第6話 ハーレム必至の入れ食いパーティ参上
文字数 4,721文字
グランは心の中で嘲笑っていた。
自分相手に尾行とは。
ナメられたものだ。
世界二位とはいえ、つい先程まで所属していた世界一位のパーティとは雲泥の差がある。
そのレベルの差は、到底越えられるものではない。
「お前のパーティは忌々しい『ヴァルキリー』の分隊が源流だった。
そう記憶しているが、男がいるようだな」
尾行に気付かれた!
その瞬間、クロエの仲間であり、世界ランキング二位のパーティメンバー達が、木々の間から飛び出そうとして――異変に気付いた。
体が異常に重く、飛び出すどころか走るのも無理だ。
自己知覚すると、攻撃・守備力が著しく低下している。
しかも、魔法は完全に封じられている。
とても戦える状態ではない。
「お前達の視覚と聴覚も無くしてやろうか?
そして精神作用で、裸踊りでもさせた後に、同士討ちさせてもいいんだぞ?
それが嫌なら、大人しく出てこい!」
グランが四方に向かって叫ぶ。
それでも誰一人、姿を現さない。
「お前達は忘れている! こちらに人質がいることを!」
もう一度叫ぶと、
「キャッ!」
グランはいきなり、クロエの頬を派手な音を立ててぶった。
ただ音は大きいが、そのビンタはさして痛くなかった。
女を嬲り慣れ、威嚇することに慣れ、そして心理戦にたけた者の所業だ。
木々の間から、一人、また一人と姿を現した。
四人が姿を現した。
三人は女だ。
残る一人は、体格は大きいものの、身にまとった雰囲気は中性的だ。
だが男であることは分かる。
去勢したな……。
そんなことを考えていると、視野の死角からナイフが飛んでくる。
首を軽く傾け、なんなくナイフをかわす。
「これだけの鈍麻魔法を使われてなお、ナイフを投げられるとは。
大したものだ。勇者だな。出てこい。クロエを殺すぞ」
すでに出てきた四人も目でグランを殺さんばかりに睨みつけている。
だがだ、最後に出てきた女勇者の憤怒の表情と身にまとう殺気は、別格だった。
「リーナほどではないが、勇者は勇者ということか。それより……」
自分に向けられた四方からの殺意を気にも留めず、グランは観察し、所感を述べる。
「クロエを含め、女が五人に、去勢された男が一人か。
世界二位のパーティが、『ヴァルキリー』の一味であることがハッキリしたわけだ」
言いながら、グランはペッと唾を吐く。
「いかにも、私達は『ヴァルキリー』の分隊であり、世界ランキング二位のパーティだ」
女勇者が毅然と言い放つ。
凛とした輝きがある。
ニヤリとグランが笑う。
勇者という高いステータス。
気高き誇りと魂。
そして、憎き『ヴァルキリー』。
「なるほど、『ヴァルキリー』の精鋭部隊か。
そしてお前が勇者にして、このパーティのリーダーだな?」
「彼女に向かって『お前』などと……!」
「去勢野郎は黙ってろ!」
噛みついてきた中性男に、グランが怒鳴る。
その圧で中性男が腰砕けになる。
「いかにも、私が勇者にしてパーティーリーダーのセレナだ」
高身長で脚が長い。
袖なしチェーンメイルのお陰で、スタイルをよく観察できる。
無駄な脂肪はついていないが、肉付きがいい完璧なスタイル。
クロエほどではないが、チェーンメイルが巨乳で盛り上がっている。
兜を装備していないので、背中まで伸びたサラサラの金髪が露わになり、目に眩しい。
二重で鋭い眼差し、高く整った鼻梁に、強い意志を感じさせる締まった唇。
さすが世界二位パーティの勇者、いい女だ。
この気高い女をいつか俺が征服してやる。
そんなギラギラした野心を抱えていたグランに、
「私達の負けだ。クロエが、無断で使い魔を飛ばしたのも知っている。
どうか、今回は引いてもらえないだろうか」
当のセレナ本人が頭を下げる。
長い金髪が揺れて、月光が反射する。
そんなに頭を下げるなよ、しゃぶらせたくなるだろうが。
