第71話 淫行警察、はじめました
文字数 5,417文字
クロエとミン、オルグが民家に入る。
念のため、クロエは消音魔法を使った。
これで話が、エトーに聞かれることはない。
「お、俺は見てないからね、クロエ!
血管が浮き出るほど美しい肌とか、
香ばしい匂いがしてきそうな脇とか股とか」
「ガン見してくれてありがと、オルグ」
「世界ランキング二位パーティの一員なのに、
公衆の面前で不埒 な真似を……」
ミンはクロエに言いながら、背中を壁に預ける。
そのまま、ズルズルと座り込んでしまう。
体力と受けたダメージが、限界に来ている。
ミンの言葉に、クロエを咎める口調はない。
窮余 の策だが、あれしか打つ手が無かった。
「ミンもオルグも、私が治癒魔法をかけてあげる。
そのまま、戦術を聞いて」
ブラムス幹部に変態が二匹いなければ、勝敗はすでに決していたかもしれない。
だが二匹が変態であることを見抜き、そこにつけ込んだのは実力だ。
この三日間、クロエは変態漬けだった。
だから、変態に鼻は効く。
よって、変態を見抜ける。
「オーイ!
ショートカットクールビューティに、
隠れ巨乳時々密林アナルロリ!
もう出てきてねー! 出てこないと、建物ごと吹き飛ばすよー!」
エトーが脅迫すると、ミンとクロエが出てくる。
「あれ? 顔色、冴えないね?
ま、こんな短時間でいい考え浮かぶわけないって」
エトーは嬉しそうだ。
彼は、末代までの宝物を目にできた。
だがクロエ達は、何も手に入っていないらしい。
「君みたいな素晴らしい女性の命を、
ボク以外が奪うなんて絶対にダメ!
と、いうわけで。今からサクッと、殺してあげるね」
この時点はエトーは、二つの過ちを犯している。
一つ目は、人間の女の演技力だ。
幾多の修羅場をくぐり、世界ランキング二位にまで上り詰めた。
そんなパーティーメンバー達が、無策で再戦に臨むわけがない。
まして、美しい女達だ。
毒があるに決まっている。
二つ目は――人間を、下に見過ぎた。
誰もが、自分にできる精一杯の努力を行っている。
苦しく辛い思いをしながら、日々を送っている。
だからこの時も、建物から出てきたのが二人だけという点に、気付けなかった。
「ミン、いくわよ」
「いつでもいける」
クロエとミンが、声を掛け合う。
ミンは全身を建物から出したが、クロエは体の端が建物に入ったままだ。
「へー! さすがに世界ランキング二位だね!
打つ手なしでメソメソすると思ったら、
最後の悪足搔 きをしてくれるんだ。これは楽しみ確定だね」
お調子者のエトーに取り合わず、クロエとミンは行動を起こす。
クロエが片手をミンの背中に置く。
そしてミンがエトーに向かって、気功のような無色透明の衝撃波を放つ。
「ま、作戦タイムあげたって、この程度だよねえ」
エトーは微苦笑を浮かべている。
彼はクロエに末代までの財宝を見せてもらって、もう満足している。
真面目に戦う気はない。
衝撃波が、エトーを直撃する。
だが、何も起きない。
エトーは「フッ」と鼻で笑っただけだ。
それでもミンは、衝撃波を撃ち続ける。
十数発の衝撃波を受けて、エトーはもう飽きた。
「君には、とてもいいモノを見せてもらったよ。
でも、こんな単純な狙いじゃ、アクビが出ちゃうよ」
エトーが、手の平をヒラヒラさせる。
「クロエ、君が魔法をミンに放つ。
ミンがそれを気功の要領で別物に変えて撃つ、か。
これなら確かに、魔法属性は無くなるね。
しかもミンは、ボクを魔法攻撃しているわけじゃない。
気功の要領で別物に変えた何かを、ボクに届けているだけだ。
反作用で、君達は攻撃されない」
そこまで言って、エトーが残念そうな表情を浮かべる。
「種族を超えて、生物には魔力の貯蔵に限界がある。
グラン? イチネンボッキ? とやらには無いらしいけど。
君達はボクの体内に、魔力を溜め込ませるのが目的なんだよね?
魔力貯蔵庫とでも呼ぼうか?
ボクのそれを爆発させるまでね」
エトーの顔つきと声音に変化が現れる。
「でもさぁ! ム・ダ!
