第30話 ヤカタでヤッタか

文字数 4,199文字

 セレナパーティは、カートンに戻った。
 戦闘後の汚れと血生臭さが、こびりついたままだ。
 だが、入浴や着替えをしている暇はない。
 事は緊急かつ重大だ。
 だから、このままの恰好で領主の館に向かう。
 そしてセレナだけではなく、全員で領主への報告に向かうことになった。
 間違いなく全員の命がかかった、全面戦争になるからだ。

 都市や街の領主は、首脳会議で配属命令が(くだ)される
 だが、形だけだ。
 全て、所管する国の推薦どおりに人事が動く。
 手柄を上げた兵士が()く。
 貴族が形だけ就く。
 官僚が順番に就く。
 都市・ダイドウのように、王族が就くこともある。
 この場合、二種類の意味がある。
 一つは、将来の国王修行。
 もう一つは、国王候補序列が低い者への土地譲渡だ。
 つまり、反逆を防ぐための不満防止対策だ。

 だが、レイジ国だけは違う。
 ブラムスに接する唯一の人間領域だけあって、各都市・街の領主は、戦場での指揮経験豊かな兵士や冒険者が割り当てられる。
 特にブラムスに最も近い「都市・カサン」、そして「街・カートン」では。

 カートンの領主の館に、華やかさは一切無い。
 高く鉄製の(へい)が館を囲み、小ぶりな要塞のようだ。

 門前でセレナが、領主護衛の連合軍兵士に事情を説明した。
 すると、館内の接見の間へ通される。
 セレナとユリアが、一人掛けソファに座る。
 まだ長ソファーがあるが、何となく他のメンバーは立っていた。

「グラン。
 やはり、あなたがこのソファーに座るできではないかしら?」

 冒険者用の接見の間で、一人掛けソファーは二つしか置かれない。
 パーティリーダーである勇者とその相棒用だ。
 よってユリアが座っているのは、おかしくない。
 ただ、これまでの業績を振り返れば、この椅子にはグランが相応しい――ユリアはそう主張している。
 セレナは口を真一文字に結び、黙ったままだったが。

「俺に気を使うな。
 そんなことより、ここの領主の首根っこを絶対に抑えることだ」

 グランの物言いに、上品なユリアは眉をひそめる。
 だが、グランの言うとおりだ。
 寄せ集めの連合軍を束ねているのは、領主だ。
 そしてその領主より間違いなく、世界ランキング二位のセレナパーティの方が、戦闘経験は上だ。
 戦術構築や兵站確保の議論になったら、イニシチアブを握らねばならない。
 それは決して、低レベルな主導権争いなどではない。
 このカートンの存亡どころか、下手をすれば人類の滅亡がかかっている戦いなのだ。

 領主が来るまで、少々時間が空いた。
 グランは、半歩後ろに下がった。
 そしてオルグとレスペに気付かれないよう、クロエとミンの尻を触る。
 二人は一瞬、体をビクッと震わせる。
 けれど、されるがままだった。

 柔らかく、手から尻肉が(こぼ)れ落ちるクロエの尻。
 引き締まり、揉んだ手を心地よく押し返すミンの尻。
 どちらも逸品だ。
 グランは二人の尻を触り、つねり、鷲掴みにする。
 同じ並びに、オルグとレスペがいる。
 いつ二人に気付かれても、不思議ではない。
 その緊迫感が、より一層、淫心をかき立てる。
 クロエとミンの股間から、ついに愛液が溢れてきた。
 グランはクロエのローブを器用にたくし上げ、ミンの武闘着を膝までズリ下す。
 パンティ姿の尻を晒す二人。
 クロエの背中には、神殿・デーアの紋章が刻まれている。
 ミンの武闘着には、ドラガン王国の戦士の紋章が刻まれている。
 上半身は威光を放ちながら、すぐ下はパンティだけ。
 男の欲情を最高に刺激する絶景だ。

 グランはさらに、クロエとミンのパンティを膝までズリ下す。
 クロエの白くて透明で桃のような尻肉。
 だが、剛毛に尻穴を覆われた尻。
 ミンの尻は血色が良く、形がよくて綺麗だ。
 今は興奮で、鳥肌が立っているが。

 そのまま、グランは二人の生尻を鷲掴みにする。
 鷲掴みにしたまま、尻肉を(ひね)る。
 柔らかくプリンとし、掴んだ手を吸収するようなクロエの尻。
 しなやかに、かつ反抗期のような弾力で手を押し返してくるミンの尻。
 どちらの生尻も、上物(じょうもの)だ。
 グランは満足気に微笑んだ。
 高級娼館でも、これだけの尻をした娼婦はそういない。
 前の秘部もイジッてやろうとしたとき、室外に人の気配がした。
 グランが器用に素早く、クロエとミンの着衣を整える。

 二人の更衣が終了するのと、カートンの領主・トーレスの入室は同時だった。
 トーレスは背が高く、筋肉質な体躯の持ち主だった。
 よく陽に焼けており、冒険者だったことは明白だ。
 もう一人、騎士も入室してきた。
 こちらは垂れ目で、人を食ったような顔をしている。
 しかし、見る目のある人間なら気付く。
 その騎士の肉体には、必要な箇所(かしょ)に必要な量の筋肉がついている。
 そして、戦闘経験も豊富だ。
 指についた剣ダコが、それを物語っている。

