第54話 嬌声と虚勢と去勢

文字数 4,024文字

  グランの自室の床には、素っ裸でうつむせに倒れている三人の女体があった。
 一晩中、グランにアナルを犯され続け、精子を注入されたクロエ・ミン・ユリアだ。
 尻穴をはじめ、激しく犯された反動で、三人とも脱力して倒れ込んでいる。
 そんな三人だったが、尻だけは突き出している。
 まだ貪欲に、尻穴から精子を(そそ)がれるのをおねだりしている。
 死してなお戦う、アンデッドのような有様だ。
 そんな女達の肛門周辺は、漏れ出たグランの精子で真っ白に染まっている。
 まるで、雪が積もった丘が二つ並んでいるようだ。

「起きろ。手分けして、モグリとトーレスを呼んでこい」

 グランの命令が飛ぶ。
 その途端、尻だけ(かか)げて倒れていた三人が、ムクッと立ち上がる。
 牝奴隷としての従順さと、何より回復力の速さはイチネンボッキの賜物(たまもの)だ。
 三人の女達は手早く肛門や股間を拭い、服を着る。
 ユリアはガウンだけで来たので、一旦着替えに戻らなければならない。
 彼女達がグランの指示を守るべく、退室しようとする。
 その時。

「待て。トーレスは、領主の館にいる。
 ミンが一人だけ行けば、充分だ。
 クロエは、この街のどこかにいるモグリを探して連れてこい。
 技師達に聞けば分かるはずだ。
 ユリアは着替えたら、パーティのメンバー達を起こして連れてこい。
 一応、オルグもな。
 玄関ホールに集合だ。よし、行け」

「はい、ご主人様」

 三人の女達から、美しくもテキパキとした声が返ってくる。
 割り当てを決めたのは、ミンへの配慮だった。
 ミンとモグリ。
 お互いに、幼馴染であることを隠していた二人だ。
 彼女がモグリと二人きりになれば、気まずくなる可能性がある。
 特級や上等の凌辱師・調教師は、性行為の時しかイジめない。
 それ以外の時間は、自分が飼っている牝奴隷達に配慮する。
 美しい女はあくまで牝奴隷であって、農奴などの作業奴隷ではない。
 その分別がついて、初めて一人前だ。
 王族や貴族、高級官僚や豪商達に凌辱師・調教師は多い。
 その多くが紳士と呼ばれる由縁が、ここにある。

 高級宿だけあって、すでに執事達は起きていた。
 彼等に、グランは依頼した。
 玄関ホールのテーブルに、人数分の朝食を準備するようにと。

 初めに現れたのは、同じ宿に泊まっているセレナパーティのメンバー達だ。
 その頃にはもう、広いテーブル上に、人数分の朝食が載っていた。
 焼きたてのパンにベーコンの卵とじ、新鮮なアスパラに牛乳。
 お好みで、リンゴやオレンジの果実ジュースも飲める。

 早朝から、しかもグランに起こされて、セレナは顔を真っ赤にして怒っている。
 彼女の性格上、寝る間も惜しんで、鍛錬に励んでいるはずだ。
 なのに、この元気ぶり。
 イチネンボッキが不要に思えてくる。
 案の定、彼女は口を開くなり怒鳴り出した。

「朝早くから人を叩き起こして!
 こんな時間に起こすからには、
 大事(おおごと)なんだろうな!
 大体、起床時間は、パーティリーダーである……」

「黙れ。朝食を食え」

 すでに朝食を食べているグランが、セレナの方を見もせず、短く告げる。
 言い返そうにも、グランが放つ圧は通常の比ではない。
 間違いなく、大事(おおごと)が起きてしまったのだ。
 セレナはむくれたが、言い返さずに食卓についた。
 レスペとオルグ、起こしに行ったユリアも(なら)う。

(また「黙れ」だ!
 私を誰だと思ってるんだ!
 このパーティのリーダーは私だぞ!
 まだ正式メンバーでもないグランが……あ、牛乳美味しい。
 程よい冷たさがいい)

 セレナの機嫌は右に左に忙しい。
 クロエとミンを除いたセレナパーティのメンバーが、朝食を摂る。
 グランが発する圧に、メンバー達は闇を感じた。
 つまりこの後に控えるグランの報告は、非常によろしくない内容だ。
 とても話をする雰囲気などではなかった。
 メンバー達は黙って、朝の空腹を満たしていく。

「こんな朝っぱらから、
 モクモクモリモリ食べるのが強くなる秘訣かー。
 葬式でも、もっと会話あるしー。明るいしー」

 苦笑しながら、モグリが現れる。
 彼を呼びに行ったクロエも戻ってきた。
 同時に、ミンが一人で戻ってきた。

「トーレス殿は、遅れて来られます」

「分かった」

 ミンの報告に、グランが頷く。

「モグリ、朝食だ。お前の分もある」

「お、こいつぁ旦那、気前のいいことでぇ。
 じゃあ、いただきまーす……の前に、
 朝なんだから、挨拶はまず『おはよう』から始めないとねー」

 一人で話しながらモグリは席につき、朝食を摂り始める。
 賑やか男の出現で、場の緊張が和らぐ。
 パーティメンバー達の、肩の力が抜ける。
 当の本人であるモグリは、脳内で算盤(そろばん)を弾いていたが。

(旦那がご丁寧に、朝食の準備ねえ。
 これって要するに、アレだろ?
 旦那の緊急報告を聞いたらさ、もう飯が喉を通らないみたいな?
 だから、今のうちに食っておけって意味なわけでぇ。
 ったく、ブラムスの吸血鬼の皆様さあ、何やっちゃったわけ?)