そんな黒い本心を隠して、グランはあくまでビジネス調で話を進める。
「見たところ、お前達のパーティに黒魔導士はいないようだ」
勇者・セレナ、白魔導士・クロエ。
後は装備から察するに、去勢男はタンク、他三人の女は、格闘家・賢者・アマゾネス。
「……確かにいないが。それが、どうかしたのか?」
セレナの声に警戒心が宿る。
「お前達ほどの高位ランキングパーティなら、
黒魔法の有用性は分かっているだろう?」
セレナパーティ全員の顔が引き攣る。
「……まさか、お前をこのパーティに加えろというのか?」
初めましてで、俺を「お前」呼ばわりか。
上等だな。
ああ、そうさ。
パーティに加わってやる。
そしてお前に咥えさせてやる。
「さすが世界二位の勇者だ。話が早い」
「しかし、お前はリーナパーティの一員だろ?」
「先程、抜けたよ」
驚愕の事実に、セレナパーティの面々が動揺する。
パーティのランキングは、世界一の大国・ラントを初めとした国々が、自国の軍隊や神殿、魔法技術員などの意見を聞き、各国の王が一同に会する首脳会議で決定される。
各パーティが、様々な項目から点数化される。
その選考基準に、もちろんパーティメンバー個々のレベルが入っている。
単純に考えれば、世界ランキング一位パーティの黒魔導士は、世界一の黒魔法使いだ。
現在一位のリーナパーティの点数は、史上最高点だ。
この数年、その高得点と順位を維持している。
唯一肉薄したアビスパーティも、勇者でありリーダでもあったアビスの突然の失踪で解散している。
現在二位のセレナパーティとの点差は大きく、逆転はない。
事実上、リーナパーティは人類史上最強で、吸血鬼とその女王討伐の中核を担う。
人類存続がかかったパーティなのだ。
その一挙手一投足は、世界の注目を浴びる。
そのメンバーが抜けた。
朝が来て一日が始まれば、世界中がその話題で沸騰するだろう。
その話題の中心人物を、パーティに入れるなんて……。
しかも実力は先程、自分達で思い知って折り紙付きとはいえ、黒い噂が絶えない人物だ。
そして得体の知れないものへの恐怖に起因してか、黒魔導士自体への世間の評判は悪い。
パーティに加えれば、実戦は楽になるだろう。
だが、各国や民からの兵站の提供や便宜は、著しく低下する恐れがある。
「あなたをパーティに入れると、七人になる。
迷宮の地下道といった狭い戦場で戦いづらくなるわ」
論理的に反論したのは、中級賢者のユリアだ。
青い瞳に青い髪。
髪は背中まで真っ直ぐ伸びており、セレナの金髪に負けないほど艶がある。
可愛い顔つきのクロエと逆で、涼し気な目元をした典型的な美人だ。
彼女の言うとおり、パーティは通常五~六人編成とされている。
理由はユリアの指摘と、古代から続く戦争の部隊編成の名残に起因する。
人数を増やせば増やすほど、戦闘後の分け前が減り、多くの兵站が必要になるという生々しい現実もあるが。
ユリアが纏う青いローブに刻まれた紋章と魔力から、グランは彼女が中級賢者だと見抜いていた。
(中級、ねえ。使えない老害のニンチのジイさんより、魔力で劣るわけだ)
内心苦笑しながらも、表情は変えない。
「戦闘時のフォーメーションは変えなくていい。
全員の後方で、俺が戦う。何なら前方でも構わないが」
「全員の後方って……その距離から味方に被弾させず、魔法を放てるのですか?
そしてタンクや戦士といった前衛の守り無しで、最前線でも戦えると?
それは思い上がり……」
「戦える。実際に戦った経験があるが?
それも、相手が吸血鬼だったケースもある」
ユリアは言い返せない。
これが、世界ランキング一位だ。
くぐった修羅場の質も数も違い過ぎる。
「根本的な疑問がある。
なぜあなたは、世界ランキング一位のパーティを抜けたのか?」
武闘家・ミンが問いを投げる。
(だよな。まず、その疑問、いや、疑念が湧くよな)
ユリアからミンに視線を移す。
