第16話 ゴックンロリータ

文字数 3,739文字

 クロエがペニスの根本(ねもと)を掴み、先端を丁寧に舐めるところから再開する。
 クロエとどれだけ会話しょうが、ペニスをしゃぶられようが、読んでいる薬学の知識は脳に刻まれていく。
 一度に複数のことが行えるのは、グランの強みだ。

(長旅になりそうだが、
 パーティには良質な女が複数いる。
 クロエの調教と同時進行で、
 一戦交えた後に、
 もう一人犯してやるか)

 錬金術のホムンクルスを丹念に読みながら、次の凌辱への計画を練る。
 標的は、すでに決まっていた。



「よし。
 クロエ、口の中に出してやる」

「ふぁひ」

 肉棒を咥えたまま、クロエが返事する。
 直後、決壊したダムのように、白濁液が口内いっぱいに広がる。
 クロエの小さな口内では収まらず、神殿から聖女の証として受けた白魔道士のローブにボタボタと精子が落ちていく。

「ああ、グラン様の分身が……もったいない」

 クロエが唇の周りを舐め回し、顎から垂れる白濁液を手ですくって啜る。
 ローブについた白濁液を掴もうとしたとき。
 パタン。
 グランが音を立てて本を閉じる。
 ただならぬ剣呑な雰囲気に、クロエは固まってしまう。

「一発出し終えたところだ。
 丁度いいな。
 しかし、珍しい奴等が来たものだ。
 いつかこちらから行ってやろうと思っていたが、
 向こうからやってくるとは、な」

 クロエは恐怖を覚えた。
 グランが口にする「奴等」の正体が不明だからではない。
 グランの目に、狂喜と狂気の炎が燃え上がっていたからだ。



 頭上を飛ぶ(からす)(ふくろう)の群れなど、進軍する部隊の眼中にない。
 やっと街に到着したのだ。
 場所もタイミングも、不幸中の幸いだった。
 どちらかが少しでもズレていたら、部隊は餓死していたかもしれない。
 負傷兵も多く抱えている。
 連合軍を説得する嘘は考えてある。
 その嘘が見抜かれたところで、連合軍は人間である自分達に手出しできない。
 大隊長のタイシは国旗を見上げなら思う。
 いつも通り、強気で押し切ればいいのだと。
 ハッタリも強気で押せば、道理がまかり通る。
 それで我が国は繁栄してきた。
 我がカザマン国は。



 正門前が騒然となっているのを、セレナ達は知っていた。
 クロエが宿にいなかったので、ユリアに使い魔を飛ばすよう指示する寸前、本人は走って戻ってきた。
 街を見物していたらしい。
 そうでないことを、セレナだけが見切っていた。
 クロエの唇の右上に、ごくわずかだが、白濁色の半固形の液体が残っている。

 だが今はそんなことより、正門前の騒ぎの原因を突き止めるのが先だ。
 そうしないと、緊急時かどうかも判断できない。
 東門に向かえない。
 ここはパーティリーダーが決断し、行動すべきだ。

「皆は残れ。私が見てくる」

「一人では危険なのでは?」

「男どもに弄ばれるほど、ヤワな鍛え方はしていない」

 心配するユリアへの返答だったが、目はクロエを見ていた。
 そうして、セレナが正門へ向かいかけたとき。

「えっ!」

 素頓狂な声を出したのは、オルグだった。
 常に影が薄い彼にしては珍しい。
 オルグが目を丸くして凝視している視線の先を、パーティメンバー皆が追う。
 その先には国旗を抱えた兵士がいた。

「カザマン国……!」

 オルグが静かに闘志を燃やす。
 すでに背負っていた盾を、右手に装備している。

「カザマン国が、なぜここに?
 連合軍に入っていない独裁国家なので、
 いること自体が不自然です」

 ユリアの指摘はもっともだ。
 全員の視線がカザマン国の兵士達で溢れる正門に向いたのを確認して、ミンがソッとオルグの背をさする。
 それでオルグも、少し落ち着いたようだ。
 正門で連合軍と話がついたらしく、カザマン国の兵士達が整然と街に入ってくる。
 全員ではない。
 大隊で来て、街に入ったのは小隊の五十人ほど、か。
 セレナが目算する。
 何が目当てか、不明だった。
 しかしカザマン国軍の隊長らしい男に、連合軍の男が指をさしているのを見て、セレナ達は目当てを知った。
 奴等の目当ては、私達――セレナパーティだ。

 隊長格の男を筆頭に、小隊五十人の兵士が接近してくる。
 前衛のミン・レスペ・オルグが前に出る。
 いつでも構えられるよう、肩の力を抜き呼吸を整える。
 後衛のクロエ・ユリアはすでに小声で魔法の詠唱に入っている。
 セリナはその間に入り、指揮をとれるよう、相手を注意深く観察する。
 一メートルほど間を取って、グラマン小隊が停止する。