(ほら! モグリのときは「黙れ」って言わない!
 男尊女卑だ! グランのバーカ!)

 モグリとセレナは内心で色々と考えるが、食事の手は止めない。
 食べられるときは、必ず食べておく。
 冒険者や兵士の常識だ。
 この後も、食事を摂れる保証などどこにも無いのだから。

「モグリ、確認しておきたい点が二つある。
 一つ目は、(たみ)の避難状況だ。これは最優先事項だ。
 二つ目は兵の数が倍になって、トーレスは本当に喜んでいるのか、だ。
 俺には奴が、そんな間抜けだとは思えん。
 最初はただのウスノロだと思っていたが」

「旦那、最後の一言、余計だわー。
 んでぇ、一つ目に答えますけどぉ。
 今日の昼を待たずに、民の避難はグランドフィナーレ的な?」

「それは無い。
 お前の指示でこの街を要塞化している技師達の避難は、
 人数的に丸一日はかかる。
 さらに、だ。
 今日中に街の要塞化や罠を仕掛け終えられるとは思えん」

 自分に反論してきたグランを、ほんの一瞬、モグリは睨みつける。
 それは本当に一瞬だったが、瞳に剣吞(けんのん)な光を宿していた。

「旦那、大工衆や発破組は避難しないんすよ。
 つまり、ここで俺達と一緒に戦う」

「馬鹿な! 非戦闘員だぞ! 避難させろ!」

 激情したセレナに、

「黙れ。朝食を摂り終えたなら、大人しく待ってろ」

「世界ランキング二位パーティの勇者様に、こんな事言っていいのかな?
 黙れ。
 って、もう言ってるしー」

 グランとモグリが冷たい視線を送る。

(ふ、二人して「黙れ」だと! 斬る! 斬ってやる!)

「まあでも、怒ったパツキンのセレナ嬢、すんごい美人で驚いた。
 目ぇ覚めるわー」

 セレナの本物の殺意を、モグリの世辞が静める。

「今回の戦争で、この街? この戦い? に命賭けるの、
 兵士やあんた達みたいな冒険者だけじゃなくてね。
 技術者達には、あいつ等なりの矜持(きょうじ)ってモンがある」

 モグリが結論を告げる。

「残って戦ってくれる技師達は、何名いる?」

「四百九十七人」

 グランの問いに、モグリが即答する。
 技師達の名前を聞けば、スラスラとモグリは答えられるだろう。
 一心同体。
 吸血鬼と魔物が巣食う国・ブラムス。
 そんな国を隣国に持ち、カートンで生きる者達は緊張を強いられてきた。
 それが日常だった。
 自然と、カートンで生きる者達の間には絆が生まれる。 
 モグリと技師達にもまた、切れない絆がある。

「で、二つ目の質問に答えますけど。
 トーレスの大将は確かに、首脳会議の援軍にハッピー感じてますわ。
 夢精しちゃうぐらいに」

「ブッ! ……コホン。話を続けろ」

 思わず吹き出したセレナが、虚勢を張る。
 元からセレナを相手にしていないモグリが、話し続ける。

「なーにが一個師団、二万名なんだか。
 戦力が倍になるってぇより、殉職する兵の数が倍になるだけだっつうの」

「ブッ! ……スイマセンスイマセン! どうぞお話を続けてください!」

 不謹慎なタイミングで吹き出したオルグが、冷や汗をかきながら謝り倒す。
 去勢は虚勢を張らない。
 元からオルグなど空気以下の認識だったグランとモグリのやり取りは続く。

「寄せ集めの連合軍に、さらに寄せ集めるわけだ。
 この一手が悪手かどうかは、実際に戦ってみないと分からないな」

 そう言うグランの顔には、軽蔑が浮かんでいた。

 首脳会議が本気でブラムスと交戦する気なら、二倍ではなく二十倍の兵士を派遣する。
 つまり今回の増援は、ポーズに過ぎない。
 各国の王達は、それぞれが治める国民の支持を得たい。
 だから「カートンの一件で、目に見える手は打った」というアリバイが欲しい。
 国民の前で、自分は他国を見捨てていないと、胸を張りたい。
 それに付き合わされる兵士の命など、王達は考えもしない。
 それに付き合わされる兵士の気持ちなど、王達はその存在すら知ろうとしない。

「旦那。マジな質問なんすけど。負けるとか思ってます?」

 唐突なモグリの問いはしかし、ここにいる皆の心中を代弁していた。
 グランはカートンに攻め入るブラムスの軍勢について、確かな情報を持っている。
 そしてその情報は、凶報だ。
 グランの返答は、この戦争の結果を告げるに等しい。
 広いホールが静まり返る。
 そしてグランが、口を開いた。
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