「無断使い魔で、パーティの戦士・ムサイとタンク・ウザイがクロエに暴行を働いた。
賢者のニンチは直接手は下さなかったものの、
クロエに許されざる蛮行だと口汚く罵っていたよ。
同じ白魔道士のターリロは、複雑そうな表情で見ていたけどな」
辺りに静寂が落ちる。
グランの虚言を全員がほとんど疑わない。
ニンチとターリロの行動についての言及が、真実味を帯びているからだ。
「駆け付けた俺が、ムサイとウザイを止めた。
ただ、言って聞く連中じゃない。戦闘になった」
ゴクリッ。
聞いている全員が、唾を飲み込む音が聞こえてくる。
世界一位同士の戦い。
世界中の人間達が興味を持つどころか、興奮を抑え切れないだろう。
「お互いに無傷で決着、とはいかなかった。俺は無傷だったが。
二人は重傷を負ったよ。手加減できる相手ではないからな。
ただ、俺が大人しくさせたのはムサイとウザイだ。
無傷だった賢者のニンチと白魔道士のターリロが、必死で治癒魔法をかけてた。
まあ今頃は、ピンピンしてるんじゃないか、頑丈な前衛二人だからな」
世界一位同士の戦いを世界一位が語る。
まさかそこに、嘘が入り込んでいるとは思わない。
疑ったところで、現場に証拠はない。
「勇者にしてリーダーであるリーナ殿は何をしていたんだ?」
そう問うアマゾネス・レスペの眼光と口調は鋭い。
しかしグランは怯まない。
当然来る疑問だ。
そもそも、会話の流れがこうなるように組み立てている。
「リーナが到着したのは、全てが終わった後だ。二人への治癒魔法さえな」
「なぜ遅れたかと、聞いている」
相手が世界一位でも、レスペは引かない。
レペスはアマゾネスらしく、ムチムチとした肉感的なボディに、小麦色に焼けた健康な肌をしている。
ややボーイッシュな顔立ちには、可愛らしさと美しさが同居している。
装備している無骨な鋼の剣と盾が、これ程似合う女はいない。
戦闘時、力と等しく早さも重要視しているアマゾネスらしく、薄手の皮の鎧しか身につけていない。
その胸部は先端が尖って張り出し、今にも突き破りそうだ。
巨乳揃いの珍しいパーティだ。
去勢のオルグは論外として、賢者のユリアはローブ越しに胸を観察する限り、巨乳ではない。
ただ、形よく張っている。
上品な彼女に相応しい乳が拝めそうだ。
リーナ以外、男しかいなかったムサ苦しい前パーティとの違いに、グランは溢れそうになる精力を必死に抑えた。
「吸血鬼と戦っていたからだ」
レスペを初め、セレナパーティ全員に広がる驚愕。
この嘘もまた、グランは堂々と口にした。
現場に戻れば、聖剣で一刀両断された吸血鬼の死体が残っている。
これ以上ない証拠だ。
グランは、目の前にいる世界第二位のパーティメンバーに冷めていた。
下級とはいえ、吸血鬼は独特の魔力を放っていた。
それすら感知できないとは。
「クロエ。グラン殿が話したことは、全て本当なのね?」
パーティ全員の目がクロエに注がる。
彼女の返事一つで、このパーティの未来が大きく変わる。
「……本当よ」
小声でクロエは肯定した。
自分相手に尾行とは。
ナメられたものだ。
世界二位とはいえ、つい先程まで所属していた世界一位のパーティとは雲泥の差がある。
そのレベルの差は、到底越えられるものではない。
「お前のパーティは忌々しい『ヴァルキリー』の分隊が源流だった。
そう記憶しているが、男がいるようだな」
尾行に気付かれた!
その瞬間、クロエの仲間であり、世界ランキング二位のパーティメンバー達が、木々の間から飛び出そうとして――異変に気付いた。
体が異常に重く、飛び出すどころか走るのも無理だ。
自己知覚すると、攻撃・守備力が著しく低下している。
しかも、魔法は完全に封じられている。
とても戦える状態ではない。
「お前達の視覚と聴覚も無くしてやろうか?
そして精神作用で、裸踊りでもさせた後に、同士討ちさせてもいいんだぞ?
