第78話 赤髪レスペの憂鬱

文字数 5,489文字

 グランとセレナパーティのメンバー達は、ミーシャの案内で転移した。
 ただ、ミーシャも切羽詰まった状況で焦っていた。
 その結果、転移の座標軸がずれた。
 ミルン国ではなく、近辺の地に着いた。

「罠の香りがプンプンする。
 やっぱり黒髪の人間には、ロクな奴がいない」

 セレナがグランに聞こえるよう、グランとリーナを中傷する。
 グランは相手にせず、聞き流した。
 セレナが関節の骨をバキバキと鳴らしながら、ミーシャに迫る。

「罠……!?
 私は焦ってミスを犯しましたが、皆様にそんな非礼を働く気はありません!」

 ミーシャは困り顔だ。
 その顔を見て、グランが片頬を歪める。
 意地悪く笑ったのだ。

「お前はミルン国が……マギヌンが遣わした諜報員だろ?
 もう芝居はしなくていい」

 グランの一言で、セレナパーティのメンバー達の疑心が、殺気に変わる。

「兵士のフリして、スパイとは! これだから諜報の世界って嫌い!」

 レスペよ。
 諜報の世界も、真っ直ぐ過ぎるお前のことが嫌いだと思うぞ。
 グランはその思いは口にせず、胸にソッと締まっておく。

「グラン殿、マギヌン将軍をご存知で!?」

 ミーシャがセレナパーティに隙を見せずに、質問する。
 少しでも隙を見せれば、本当に攻撃されそうだ。

「ああ、昔ちょっとな。信頼できる男だ。
 そいつが派遣した諜報員なら、信頼できる。
 そもそも、諜報員もヘッタクレもない。
 カートンでは、出向国も出向機関も関係無かった。
 皆が一兵士として、戦っていた」

 グランの言葉で、パーティから殺気が引いていく。
 その通りだ。
 他にも、各国が諜報員を送り込んでいただろう。
 どの国も、ブラムスを脅威に感じている。
 だから最前線であるレイジ国で、ブラムスの情報収集に励むのは当然だ。
 だが少なくとも、最後の戦争では、全員が一兵士として誇りと命をかけて戦った。

 マギヌンの名は、パーティメンバー全員が聞いたことがある。
 彼のジョブは、バトルマスター。
 中堅国であるミルンにおいて、最年少で将軍の地位に就いた男。
 政治でも辣腕(らつわん)を振るう「できる男」。
 それが世間で流れるマギヌンの評価だ。

「有名人なあなたの上司がグラン様と知り合いなら、
 それをさっさと言いなさいよ。
 もう少しで、あなたを殺すところだったわ」

 神に仕えし聖女に相応しい言葉をかけるクロエ。

「別に、罠があってもいい。待ち伏せされてもいい。
 全て破壊し、倒して、前に進むだけだ」

 身に着けた武闘着は卑猥さの塊だが、ミンの発言は聞く者の心に鋭く刺さる。

「何にせよ、ミルン国まで、まだまだ距離はあるわ。
 あなたから、たっぷりとお話を聞く時間はある」

 妖艶さが日に日に増えていくユリアが、ミーシャの目を見据える。

「なあ、セレナ。あの三人って、あんな強気キャラだったか?」

 セレナは薄々、事情に気付いていた。
 むしろ、全く気付いていないレスペに驚かされる。
 カートン戦前、こいつは本当に同じ宿に泊まっていたのか?

「そんな事より、今は馬か馬車の旅がいい。さすがに疲れた」

 セレナの本心からの愚痴に、グランとミーシャ以外の全員が賛成した。

「この辺りで、馬や馬車を調達するとなると、かなりの遠回りを……」

「あんた! 真に受けて、真面目に返事しなくていいから!
 抜いた抜かれたの諜報の世界で生きてるくせに、意外といい子ね」

 言葉と逆に、セレナは頭痛がした。
 レスペのような変わり種がもう一人、増えてしまった。
 グラン一人の加入でも、充分キツかったのに。
 セレナは目頭とこめかみを、指で強く押した。



「……レイジ国全ての連合軍解体が決定した」

 グランの一言で、ミルンを目指して歩く一行の足が止まる。
 グランはブラムス周囲に使い魔を複数放って、情報を収集している。

「それは、つまり……」

「レイジ国から、連合軍兵士が全員、撤退する」

 クロエが言い淀んだ内容を、グランはハッキリと言葉にした。

「そんな……。近いうちに間違いなく、ブラムスは侵攻を再開します。
 そのとき、レイジ国に連合軍がいないのでは……」

 ユリアの懸念は正しい。
 レイジ国への連合軍派遣が常態化して久しい。
 それが「当たり前」になっていた。
 よってレイジ国は、自前の軍隊をほとんど持っていない。
 もうこれで、カサンとカートンだけの問題ではなくなった。
 レイジ国自体が、落ちる。

