第19話 女賢者が超高級娼婦にしか見えない件

文字数 3,168文字

 散り散りになった小隊に、セレナパーティのメンバー達が罵声を浴びせる。
 一際目立ったのが、去勢タンクのオルグだった。

(あの去勢野郎は何の役にも立たないのに、
 罵声とミンをたぶらかすのは一丁前だな。
 ま、ミンは俺が犯して調教し、しっかりとした牝に育ててやるが)

 そんなことを考えながら、グランはタイシと正門外のカザマン大隊に目をやる。

 さて。
 もう、二つの魔法は浸透したな、と。

 唯一、その場に残ったタイシに、グランが対峙する。
 確認すべきことがある。

「都市・ダイドウで暗殺者と戦っているとき、
 使い魔を飛ばしたのはお前達だろう」

「ああ、そうだ」

 グランの問いに、タイシがニヤリと笑って肯定する。

「見事な肉弾戦だった。
 魔法使いのくせに、体技もいけるのか」

「若い頃、鍛錬を受けたからな」

 都市・ダイドウで使い魔を放った連中がハッキリしたのは良かった。
 不明なら、あと何ヵ国も疑って(さぐ)りを入れなければならない。
 正直、手間が省けたのは助かる。
 ふと、タイシが自分の首の辺りを見ていることに気付く。

「その首裏に仕込んだ短剣で、
 俺を殺すつもりだったか?
 魔法使いの装備隠しなど、本物の戦士は簡単に見抜くぞ」

 悔し紛れに、タイシが嘲笑してみせる。

「この短剣は、お前の気を引くための保険に過ぎない。
 すでに本命の魔法は、お前にかけた」

 淡々と返すグランが、タイシにはこれ以上ないほど不気味に映る。

「魔法だと? どうせハッタリだろうが!
 俺の体はピンピ……? グウゥ……」

 最後まで話せない。
 タイシの体内全てが締め付けられ、破裂しそうだ。

「体内圧の魔法だ。
 この魔法はメリットも大きいが、デメリットもある。
 効果が出るのに時間がかかるのと、かける際に非常にバレやすい点だ」

 だからタイシが首裏のナイフに気を取られ、さらに公文書を燃やされて激昂(げきこう)したときに、体内圧の魔法をかけた。

「そ……ん……な……き……」

「無理に話す必要はない。
 後一分ほどで、お前の体内で全ての臓器と血管は破裂する」

 苦痛に顔を歪ませたタイシが前のめりに倒れ込むのを、グランはひらりとかわし、前進する。
 逃走する大隊を見詰める。
 と、セレナが横に立った。

「私が依頼するまで、魔法は使わなくていい。
 あの小隊など、パーティメンバーで皆殺しにできた」

 強気な発言に、グランは目を細める。

「お前、嘘だと思っているなら……」

「嘘つきは、カザマンだけだろう。
 確かにパーティメンバーだけでも、小隊を追い払えただろうな」

 ま、深手を負う者は二、三人出るだろうし、オルグは確実に死ぬだろうが。
 それは黙って、

「小隊は、正門外にいた大隊を動かすための駒に過ぎない」

 と本音を暴露する。
 セレナは眉をひそめ、

「どういうことだ? 分かるように言え」

 と詰め寄る。
 気付くと、他のパーティメンバーも集結している。

「俺は、大隊にも魔法をかけた。
 イメージ魔法だ。
 南と西に大蛇と悪鬼のイメージを大隊の奴等の精神に刻み込んだ」

 パーティの誰一人、グランの狙いが分からず、困惑している。

「つまり、大隊が北東に逃げるように仕向けたんだな。
 理由は?」

 困惑を隠し、セレナが詰問してくる。
 それだけ、先程の小隊相手の手腕が見事だったということだ。
 だからこれ以上、グランにイニシアチブを握られないよう、必死だ。

(パーティリーダーは大変だな、色々と。
 リーナも初めはムサイとウザイを従わせるのに、苦労していたな。
 ニンチのジイさんとのコミュニケーションにも苦労していたし。
 あ、それは今もか)