それが嫌なら、大人しく出てこい!」
グランが四方に向かって叫ぶ。
それでも誰一人、姿を現さない。
「お前達は忘れている! こちらに人質がいることを!」
もう一度叫ぶと、
「キャッ!」
グランはいきなり、クロエの頬を派手な音を立ててぶった。
ただ音は大きいが、そのビンタはさして痛くなかった。
女を嬲り慣れ、威嚇することに慣れ、そして心理戦にたけた者の所業だ。
木々の間から、一人、また一人と姿を現した。
四人が姿を現した。
三人は女だ。
残る一人は、体格は大きいものの、身にまとった雰囲気は中性的だ。
だが男であることは分かる。
去勢したな……。
そんなことを考えていると、視野の死角からナイフが飛んでくる。
首を軽く傾け、なんなくナイフをかわす。
「これだけの鈍麻魔法を使われてなお、ナイフを投げられるとは。
大したものだ。勇者だな。出てこい。クロエを殺すぞ」
すでに出てきた四人も目でグランを殺さんばかりに睨みつけている。
だがだ、最後に出てきた女勇者の憤怒の表情と身にまとう殺気は、別格だった。
「リーナほどではないが、勇者は勇者ということか。それより……」
自分に向けられた四方からの殺意を気にも留めず、グランは観察し、所感を述べる。
「クロエを含め、女が五人に、去勢された男が一人か。
世界二位のパーティが、『ヴァルキリー』の一味であることがハッキリしたわけだ」
言いながら、グランはペッと唾を吐く。
「いかにも、私達は『ヴァルキリー』の分隊であり、世界ランキング二位のパーティだ」
女勇者が毅然と言い放つ。
凛とした輝きがある。
ニヤリとグランが笑う。
勇者という高いステータス。
気高き誇りと魂。
そして、憎き『ヴァルキリー』。
「なるほど、『ヴァルキリー』の精鋭部隊か。
そしてお前が勇者にして、このパーティのリーダーだな?」
「彼女に向かって『お前』などと……!」
「去勢野郎は黙ってろ!」
噛みついてきた中性男に、グランが怒鳴る。
その圧で中性男が腰砕けになる。
「いかにも、私が勇者にしてパーティーリーダーのセレナだ」
高身長で脚が長い。
袖なしチェーンメイルのお陰で、スタイルをよく観察できる。
無駄な脂肪はついていないが、肉付きがいい完璧なスタイル。
クロエほどではないが、チェーンメイルが巨乳で盛り上がっている。
兜を装備していないので、背中まで伸びたサラサラの金髪が露わになり、目に眩しい。
二重で鋭い眼差し、高く整った鼻梁に、強い意志を感じさせる締まった唇。
さすが世界二位パーティの勇者、いい女だ。
この気高い女をいつか俺が征服してやる。
そんなギラギラした野心を抱えていたグランに、
「私達の負けだ。クロエが、無断で使い魔を飛ばしたのも知っている。
どうか、今回は引いてもらえないだろうか」
当のセレナ本人が頭を下げる。
長い金髪が揺れて、月光が反射する。
そんなに頭を下げるなよ、しゃぶらせたくなるだろうが。
そんな黒い本心を隠して、グランはあくまでビジネス調で話を進める。
「見たところ、お前達のパーティに黒魔導士はいないようだ」
勇者・セレナ、白魔導士・クロエ。
後は装備から察するに、去勢男はタンク、他三人の女は、格闘家・賢者・アマゾネス。
「……確かにいないが。それが、どうかしたのか?」
セレナの声に警戒心が宿る。
「お前達ほどの高位ランキングパーティなら、
黒魔法の有用性は分かっているだろう?」
セレナパーティ全員の顔が引き攣る。
「……まさか、お前をこのパーティに加えろというのか?」
初めましてで、俺を「お前」呼ばわりか。
上等だな。
ああ、そうさ。
パーティに加わってやる。
そしてお前に咥えさせてやる。
「さすが世界二位の勇者だ。話が早い」
「しかし、お前はリーナパーティの一員だろ?」
「先程、抜けたよ」
驚愕の事実に、セレナパーティの面々が動揺する。
パーティのランキングは、世界一の大国・ラントを初めとした国々が、自国の軍隊や神殿、魔法技術員などの意見を聞き、各国の王が一同に会する首脳会議で決定される。
各パーティが、様々な項目から点数化される。
その選考基準に、もちろんパーティメンバー個々のレベルが入っている。
単純に考えれば、世界ランキング一位パーティの黒魔導士は、世界一の黒魔法使いだ。
現在一位のリーナパーティの点数は、史上最高点だ。
この数年、その高得点と順位を維持している。
唯一肉薄したアビスパーティも、勇者でありリーダでもあったアビスの突然の失踪で解散している。
現在二位のセレナパーティとの点差は大きく、逆転はない。
事実上、リーナパーティは人類史上最強で、吸血鬼とその女王討伐の中核を担う。
人類存続がかかったパーティなのだ。
その一挙手一投足は、世界の注目を浴びる。
そのメンバーが抜けた。
朝が来て一日が始まれば、世界中がその話題で沸騰するだろう。
その話題の中心人物を、パーティに入れるなんて……。
しかも実力は先程、自分達で思い知って折り紙付きとはいえ、黒い噂が絶えない人物だ。
そして得体の知れないものへの恐怖に起因してか、黒魔導士自体への世間の評判は悪い。
パーティに加えれば、実戦は楽になるだろう。
だが、各国や民からの兵站の提供や便宜は、著しく低下する恐れがある。
「あなたをパーティに入れると、七人になる。
迷宮の地下道といった狭い戦場で戦いづらくなるわ」
論理的に反論したのは、中級賢者のユリアだ。
青い瞳に青い髪。
髪は背中まで真っ直ぐ伸びており、セレナの金髪に負けないほど艶がある。
可愛い顔つきのクロエと逆で、涼し気な目元をした典型的な美人だ。
彼女の言うとおり、パーティは通常五~六人編成とされている。
理由はユリアの指摘と、古代から続く戦争の部隊編成の名残に起因する。
人数を増やせば増やすほど、戦闘後の分け前が減り、多くの兵站が必要になるという生々しい現実もあるが。
ユリアが纏う青いローブに刻まれた紋章と魔力から、グランは彼女が中級賢者だと見抜いていた。
(中級、ねえ。使えない老害のニンチのジイさんより、魔力で劣るわけだ)
内心苦笑しながらも、表情は変えない。
「戦闘時のフォーメーションは変えなくていい。
全員の後方で、俺が戦う。何なら前方でも構わないが」
「全員の後方って……その距離から味方に被弾させず、魔法を放てるのですか?