「今さら、首脳会議の決定に何を言っても無駄だろ。
 私達にできることは、
 さっさと戦力をつけて、カートンとカサンを奪還することだ」

 力強く言い放つミンを、誰もが頼もしいと感じた。
 彼女の目に、涙が溜まっているのを見つけたグランを除いて。
 故郷と同じく、また一つの国が、滅びようとしている。
 どちらも、彼女が関わった国だ。
 どちらも、彼女が愛した人・モグリが関わった国だ。
 ミンはモグリを、ブラムスに奪われた。
 内心では、悲しみと復讐が入り乱れているだろう。
 カートン奪還への思いは、人一倍強い。
 だが今は、温度を上げるときではない。
 新たな国で冒険を行い、役に立つアイテムや人脈、経験を積むのが必要だ。
 ミンを初め、敗戦で心乱れるメンバー達を冷静にさせることが最優先だと、グランは判断した。

「レイジ王の無念は、察してあまりあるな」

 セレナが悲痛な表情を浮かべる。

「すでに、死んだ。
 自害か首脳会議による暗殺かまでは、知らんがな」

「バカな! なぜレイジ王が死なねばならないんだ!」

 グランにセレナが噛みつく。
 他のメンバーも、セレナと同じ表情を顔に浮かべている。
 セレナの意見は、パーティメンバーの総意だ。

「先程、ユリアが言ったとおりだ。
 ブラムスは態勢が整い次第、レイジ国侵攻を始める。
 だが、兵士はいない。
 首脳会議にしてみれば、レイジ国陥落は想定内だ。
 逆に言うと、被害はそれだけで済ませたい。
 護衛の兵士も満足にいないレイジ王が生きていれば、
 簡単にブラムスに拉致される。
 他の人間領域を危険にさらす情報源や交渉の材料として、利用される。
 それは絶対、避けたいところだろうな」

「だからといって、殺すのか」

 セレナが唇を噛む。
 ミーシャはそんなセレナパーティを見て、驚いていた。
 世界ランキング二位に上り詰めるために、幾多の修羅場をくぐってきたはずだ。
 時には、政治の清濁を併せ飲むこともあっただろう。
 それでも、人間味を失っていない。
 彼女達には、温かみがある。
 マギヌン将軍が世界ランキング一位ではなく、二位のパーティに助けを求めたのも頷ける。

 ミーシャは、このパーティに好感と興味を抱いた。

 グランは、セレナと一緒になって怒るレスペを見ながら、劣情を抱いた。

「夜も遅い。今日は、この辺りで野営しよう」

 グランの提案を、セレナは受け入れた。



 ラントがある中央部と違い、西部は晴れていた。
 だからパーティは、適度の遮蔽物があり、視界が効く野原で野営することにした。
 皆黙って食事を摂り、夜警の順番を決めると、さっさと寝袋に入ってしまった。
 心身ともに、ボロボロだ。
 死力を尽くして戦ったのに、目の前に突き付けられた結果は、「敗戦」だ。
 歴戦の猛者揃いとはいえ、本音は「やっていられない」だ。
 
 一人だけ、例外がいた。
 無論、グランだ。
 すでにカートン・カサン奪還に向けて、計画を練っていた。
 ただ何にせよ、セレナパーティの強化は不可欠だ。
 リーナパーティは男らだけなので、飛躍的に強くなることは不可能だ。
 だがセレナパーティは去勢オルグ以外、女ばかりだ。
 イチネンボッキの集中注入で、別人のように強くなれる。
 だから夜警でクロエと組んだときも、脳味噌と体には魔法技術を叩き込んだ。
 秘部と尻穴には肉棒を叩き込んだ。
 だが今夜最大の目的は、新たなイチネンボッキ娘の誕生だ。
 レスペと夜警を組むユリアに事情を話し、段取りを組んだ。



 レスペとユリア組に、夜警の順番が回ってきた。
 レスペは偵察もそこそこに、剣の鍛錬を始めた。

「ユリア。私は本当に悔しいよ。絶対に勝てると思ってた。
 甘かったのかなあ……」

「甘いな」

 レスペが驚いて、声がした方に目をやる。
 そこにユリアはおらず、グランがいた。

「あんた、寝ないでいいの?
 それとも、あんたも悔しいから、鍛錬するのか?」

「純粋に、二つの疑問がある。
 一つ目だが、まずユリアがどこにいるのか心配しないのか?
 二つ目だが、こんな深夜に男の俺と二人きりになったんだ。
 身の危険を感じないのか?」