この程度の魔力で、ボクの魔力貯蔵庫を飽和状態にするとか!
冗談はテッペンが見えない爆乳と、
毛だらけで肛門が見えないお尻だけにしてよ!」
エトーの目が残忍さを帯びる。
直後、エトーは稲妻混じりの風刃をミンに放つ。
一撃必殺の魔法。
ミンは稲妻で焦げながら、体が引き裂かれる。
そのはずだった。
が、何も起きない。
「ふーん。強力な魔法防壁でも張ったかな?
ま、いつまで耐えられるかなぁ」
エトーは鼻で笑いつつ、一撃必殺の魔法をまたミンに直撃させる。
クロエとミンは愚直に、衝撃波をエトーに放ち続ける。
ミンを殺す攻撃魔法を五発、エトーは放った。
だがミンは負傷こそすれ、重篤なダメージを受けていない。
しかしエトーは、冷静なままだ。
「なるほど、クロエ、君か。
背中に置いた手は、攻撃魔法だけをミンに送ってるんじゃない。
治癒魔法も流しているんだね。
だったら次は、クロエを狙うだけだよ」
「半分だけ、当りよ」
クロエが答えたことに、エトーは軽い驚きと違和感を覚える。
今までは黙々と、衝撃波を放っていただけなのに。
表情も心なしか、余裕が浮かんでいる。
それは、ミンも同じだ。
「クロエを回復させられる者は、誰もいない!
だからクロエを殺せば、君達は終わりなの!」
イラついたエトーは、強力な魔法をクロエに放つ。
が、クロエも負傷はするが、重篤なダメージは負わない。
「あら、私やミンも『反作用』のスキル持ちになったかしら」
クロエが冗談まで、口にするようになった。
「バカな! 君達は一体、どんなマジックを使ってるの!?」
「私達が何人で戦っているか、あんた分かってる?」
唐突なクロエの問いに、エトーは一瞬、言葉に詰まる。
「クロエとミン、二人だけ……。
まさか、グランが隠れて参戦しているのか?」
とんだ方向違いの回答に、クロエは苦笑する。
「あんたはね、私達『三人』と戦っているの」
「三人? 他に誰かいたっけ?」
エトーは本気で戸惑っていた。
クロエとミンは、呆れるしかない。
「お前の目には、女しか映らないのか?
男のタンクが一人、いただろう。
私達にとって、大切な仲間だ。
同時に彼は」
エトーを見るミンの目に、勝利の色が浮かぶ。
「お前にとって、死神だ。もうすぐ、そうなる。
お前は先程、『マジック』という言葉を使ったな?
人間は決戦の場で、そんな陳腐 な代物を使わない。
毎日、愚直に汗を流し、血を吐く努力で築いた実力を相手にぶつけるだけだ」
「実力!? 人間の実力!? それこそ底辺でしょ?」
ミンの正論に、エトーは感情論しか吐けない。
「その底辺とやらに、あんたは負ける。敗因は、三つあるわ」
「敗因? ボクが誰に負けたっていうのさ!
ボクは誰にも負けない!
まして、人間なんていう下らない種族に負けたりしない!」
落ち着いたクロエと対極に、エトーはヒステリーを起こしている。
攻撃魔法が、クロエを襲う。
その度に負傷するが、クロエはしっかりと地に足をつけて立ち続ける。
エトー――ブラムス幹部に、堂々と正対する。
「一つ目は、私達の仲間を軽んじたことよ。
オルグ、出てこられる?」
クロエが体の端を隠した建物から、オルグが出てくる。
クロエやミンより、深手を負っている。
スキル「かばう」を発動していた証 だ。
ミンやクロエに放たれた魔法ダメージの大半を、オルグが引き受けていた。
「そんなはずないよ! ボクの魔法なら、タンクは即死だ!」
エトーは、胸がムカムカしてきた。
不快で、吐きそうだ。
「その通りだ。
だから『かばう』を発動しても、
全てのダメージがオルグにいかないようにした。
私とクロエが負傷しているのは、そのためだ」
ミンもクロエと同じく、ブラムス幹部の前に立つ。
一歩も退かない覚悟を見せて。
「それでも、お前の魔法は強力だった。
だから、クロエはオルグに治癒魔法をかけ続けた。これを見ろ」
そう言って、ミンが顎をしゃくる。
ミンが示した先では、クロエがオルグの手をしっかりと握っていた。
「これが、人間の絆だ。
お前には理解できないだろう。だから、負けるんだ」
「だから、ボクは負けてないでしょ!」
言い返しながらも、エトーは内臓がグルングルンと回転するような異常を感じとっていた。