そしてタンクや戦士といった前衛の守り無しで、最前線でも戦えると?
それは思い上がり……」
「戦える。実際に戦った経験があるが?
それも、相手が吸血鬼だったケースもある」
ユリアは言い返せない。
これが、世界ランキング一位だ。
くぐった修羅場の質も数も違い過ぎる。
「根本的な疑問がある。
なぜあなたは、世界ランキング一位のパーティを抜けたのか?」
武闘家・ミンが問いを投げる。
(だよな。まず、その疑問、いや、疑念が湧くよな)
ユリアからミンに視線を移す。
「無断使い魔で、パーティの戦士・ムサイとタンク・ウザイがクロエに暴行を働いた。
賢者のニンチは直接手は下さなかったものの、
クロエに許されざる蛮行だと口汚く罵っていたよ。
同じ白魔道士のターリロは、複雑そうな表情で見ていたけどな」
辺りに静寂が落ちる。
グランの虚言を全員がほとんど疑わない。
ニンチとターリロの行動についての言及が、真実味を帯びているからだ。
「駆け付けた俺が、ムサイとウザイを止めた。
ただ、言って聞く連中じゃない。戦闘になった」
ゴクリッ。
聞いている全員が、唾を飲み込む音が聞こえてくる。
世界一位同士の戦い。
世界中の人間達が興味を持つどころか、興奮を抑え切れないだろう。
「お互いに無傷で決着、とはいかなかった。俺は無傷だったが。
二人は重傷を負ったよ。手加減できる相手ではないからな。
ただ、俺が大人しくさせたのはムサイとウザイだ。
無傷だった賢者のニンチと白魔道士のターリロが、必死で治癒魔法をかけてた。
まあ今頃は、ピンピンしてるんじゃないか、頑丈な前衛二人だからな」
世界一位同士の戦いを世界一位が語る。
まさかそこに、嘘が入り込んでいるとは思わない。
疑ったところで、現場に証拠はない。
「勇者にしてリーダーであるリーナ殿は何をしていたんだ?」
そう問うアマゾネス・レスペの眼光と口調は鋭い。
しかしグランは怯まない。
当然来る疑問だ。
そもそも、会話の流れがこうなるように組み立てている。
「リーナが到着したのは、全てが終わった後だ。二人への治癒魔法さえな」
「なぜ遅れたかと、聞いている」
相手が世界一位でも、レスペは引かない。
レペスはアマゾネスらしく、ムチムチとした肉感的なボディに、小麦色に焼けた健康な肌をしている。
ややボーイッシュな顔立ちには、可愛らしさと美しさが同居している。
装備している無骨な鋼の剣と盾が、これ程似合う女はいない。
戦闘時、力と等しく早さも重要視しているアマゾネスらしく、薄手の皮の鎧しか身につけていない。
その胸部は先端が尖って張り出し、今にも突き破りそうだ。
巨乳揃いの珍しいパーティだ。
去勢のオルグは論外として、賢者のユリアはローブ越しに胸を観察する限り、巨乳ではない。
ただ、形よく張っている。
上品な彼女に相応しい乳が拝めそうだ。
リーナ以外、男しかいなかったムサ苦しい前パーティとの違いに、グランは溢れそうになる精力を必死に抑えた。
「吸血鬼と戦っていたからだ」
レスペを初め、セレナパーティ全員に広がる驚愕。
この嘘もまた、グランは堂々と口にした。
現場に戻れば、聖剣で一刀両断された吸血鬼の死体が残っている。
これ以上ない証拠だ。
グランは、目の前にいる世界第二位のパーティメンバーに冷めていた。
下級とはいえ、吸血鬼は独特の魔力を放っていた。
それすら感知できないとは。
「クロエ。グラン殿が話したことは、全て本当なのね?」
パーティ全員の目がクロエに注がる。
彼女の返事一つで、このパーティの未来が大きく変わる。
「……本当よ」
小声でクロエは肯定した。