「ユリアなら、皆のところで寝袋に入って寝ているじゃないか。
 あっ、夜警サボッて寝やがって!
 サボリ足早い賢者だな、全く!」

 サボリ足とかいう単語は初めて耳にしたが、どうでもいいだろう。
 グランは改めて、レスペという女を視る。
 夜目の魔法を使っているので、昼間と同じように見える。
 情熱の赤髪は、後ろで無造作にパイルリングでまとめている。
 金色と茶色が混ざり合った幻想的な瞳。
 アマゾネスらしく、小麦色に焼けた健康な肌。
 全体的に、肉付きがいい。
 特に尻はパンパンに張り、男の目と股間に強烈な刺激をあたえ、誘ってくる。
 そんなセックスシンボルのような肢体を振りながら、サボッたユリアをまだ怒っている。

「ユリアの件は、そこまでだ。今夜の夜警は、俺と組む」

「あんたと? 何で?」

「人に質問する前に、俺の質問に答えろ。
 俺は先程、二つ質問したはずだが?」

「あんたと二人きりで怖くないかってやつ?
 怖いわけないだろ。お前はパーティの仲間だし。それに」

「それに?」

「もしも不埒(ふらち)なことを考えていたら、斬ればいいだけの話だ」

 今回の凌辱は、盛り上がりそうだ。
 久しぶりの新規凌辱に、グランは腕まくりした。

「なるほど。
 ところで物騒な話は止めて、夜の小川でも見に行かないか?
 闇夜で聞こえる小川のせせらぎは、いい癒しになるぞ」

「そうなのか!? 行こう! ぜひ行こう!」

 レスペは疑うこともなく、グランの後をついてくる。
 この小麦色天然美女は、危機感が欠落しているのか。
 あるいは、自分に降りかかる災いは全て斬る自信があるのか。
 それは、グランにも分からない。



 野営地の野原から少し離れ、丘を降りたところに小川が流れていた。
 食事の準備の際、グランはこの小川を見つけた。
 凌辱には絶好の場所だ。

 グランは、夜空を見上げる。
 星空が美しい。
 だがきっとリーナがいる場所は、雨が降っている。
 何の根拠もないが、直感がそう告げていた。

「おお、本当だ。深夜に聞く小川が流れる音って、風情があるな。
 グランは、こういう癒しが好きなのか? だったら凄く意外だ」

 赤髪の美女は、ズバズバと本音を言う。
 しかしグランは怒りでも呆れでもなく、そんなレスペを蛇の目で見ていた。

「俺が好きなのは、旨い食事と酒、そしていい女だ」

「だったら、私のことは大好きだろ」

 そう言って、レスペは腰に両手を当てて、胸を反らせる。
 薄い鎧を巨乳が突き上げる。
 肉付きがいい体は、今にも装備をはち切らんばかりだ。

「ああ、大好きだな。
 お前のようなスケベな体をした女は、俺の好物だ」

「グラン、私は冗談を言っただけだ。
 お前も冗談だよな? もし、本気なら……」

「俺は本気だ、レスペ。今、この場で、お前を犯す」

 レスペが剣の(さや)に手をかける。

「レスペ。まず、そこの小川で小便をしろ」

 そう言って、グランがレスペに接近する。

「ショウベ……オシッコは、見世物じゃない!」

 言い返しながら、レスペは居合切りした。
 本気だった。
 グランが自分に向ける(よこしま)な気持ちが、本気だったからだ。
 だが渾身の居合を、グランは簡単に剣で受け止めていた。

「そう言えば、昨日から寝不足らしいな。
 だから技にキレがないのか?」

 レスペが悔し気な表情で、一歩退く。
 逆にグランは、間合いを詰める。

「予言してやる。お前は俺に犯され、ヒイヒイと喜びの声を上げる。
 そして最後には、小川に向かって小便をする。
 これはお前の運命で、変えられない」

 グランの顔に喜悦の笑みが浮かぶ。

「そんなオシッコ運命、変えてやる!」

 追い詰められたレスペが、グランに斬りかかる。
 だが素早く間合いを詰めたグランに手首を返され、剣を落としてしまう。
 グランは空いた片方の手で、レスペの片乳を乱暴に揉み上げる。

「イ、イヤ!」

「乱暴に乳を揉まれるのが好きなのか。では、始めようか」

 昨日の戦争に続き、レスペにとって負けられない闘いが始まった。
 

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