自分の体内で、異変が起きている。
それも致命傷になるほどの、異変が。
「クロエは片手でオルグ? だっけ、
その男に治癒魔法を使い続けた。
そしてもう一方の手で、ミン越しにボクに攻撃魔法をかけ続けた。
それだけじゃん!」
エトーはついに、吐いてしまった。
吐瀉 物に、血の塊が混じっている。
「作戦タイムが終わってから、
私は一度も、攻撃魔法を放ってないわよ」
エトーは混乱した目で、クロエを見ている。
「私はどちらの手からも、治癒魔法しか放っていない。
だからオルグはスキル「かばう」で、
あんたの魔法ダメージを食らっても、生きていられた。
そしてクロエ越しに放ったのも、治癒魔法よ」
カラクリが分かったエトーの表情に、絶望が浮かぶ。
それでもクロエは、発言を止めない。
公衆の面前で爆乳と剛毛アナルを披露させた罰だ。
「お調子者のあんたなら、
気功に治癒魔法を載せて送っても、勘違いすると思った。
攻撃魔法を反作用させないために、気功で放っているのだと。
想定通り勘違いしてくれて、どうもありがとう」
エトーがクロエに向ける目に、殺意が宿る。
その目を、クロエは強烈な闘志を浮かべた目で睨み返す。
「あんたの体内に入った治癒魔法は、
反作用で破壊魔法に変わる。
だけど攻撃魔法ではないから、術者の元へ返ってこない。
結果、あんたの体に、どんどん破壊魔法が蓄積されていく。
やがてそれは、爆発するでしょうね」
クロエはそこで、一息ついた。
エトーを見ると、無表情だった。
言葉で言うのは簡単だが、黙々と治癒魔法を気功に載せてエトーに放つ攻撃は、骨が折れた。
クロエもミンも体力を削られ、精神を消耗した。
魔法を別物質に変えて放つ作業は、それだけの集中力を必要とする。
しかも、エトーの魔法攻撃を食らいながらの作業だ。
「敗因に戻るわよ。
あんたがどれだけ間抜けか、実感してほしいから」
この淫魔に、多くの兵士達が傷つけられ、命を奪われた。
情けをかける気はない。
「敗因の二つ目は、簡単よ。あんた、喋り過ぎよ。
自慢げに、スキルを説明しちゃって。お陰で、反撃できたけど。
あんた今まで、誰にも言われなかったの?
『口は災いの元』って」
エトーが悔し気に、クロエを見る。
もうその目に、精気と生気は無かった。
外から見ても分かるほど、内臓が体内で暴れ狂っている。
「三つ目だが。人間を舐めるな。
私もクロエも、知恵を絞って戦術を立てた。
オルグはお前の見えない所で、お前が放つ凶悪な魔法と戦っていた。
人間は傷ついてなお、前進を止めない。
その愚直で真っ直ぐな人の想いに、お前は負けた」
ミンが言い終えた直後、大きな血の塊を、エトーが吐き出す。
そしてエトーの体は内部から爆発した。
周囲にいた兵士と魔物達の合戦が、三度 止まる。
だが今度は、スケベ停戦ではない。
「兵士達への言葉はオルグ、あんたが言ってよ。
私は喋り過ぎて、疲れた」
クロエは、今にも倒れそうだ。
ミンとオルグは、クロエから治癒魔法を受けた。
が、クロエ本人は誰からも治癒を受けていない。
「え、お、俺が……」
「私達三人で勝った。
オルグ、兵士達は、あんたからの言葉を待っている」
コホンと咳払いした後、オルグは声を張り上げた。
「伝心で伝わっているとおり、侵攻軍の副官・ゾーフは討ち取った!
続いて、幹部のヨトゥンも倒した!
そして今、同じく幹部のエトーを我々は討ち取った!
戦え戦士達よ! 勝機は我等にあり!」
慣れない演説で、オルグはゴホゴホとむせている。
翻 って、この一帯の兵士達の士気は、オルグの演説で最高潮だ。
「あの巨乳が倒した!」
「スケベ武闘着の女もオッパイ見せろよ!」
「隠れ巨乳がブラムス幹部を討ち取った!」
「ショートカット武闘家も乳輪と乳首見せろや!」
「ロリータ万歳!」
「俺は最後に演説した男のイチモツ見たい!」
「剛毛アナルに幸あれ!」
「俺は男を掘ってやりたい!」
兵士達は好き放題言いながら、魔物の群れに切れ込んでいった。
念のため、クロエは消音魔法を使った。
これで話が、エトーに聞かれることはない。
「お、俺は見てないからね、クロエ!
