならない。ポンの時は、候補の中からポンに選ばせたが、この子は、すでに決まっている。それは、世界中の人々に「山陰」を知ってもらえるようにと、願いを込めて、まんま「山陰」という名にしたのだ。
だが「サンイン」では、外国の人には発音しづらいだろう。
そこで、「サンイン」→「Sanin」→「サニン」→「サニー」と呼ぶことに。
不思議なことに、日本語で山陰は「山の陰(カゲ)」と、日当たりが悪そうだが、それを英語風に呼ぶと、「サニー(太陽)」となり、とたんに晴れ渡る。この山陰柴犬が、過疎化が進む山陰の地を、太陽のように明るく照らしてくれるといいな、そんな思いをこめた。
そして、サニーは、ペットロスという暗闇にいた私の心も、本当にあかあかと明るく照らしてくれたのだった。
8話に続きます。