 カザマン小隊とセレナパーティが相まみえる。
 それを、グランはソッと物陰から窺っている。
 窺いつつ、すでに幾つかの魔法を放っていた。



「グラマン国・大隊長のタイシだ。
 カートンには、
 世界ランキング一位であるリーナパーティの援軍で来てやった」

 傲慢な物言いと人を見下した視線に、セレナは沸点に達しそうになる。
 が、何とか堪える。
 怒りとともに、疑問も持ち上がる。
 利己的な独裁国家が、リーナの援軍に駆け付けた?
 ならず者の独裁国家ゆえに、カザマンは首脳会議に加入していない。
 未加入国でも、首脳会議から諸々の依頼を出すことはある。
 だが、カザマンに関しては有り得ない。

「貴官の職務は理解した。
 だが、我々には関係のないことだ」

 こいつ、女のくせに偉そうな物言いをしやがって。
 そんな思いを隠そうともしないタイシが、

「もう一つ、我々には任務がある。
 かつて世界ランキング一位パーティに所属していた、
 グランの身柄を拘束することだ。
 お前等が奴を隠していることは、知っている。
 グランの元まで、案内してもらおうか」

 と横柄に命令する。

「我々を王国・ラントの神殿・デーアのヴァルキリーと知って、
 無礼な口をきき、偽りを申しているのか」

 思わぬ展開だが、セレナは冷静に返す。
 だがタイシは動じることなく、

「お前等の身分など、関係ない。
 ここに、リーナパーティ援軍依頼書とグラン身柄拘束書がある。
 当然ながら公文書だ。
 逆らえば、それは首脳会議への反抗とみなされるぞ」

 勝ち誇ったように言ってみせる。

「独裁国家にして軍事国家の貴国が、
 公文書とは笑止。
 そもそも貴国は首脳会議に入っていない」

 セレナが冷たく突き放して、嘲笑う。

「では、見るがいい。早くしろ、小娘」

 もはや無礼さを隠そうともせず、タイシが二通の公文書をセレナに押し付ける。
 そのやり取りにセレナパーティだけでなく、カザマン小隊も見入っていた。
 ゆえに、小隊前方にいるベテラン然とした兵士の視線が定まらずボンヤリとしており、鼻水と(よだれ)を垂らしていることに誰も気付かない。

(全く、いい女の涎なら目の保養になるが、
 男のそれは醜いだけだな)

 内心で愚痴りながら、グランはベテラン兵士の記憶を覗く。

 内心、セレナは焦っていた。
 二通の公文書は本物に見える。

「セレナ、何て書いてあるの?」

 後衛のユリアが小声で尋ねてくる。

「……いかなる理由があれ、
 神殿・デーアの聖女を傷つけたことは万死に値する。
 よって、グランの身柄を拘束すると……」

「そんな!
 グランはクロエを助けてくれたのに!」

 レスペが吠える。
 オルグの怒りが、再燃する。

(いや、その部分だけは真実だ。
 俺はクロエを凌辱した。
 ただ、それをリーナパーティとクロエ以外が知っているわけがない。
 まして、カザマン国の連中など論外だ)

 「聞き耳」と「遠目」の魔法で公文書の内容を把握したグランは嘲笑する。
 クロエは、俯いてしまう。
 セレナ達を見て、タイシは内心ほくそ笑んでいた。

(我が大隊に、公文書偽造のスキル持ちのチックがいると、
 便利なものだ)

 そのチックは小柄で、ズル賢そうな顔をした兵士だった。
 今は小隊の中央部分で、何食わぬ顔で立っている。

「いつまで、公文書と睨めっこしてるんだ、この小娘が。
 おっと、もう一つ、大事な公文書を忘れていたぞ。
 これも読め」

 タイシが三通目の公文書を突き付けてくる。
 男尊女卑がひどいカザマンでは、女は男にとって家畜程度でしかない。
 女勇者など、クソ食らえだ。
 自分に生意気な口をきいた家畜女のセレナを、嬲れるだけ嬲って楽しむことにしよう。
 それはカザマン部隊の共通認識らしく、全兵士がニヤニヤと卑しく笑っている。
 グランに意識を完全に支配されたベテラン兵士を除いて。

 三枚目の公文書に目を通したセレナは、屈辱で体を震わせた。
 プライドが高く、基本的に男を見下している女にとって、それは許しがたい内容だった。



 カザマンは、調子に乗り過ぎた。
 やり過ぎた。
 そのツケを悲惨な形で支払う羽目になることを、誰も知る由はなかった。
 グランを除いて。
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