血管が浮き出るほど美しい肌とか、
香ばしい匂いがしてきそうな脇とか股とか」
「ガン見してくれてありがと、オルグ」
「世界ランキング二位パーティの一員なのに、
公衆の面前で
ミンはクロエに言いながら、背中を壁に預ける。
そのまま、ズルズルと座り込んでしまう。
体力と受けたダメージが、限界に来ている。
ミンの言葉に、クロエを咎める口調はない。
「ミンもオルグも、私が治癒魔法をかけてあげる。
そのまま、戦術を聞いて」
ブラムス幹部に変態が二匹いなければ、勝敗はすでに決していたかもしれない。
だが二匹が変態であることを見抜き、そこにつけ込んだのは実力だ。
この三日間、クロエは変態漬けだった。
だから、変態に鼻は効く。
よって、変態を見抜ける。
「オーイ!
ショートカットクールビューティに、
隠れ巨乳時々密林アナルロリ!
もう出てきてねー! 出てこないと、建物ごと吹き飛ばすよー!」
エトーが脅迫すると、ミンとクロエが出てくる。
「あれ? 顔色、冴えないね?
ま、こんな短時間でいい考え浮かぶわけないって」
エトーは嬉しそうだ。
彼は、末代までの宝物を目にできた。
だがクロエ達は、何も手に入っていないらしい。
「君みたいな素晴らしい女性の命を、
ボク以外が奪うなんて絶対にダメ!
と、いうわけで。今からサクッと、殺してあげるね」
この時点はエトーは、二つの過ちを犯している。
一つ目は、人間の女の演技力だ。
幾多の修羅場をくぐり、世界ランキング二位にまで上り詰めた。
そんなパーティーメンバー達が、無策で再戦に臨むわけがない。
まして、美しい女達だ。
毒があるに決まっている。
二つ目は――人間を、下に見過ぎた。
誰もが、自分にできる精一杯の努力を行っている。
苦しく辛い思いをしながら、日々を送っている。
だからこの時も、建物から出てきたのが二人だけという点に、気付けなかった。
「ミン、いくわよ」
「いつでもいける」
クロエとミンが、声を掛け合う。
ミンは全身を建物から出したが、クロエは体の端が建物に入ったままだ。
「へー! さすがに世界ランキング二位だね!
打つ手なしでメソメソすると思ったら、
最後の悪
お調子者のエトーに取り合わず、クロエとミンは行動を起こす。
クロエが片手をミンの背中に置く。
そしてミンがエトーに向かって、気功のような無色透明の衝撃波を放つ。
「ま、作戦タイムあげたって、この程度だよねえ」
エトーは微苦笑を浮かべている。
彼はクロエに末代までの財宝を見せてもらって、もう満足している。
真面目に戦う気はない。
衝撃波が、エトーを直撃する。
だが、何も起きない。
エトーは「フッ」と鼻で笑っただけだ。
それでもミンは、衝撃波を撃ち続ける。
十数発の衝撃波を受けて、エトーはもう飽きた。
「君には、とてもいいモノを見せてもらったよ。
でも、こんな単純な狙いじゃ、アクビが出ちゃうよ」
エトーが、手の平をヒラヒラさせる。
「クロエ、君が魔法をミンに放つ。
ミンがそれを気功の要領で別物に変えて撃つ、か。
これなら確かに、魔法属性は無くなるね。
しかもミンは、ボクを魔法攻撃しているわけじゃない。
気功の要領で別物に変えた何かを、ボクに届けているだけだ。
反作用で、君達は攻撃されない」
そこまで言って、エトーが残念そうな表情を浮かべる。
「種族を超えて、生物には魔力の貯蔵に限界がある。
グラン? イチネンボッキ? とやらには無いらしいけど。
君達はボクの体内に、魔力を溜め込ませるのが目的なんだよね?
魔力貯蔵庫とでも呼ぼうか?
ボクのそれを爆発させるまでね」
エトーの顔つきと声音に変化が現れる。
「でもさぁ! ム・ダ!
この程度の魔力で、ボクの魔力貯蔵庫を飽和状態にするとか!