 いつの間にか、口元がやや微笑んでいたらしい。
 セレナが鬼のような目で睨んでくる。

(まあリーナの場合、最後は結局、
 全員が彼女のカリスマの前に(ひざまず)いたわけだが。
 セレナは、まだまだだな。
 早く俺の精力で、レベルを上げてやらないとな)

 その本音は隠し、

「間抜けなカザマンと同じく、
 リーナパーティと入れ違いでカートンに(つか)わされた中隊が存在する」

「どこの国だ?」

「ブラムスだ」

 さすがのセレナも、顔に驚愕の表情が浮かぶ。
 他のメンバーも同様だった。

「……血吸いの国が遣わしたということは、
 狙いはリーナ殿の殺害か」

「そうだ。だがカートンを去り、
 カサンに向かった後だった」

 振り絞るような声で問いを発したセレナに、グランが淡々と答える。

「なぜそれを、もっと早く言わない!」

 激昂するレスペに、

「言って信じたか?
 俺はそれを知っていたからカートンを避け、
 カサンに向かおうと提案した。
 だが、お前達に反対された」

 グランはすまし顔で答える。

「あなたは、このパーティを危険にさらす気ですか?
 そんな重要な情報なら、把握した時点で報告すべきです。
 信じる信じないは、パーティリーダーが決断することなのですから」

 口調からして、ユリアも怒っているようだ。
 けれどグランには、ユリアが高級娼婦に見えて仕方ない。
 それも王侯貴族専用の高級娼婦だ。

「危険に晒す気はない」

「証拠がない」

 内容よりも、ミンが口を開いたことに、グランは驚いた。
 その声は澄んでいながらも、大人の色香を含んでいる。

「証拠なら、二つある。
 お前達を殺す気なら、俺は先程、さっさと逃亡していた。
 正門外にいた大隊に、お前達を襲わせるよう仕向けてからな。
 もう一つは、ブラムスが派遣した中隊が潜む箇所に、
 お前達を行かせていないだろう」

 筋が通っているので、誰も反論できない。

「セレナ。
 ブラムスが派遣した中隊がいる以上、
 静観はできないはずだ。
 吸血鬼と魔物どもを殲滅するのが、このパーティの存在意義だからな」

「お前に言われずとも、分かっている。
 準備が整い次第、すぐに討伐に向けて出発だ」

 セレナの強気な発言。

「でもセレナ、敵は中隊、つまり二百匹いるのよ?」

 クロエの指摘に、セレナの表情に影が差す。

「しかも中隊を率いるのは、上等ミノタウロスだ」

 グランのトドメの一撃。
 セレナが何とか打開策を見つけようと、鬼の形相で必死に考え出す。

「だから、カザマン大隊を北東にいかせたんだ」

 グランの一言に、一瞬、静寂が落ちる。
 直後、クロエの声が弾ける。

「さすがグラン殿!
 カザマンの大隊は、ブラムスの中隊と鉢合わせする。
 当然、戦闘になる。カザマンの大隊に、殲滅(せんめつ)させるのですね!」

「いや、どうだろうな」

 クロエの歓喜にグランが水を差す。

「カザマン大隊は総員八百名から、小隊五十名を失った。
 さらに、隊長と副隊長を失っている。
 しかも副隊長の暴露話によると、
 エルフの国・ベンゲルで何名か死亡し、負傷者も抱えている。
 どっちに転ぶか分からん。
 分からんが」

 言葉を切ったグランを全員が注視する。

「潰し合いになることは確かだ。
 どちらが生き残っても、かなりの損失を出す。その連中を叩く」

 グランのプランに、メンバーの顔が輝く。
 セレナだけ、慌てて表情を引き締めたが。

「よし、出発の準備を整えよう!」

 気を取り直したセレナが号令をかける。

 その時。

(ここに長居し過ぎたな。
 カザマン小隊の奴等が戻ってきやがった)

 背後から忍び寄ったカザマンの兵士が、レスペに斬りかかる。
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