第26話 ありがたい出会い
文字数 1,014文字
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これまで、たくさんの文献にあたり、柴犬や石州犬について、かなりわかったつもりでいた。
しかし、当時のことをご存知の方にお話を伺うと、そのリアリティさがまったく違う。
私は、再度「石見犬」を開いて訊ねた。
「この本には、多くの益田市の方々の名前が掲載されていますが、どなたかご存じの方はいらっしゃいますか?」
柳尾さんは、本をめくりながら「この本に出てる方は、ほとんど亡くなっておられますね。ただ、メンバーの中に『澄川昇』さんという方がいますが、石見犬の審査員をされていた。よく知っていますよ」と、おっしゃった。
「ぜひ、その方をご紹介していただけませんか?」と、お願いすると、「いいですよ」と、言ってくださった。
そして柳尾さんは、「地元に『石』という素晴らしい犬がいたことを、皆さんに伝えたいなあ、いっそのこと、この国道沿いに『柴犬の祖犬の町』という、大きな看板でも立ててやろうかと、思っていたところですよ」と、明るく笑われた。
「それ、すごくいいですね! 実現できるといいですね!!」
国道沿いに、堂々とそびえ立つ看板が目に浮かぶ。柴犬で、町起こしをする益田市の様子が「地域振興バカ」である私の目にもはっきりと見えた気がした。
一緒に話を聞いていた夫やセンパイの目もキラキラと輝いている。
今日、柳尾さんとお会いできて、本当によかった。この出会いによって、その後の調査・研究は、格段に進むこととなる。
何より、日本犬にはまったくの素人の私にとって、柳尾さんのような専門的な方と志を同じくできたことは、この上もなく心強く、ありがたいことであった。
最後に私は、こう質問した。
「石号を飼っていた『下山信市』さんと、東京に山出しした『中村鶴吉』さんについては、ご存じですか?」
「いえ、知りませんねえ」
「どちらも、益田の方だと思うのですが、中村さんという名字は、日本では8番目に多いらしくて、益田市にも数百人おられるようです。ただ、下山さんは意外に珍しく、益田市には数人なので、下山さんから捜していけばと思っていたのですが・・」
「そうですか。わかりました。私がなんとか捜してみましょう」柳尾さんはそうおっしゃてくださった。
次の週、私は柳尾さんに紹介していただいた『澄川昇』さんをお尋ねした。
次号に続きます。