冗談はテッペンが見えない爆乳と、
毛だらけで肛門が見えないお尻だけにしてよ!」
エトーの目が残忍さを帯びる。
直後、エトーは稲妻混じりの風刃をミンに放つ。
一撃必殺の魔法。
ミンは稲妻で焦げながら、体が引き裂かれる。
そのはずだった。
が、何も起きない。
「ふーん。強力な魔法防壁でも張ったかな?
ま、いつまで耐えられるかなぁ」
エトーは鼻で笑いつつ、一撃必殺の魔法をまたミンに直撃させる。
クロエとミンは愚直に、衝撃波をエトーに放ち続ける。
ミンを殺す攻撃魔法を五発、エトーは放った。
だがミンは負傷こそすれ、重篤なダメージを受けていない。
しかしエトーは、冷静なままだ。
「なるほど、クロエ、君か。
背中に置いた手は、攻撃魔法だけをミンに送ってるんじゃない。
治癒魔法も流しているんだね。
だったら次は、クロエを狙うだけだよ」
「半分だけ、当りよ」
クロエが答えたことに、エトーは軽い驚きと違和感を覚える。
今までは黙々と、衝撃波を放っていただけなのに。
表情も心なしか、余裕が浮かんでいる。
それは、ミンも同じだ。
「クロエを回復させられる者は、誰もいない!
だからクロエを殺せば、君達は終わりなの!」
イラついたエトーは、強力な魔法をクロエに放つ。
が、クロエも負傷はするが、重篤なダメージは負わない。
「あら、私やミンも『反作用』のスキル持ちになったかしら」
クロエが冗談まで、口にするようになった。
「バカな! 君達は一体、どんなマジックを使ってるの!?」
「私達が何人で戦っているか、あんた分かってる?」
唐突なクロエの問いに、エトーは一瞬、言葉に詰まる。
「クロエとミン、二人だけ……。
まさか、グランが隠れて参戦しているのか?」
とんだ方向違いの回答に、クロエは苦笑する。
「あんたはね、私達『三人』と戦っているの」
「三人? 他に誰かいたっけ?」
エトーは本気で戸惑っていた。
クロエとミンは、呆れるしかない。
「お前の目には、女しか映らないのか?
男のタンクが一人、いただろう。
私達にとって、大切な仲間だ。
同時に彼は」
エトーを見るミンの目に、勝利の色が浮かぶ。
「お前にとって、死神だ。もうすぐ、そうなる。
お前は先程、『マジック』という言葉を使ったな?
人間は決戦の場で、そんな
毎日、愚直に汗を流し、血を吐く努力で築いた実力を相手にぶつけるだけだ」
「実力!? 人間の実力!? それこそ底辺でしょ?」
ミンの正論に、エトーは感情論しか吐けない。
「その底辺とやらに、あんたは負ける。敗因は、三つあるわ」
「敗因? ボクが誰に負けたっていうのさ!
ボクは誰にも負けない!
まして、人間なんていう下らない種族に負けたりしない!」
落ち着いたクロエと対極に、エトーはヒステリーを起こしている。
攻撃魔法が、クロエを襲う。
その度に負傷するが、クロエはしっかりと地に足をつけて立ち続ける。
エトー――ブラムス幹部に、堂々と正対する。
「一つ目は、私達の仲間を軽んじたことよ。
オルグ、出てこられる?」
クロエが体の端を隠した建物から、オルグが出てくる。
クロエやミンより、深手を負っている。
スキル「かばう」を発動していた
ミンやクロエに放たれた魔法ダメージの大半を、オルグが引き受けていた。
「そんなはずないよ! ボクの魔法なら、タンクは即死だ!」
エトーは、胸がムカムカしてきた。
不快で、吐きそうだ。
「その通りだ。
だから『かばう』を発動しても、
全てのダメージがオルグにいかないようにした。
私とクロエが負傷しているのは、そのためだ」
ミンもクロエと同じく、ブラムス幹部の前に立つ。
一歩も退かない覚悟を見せて。
「それでも、お前の魔法は強力だった。
だから、クロエはオルグに治癒魔法をかけ続けた。これを見ろ」
そう言って、ミンが顎をしゃくる。
ミンが示した先では、クロエがオルグの手をしっかりと握っていた。
「これが、人間の絆だ。
お前には理解できないだろう。だから、負けるんだ」
