第82話 この血統、絶やすまじ
文字数 580文字
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「えっ、食べられた?・・」
「裏の畑に、骨だけがキレイに並んであったから、誰かが食べたんですよね・・」
戦時中に、人間が食べることもこらえて命がけで守ってきた日本犬を、戦争が終わってから誰かが食べてしまった・・。
しかも「正当な柴犬の源流犬・アカ号」の子であり、「戦後柴犬中興の祖犬・中号」の父犬であるアカニを・・。
私は、言葉がなかった。虚しく、やるせない思いでいっぱいになった。
並んだ骨を見つけた時、坂口仁さんは、どんな思いだったろうか・・。
アカ号は、アカニと紅子を遺してから、空襲で逝った。
その子アカニは、中号を遺したのちに、食べられてしまった。
どちらも、次の世代に血を繋げてから、役目が終わったかのように、死んでいった・・。
戦争や伝染病から、日本犬を守った人々も命がけだったが、犬たちもまた、自らの血を絶やすまいと命をかけていたかのようだ。
坂口さんには、本当に貴重なお話を伺うことができた。さらに帰り際に、坂口さんは信じられないことに、先ほど見せてくださった「アカ」や「紅子」や「中」の貴重な写真を、私にくださるとおっしゃる。
「いや、ちょっと待ってください。写真を撮らせてもらえれば大丈夫です。コピーならともかく、これは実物の写真ですよ」
次号に続きます。