「待たせてすまない。
 緊急事態が勃発してな。
 そちらの用件と同じだと思うが」

 トーレスの声には、独特の張りがある。
 魔法使い独特の。

「セレナとユリア以外は、初見だな。私はトーレス。
 今は、カートンの領主を拝命している。
 それまでは、王国・ドラガンで魔法剣士として戦っていた」

 魔法剣士は、戦士と魔法使い、両方の資質を持つ貴重な戦力だ。
 グランに言わせれば、どちらも中途半端の使いづらい駒でしかないが。

 トーレスが自己紹介したので、セレナとユリアは初見の騎士に向けて自己紹介する。
 他のパーティメンバーは、トーレスと騎士の両方に自己紹介する。

 最後に、騎士が軽薄そうな口調で自己紹介する。

「俺は、ラントから派遣されてるモグリだ。
 一応、ここで連合軍団長とやらの肩書をつけてる。
 一応だぞ。
 それに派遣といっても、(てい)のいい左遷だからな」

 モグリは方頬を歪めながら、自虐する。
 笑っているらしい。
 セレナパーティのメンバー達が、顔を(しか)める。
 けれどグランは、面白い奴がいたもんだと楽しくなる。

「さて、本題に入ろうか」

 トーレスが場を仕切る。
 セレナが、一連の流れを説明する。

「カサンから早馬で受けた報告と合致するな」

 そこで一拍置き、俯いたあと、トーレスが再び口を開く。

「カサンには、ブラムスの一個旅団と同数の連合軍が配置されている。
 ただ、個々の戦闘力が違い過ぎる。
 敵一個旅団の中には、複数の血吸いがいるという情報もある。
 カサンは、早晩落ちる」

 トーレスが冷静な口調で告げる。

「カサンは落ちるだろう。
 だが血吸いどもも、かなりの深手は負うぞ」

 発言したグランに、全員の視線が集まる。

「その根拠は?」

 トーレスが、射るような視線でグランを見る。
 いい評判は、彼の耳に入っていないらしい。
 一方、モグリの方はニヤリと方頬を(ゆが)めて笑う。

「世界ランキング一位のパーティがいるからだ」

 トーレスが鼻でフンと笑う。

「世界一位が、どれほどの強者か知らんがな。
 たかが数人のパーティだろう?
 何ができるというのだ?」

「例えば準備体操レベルで、こんなことかな」

 そうグランが言った瞬間、接見室に無数の火球が浮かび上がる。

「熱い!」

「アッチィ! これ本物じゃねえか!」

「グラン! 急いで消せ!」

 ユリアは悲鳴を上げ、レスペは怒声を上げ、セレナはヒステリックに叫ぶ。
 グランはまるで何も無かったかのように、火球を一瞬で全て消した。
 トーレスは、驚愕で声が出ない。
 モグリは今にも腹を抱えて笑い出しそうなほど、愉快げだ。

「仮にも魔法剣士だろ? 
 だったら少しは、魔法をかじったな?
 ならば、今の火球の威力が分かるはずだ」

 グランの声には、足元から這い上がってくるような冷たさと敵意を感じる。
 慌ててトーレスが返答する。

「あ、ああ……。
 あの火球一つで、この館一つを吹き飛ばせるな」

「全部合わせれば、この街ごと消し去れる。
 ……冗談で言ったんだが?」

 とても冗談に聞こえないセリフを言って、グランは笑っている。

「……世界ランキング一位のメンバーは全員が、
 あのレベルの実力の持ち主だと?」

 トーレスがグランに確認する。
 どちらの返事が返ってきても、トーレスにとっては恐ろしい。

「いや、違う」

 拍子抜けするトーレス。

「言ったろう。準備体操レベルだと。
 世界ランキング一位のメンバー達が本気を出せば、
 カサンもカートンも落とすことができる」

 自分が所属していた頃だったら、な。
 その事実は告げない。

「……頼もしいな。
 だが、貴殿もカサンは落ちると見ているのだろう?」

 トーレスの反撃が始まるが、グランは興味なさそうに応対する。

「連合軍が、寄せ集めの集団だからな。
 レイジ国での戦争では、どれだけ連合軍を団結させられるかが、
 勝負の鍵を握る」

「おっと、こいつはお役目重大だねえ」

 モグリは、ふざけたスタンスを崩さない。
 そんなモグリを、グランはむしろ頼もしいと思った。
 一癖も二癖もある兵士達を(たば)ねるのだ。
 その人間自身、癖が強過ぎるぐらいで丁度いい。
 何より、この男は強い。
 戦闘能力も高いが、それ以上に、サバイバルに長けている。
 垂れ目だが、眼光は鋭い。
 その鋭さは自分に通じるものがあることに、当の本人のグランは気付いていない。

「どのみち、ここカートンで戦うわけだ。
 さて、実務的なことを詰めよう」

 トーレスが優秀な領主なのは、認める。
 しかしセレナとユリアのコンビが、折衝でリードを許すとは思えない。
 そう判断したグランは、後のことをセレナ達に任せた。

 窓に寄って、空を見る。

 同じ空の下にあるカサンに、意識が飛ぶ。

 同じ空の下にいる、リーナを想う。

 股間でイチネンボッキが、静かに牙を研ぎ澄ます。
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