「だから、ボクは負けてないでしょ!」
言い返しながらも、エトーは内臓がグルングルンと回転するような異常を感じとっていた。
自分の体内で、異変が起きている。
それも致命傷になるほどの、異変が。
「クロエは片手でオルグ? だっけ、
その男に治癒魔法を使い続けた。
そしてもう一方の手で、ミン越しにボクに攻撃魔法をかけ続けた。
それだけじゃん!」
エトーはついに、吐いてしまった。
「作戦タイムが終わってから、
私は一度も、攻撃魔法を放ってないわよ」
エトーは混乱した目で、クロエを見ている。
「私はどちらの手からも、治癒魔法しか放っていない。
だからオルグはスキル「かばう」で、
あんたの魔法ダメージを食らっても、生きていられた。
そしてクロエ越しに放ったのも、治癒魔法よ」
カラクリが分かったエトーの表情に、絶望が浮かぶ。
それでもクロエは、発言を止めない。
公衆の面前で爆乳と剛毛アナルを披露させた罰だ。
「お調子者のあんたなら、
気功に治癒魔法を載せて送っても、勘違いすると思った。
攻撃魔法を反作用させないために、気功で放っているのだと。
想定通り勘違いしてくれて、どうもありがとう」
エトーがクロエに向ける目に、殺意が宿る。
その目を、クロエは強烈な闘志を浮かべた目で睨み返す。
「あんたの体内に入った治癒魔法は、
反作用で破壊魔法に変わる。
だけど攻撃魔法ではないから、術者の元へ返ってこない。
結果、あんたの体に、どんどん破壊魔法が蓄積されていく。
やがてそれは、爆発するでしょうね」
クロエはそこで、一息ついた。
エトーを見ると、無表情だった。
言葉で言うのは簡単だが、黙々と治癒魔法を気功に載せてエトーに放つ攻撃は、骨が折れた。
クロエもミンも体力を削られ、精神を消耗した。
魔法を別物質に変えて放つ作業は、それだけの集中力を必要とする。
しかも、エトーの魔法攻撃を食らいながらの作業だ。
「敗因に戻るわよ。
あんたがどれだけ間抜けか、実感してほしいから」
この淫魔に、多くの兵士達が傷つけられ、命を奪われた。
情けをかける気はない。
「敗因の二つ目は、簡単よ。あんた、喋り過ぎよ。
自慢げに、スキルを説明しちゃって。お陰で、反撃できたけど。
あんた今まで、誰にも言われなかったの?
『口は災いの元』って」
エトーが悔し気に、クロエを見る。
もうその目に、精気と生気は無かった。
外から見ても分かるほど、内臓が体内で暴れ狂っている。
「三つ目だが。人間を舐めるな。
私もクロエも、知恵を絞って戦術を立てた。
オルグはお前の見えない所で、お前が放つ凶悪な魔法と戦っていた。
人間は傷ついてなお、前進を止めない。
その愚直で真っ直ぐな人の想いに、お前は負けた」
ミンが言い終えた直後、大きな血の塊を、エトーが吐き出す。
そしてエトーの体は内部から爆発した。
周囲にいた兵士と魔物達の合戦が、
だが今度は、スケベ停戦ではない。
「兵士達への言葉はオルグ、あんたが言ってよ。
私は喋り過ぎて、疲れた」
クロエは、今にも倒れそうだ。
ミンとオルグは、クロエから治癒魔法を受けた。
が、クロエ本人は誰からも治癒を受けていない。
「え、お、俺が……」
「私達三人で勝った。
オルグ、兵士達は、あんたからの言葉を待っている」
コホンと咳払いした後、オルグは声を張り上げた。
「伝心で伝わっているとおり、侵攻軍の副官・ゾーフは討ち取った!
続いて、幹部のヨトゥンも倒した!
そして今、同じく幹部のエトーを我々は討ち取った!
戦え戦士達よ! 勝機は我等にあり!」
慣れない演説で、オルグはゴホゴホとむせている。
「あの巨乳が倒した!」
「スケベ武闘着の女もオッパイ見せろよ!」
「隠れ巨乳がブラムス幹部を討ち取った!」
「ショートカット武闘家も乳輪と乳首見せろや!」
「ロリータ万歳!」
「俺は最後に演説した男のイチモツ見たい!」
「剛毛アナルに幸あれ!」
「俺は男を掘ってやりたい!」
兵士達は好き放題言いながら、魔物の群れに切れ込んでいった。