第99話

文字数 2,893文字

 男と女。
 抱く人間と抱かれる人間。
 口奉仕する側とされる側。
 両者の目が合う。
 冷静と皮肉を足して二をかけたようなグランの顔に、赤みがさしている。
 興奮している証拠だ。

(よし! 私の口奉仕は間違っていない!
 でも、ここで焦っては駄目よ。『階段は一段ずつ昇れ』よ)

 ミーシャが自分に言い聞かす。
 ハニートラップを教えてくれた教官や、凄技を仕込んでくれた高級娼婦の教えだ。

 グランとは、目を合わせたままだ。
 口奉仕で目が合った場合、最初に目を()らした方が負ける。
 相手に、いいように遊ばれてしまうから。

 だからミーシャは、グランの目をジッと見詰める。
 見詰めながら頬をへこませ、ジュバッと音を立てて吸う。
 グランの巨大極まる乱棒(らんぼう)に、顎と喉が順応してきた。
 ミーシャはさらに、乱棒を奥深く口に(くわ)え込む。

 まだ乱棒の根本まで、口は達していない。
 だが、焦る必要はない。
 顎と喉の順応は加速している。

 深く咥え、うがいをするように唾液まみれの乱棒を口内でクチュクチュする。
 ミーシャの頬は、生き物のように収縮していた。
 ブグジュッブグジュッ。
 卑猥な音を口が奏でる。
 その音色は、男を天国へ(いざな)子守歌(オルゴール)

「うむっ」

 グランが思わず声を上げる。

(まだよ、世界一の魔法使い殿。
 将軍よりは、サバイバルしてるわ。けれど、あなたは私を挑発した。
 その報いは受けてもらうわ。
 何より、イチネンボッキはしっかりいただくわ)

 ミーシャとグランは、まだ見詰め合ったままだ。
 しかし表情は、対照的だった。
 グランの顔には「忍耐」の文字。
 ミーシャの顔には「勝利不可避」。

(グッ! 喉奥に突っ込んでやろうと思っていたが。
 すでに、喉奥も開発済みか。これが、フェランキング二位の実力か。
 同じ二位でも、セレナ達とは大違いだ)

 グランの読みは当たっている。
 ミーシャは自主練と実践を通じて、喉奥を開発した。
 お口奉仕の盤上(ばんじょう)に、男の駒は置かせない。
 犯されはするが、置かせない。
 チェックメイトへの秒読みが始まる。
 その時。

「悪あがきは、させてもらう」

 言うなり、グランはミーシャの頭を掴んで固定する。
 そして口に、乱棒の根本まで突っ込む。

「グフッ」

 唐突な根元刺しに、ミーシャは一瞬、咳き込んだ。
 涙目にもなった。
 けれど、ミーシャは動揺しない。

(口奉仕させているとき、男は女の弱さに最も感じるのよ。
 だって口奉仕の原点は、「男への服従」だから)

 喉奥開発済みの女の喉奥に、乱棒を突っ込む。
 盤上に下手な駒を置くどころではない。
 盤上をひっくり返すようなものだ。
 だがグランには、もう持ち駒が無い。

 余裕を持ったミーシャは、トドメを刺すことにした。
 優しくグランの手を掴む。
 そしてゆっくりと、自分の頭から外す。
 そのまま、両手で優しく握る。
 グランも握り返してきた。
 先程と、立場が逆転した。
 主導権をミーシャが奪い返した。

(ここで一気にたたみかける! グラン殿、覚悟!)

 口いっぱいに乱棒を頬張りながら、ミーシャが頭を前後にスライドさせる。
 キツツキのように。
 初めはゆっくりと。
 けれどすぐに、しゃぶる速度を上げる。
 先端から根本まで唾液をたっぷり乱棒にまぶして。
 乱棒は先端から根本まで、気が遠くなる程、長い。
 それでもミーシャの口は、その長い道のりを高速で行き来する。
 バジュルッバジュルッと卑猥な音が、大きく早く部屋に響く。

「う、ウォッ……」

 グランが呻く。
 その呻きをミーシャは聞いたが、もう何も考えない。
 乱棒陥落まで、攻める攻める!
 そして、その瞬間はやってきた。

「グッ……! 俺の負けだ」

 グランの性格は複雑で、解析不可能だ。
 ただ彼は偉大なスキルを正当に評価し、敬意を払う。

「よし、出すぞ」

 「出るぞ」ではなく、「出すぞ」。
 まるで男のグランが、主導権を握っているような物言い。
 けれど、ミーシャは気にしない。
 男は主導権を握りたがる生き物だ。
 女を支配したがる種だ。
 けれど結果は、主導権を握った者と支配者を雄弁に物語る。

 ミーシャの口内で、ついにグランの乱棒が爆発した。
 グランが白旗の代わりに、白い濁液を放出する。

「ウンムフッ!」

 ミーシャは口内で出された瞬間、くぐもった悲鳴を上げた。
 白濁液の量が、人間のそれではない。
 しかもまだ、出続けている。
 これがイチネンボッキ。
 これが枯れることなき精。
 それでもミーシャは、必死に飲み込む。
 ゴクッゴクッと喉を鳴らしながら。

「……これで全てだ。全て、出した」

 昇天したグランの目は、焦点が合っていない。
 それほどの快楽だった。

 全て飲み干したミーシャは、満腹になっていた。
 下品なことに、ゲップが出そうだ。
 それ程、莫大な量だった。
 飲み甲斐は充分だった。
 しかしまだ、ミーシャ乱棒から口を離さない。
 口奉仕には、放出後のお掃除という大事な仕事がある。
 お掃除奉仕も、ミーシャは妥協しない。
 丁寧に行う。
 すると、

「むっ! また出るとは!」

 お掃除奉仕で、グランがさらに白濁液を放つ。
 二度目の昇天ではない。
 一度目の残存兵力だ。
 それすらも、ミーシャも全滅させた。
 絞り出した。

 ミーシャの完勝だった。
 残り汁を出した乱棒を口で掃除しながら、ミーシャは貧乳の胸を張る。

(世界一の魔法使いを落としたわ!
 フェランキング一位が誰なのか、まだ分からない。
 けれど、この実績は高く評価されるわね!)

 諜報員のミーシャが調べても、フェランキング一位の女は謎のベールに包まれている。
 性界ランキング認定委員会でも、最重要の極秘事項らしい。
 ということは、相当に身分の高い女だろう。

(それでも、認定委員会の評価は公平よ。
 フェランキングの頂点まで昇り詰めるわ!)

 やっとミーシャが、乱棒から口を離す。
 驚いたことに、すでに乱暴は奉仕前と同じように、固く大きくなっている。

(あれだけ出したのに!
 ……これがスキル・イチネンボッキ……。何て奥が深いんだろう)

 ミーシャは感動しながら、グランの乱棒を見詰める。



(いくさ)終わりに、ご苦労だった。
 もう寝ろ。すぐに朝が来る」

 グランはすでに、平時に戻っていた。
 快楽の余韻も無く、言葉だけ残して、ミーシャの部屋を出ていく。
 口奉仕で負けた。
 しかし、心地いい敗北だった。
 


 グランもミーシャも満足しながら、自分のベッドで眠りについた。
 束の間の休息。
 二人とも、幸せそうな寝顔をしている。

 目覚めた彼等を、修羅場の暗殺劇が待っているとは知る由もなく。
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