第70話 爆乳スランプ ー インランナー ー

文字数 4,794文字

 完全封鎖自体が、珍しい。
 まして、ここまで隙が無い封鎖は、人類史上最初にして最後だろう。
 だが感心している者は、一人もいない。
 外壁を走って観察しながら、リーナパーティのメンバー達は舌打ちしていた。
 カートンに、入り込めない。
 敵も援軍を送れないが、それは人間側も同じだ。

 リーナは壁向こうに、意識を集中する。
 戦局は、ブラムス優位だ。
 個体の力と数で優っているのだから、当たり前だろう。
 しかしカートン軍の兵士達の士気は、想像以上に高い。
 気持ちが、現実を凌駕するときがある。
 リーナは今までの冒険で、何度かそんなケースに遭遇した。

(けれど、グラン。あなたが激しく戦う姿が、見えない。
 もしかして、深手を負っているの?)

 この時、グランはネットを探していた。
 ただ、他の魔物に見つからないよう、気配を殺していた。
 だからリーナは、グランの存在を掴めなかった。

 リーナの我慢は、限界に達した。
 最大破壊魔法で、封鎖に穴を開けようとしたとき。

「ニンチのジイさん! この魔法袋の魔法石は何だよ!?」

 ターリロがニンチから魔法袋を取り上げて、中身を手の平に載せている。
 魔法石が五つあった。

「おいおい! 賢者なら、カサンで使うべきだろう!?
 戦況が変わっていたかもしれねえ!」

 ムサイが八つ当たり気味に、ニンチに怒鳴る。

「そこまで影響はなくても、カサンで敵の数を大きく減らせたな。
 ニンチ、なぜカサンの戦いで、この魔法石を使わなかった?」

 ウザイが冷静に詰め寄る。

「魔法石が最も多く使われた魔法が何か、知っているか?」

 ニンチは小便を我慢しながら、他のメンバー達に問いかける。
 膀胱がパンパンだ。
 ムサイとウザイ、それにターリロが顔を見合わせる。
 その様子を見て、答えを知っているのは自分だけらしいとリーナが気付く。

「自爆魔法ね」

「そのとおりじゃ」

 それを聞かされると、荒くれ三人衆も言葉が出ない。
 ニンチが、自爆する覚悟まで持っていたとは。

「パシ殿が来なければ、お前さん達だけでも逃がした後に……、
 自爆するつもりじゃったよ。
 カサンも消滅するが、ブラムスは本格的な侵略の一歩目で、
 全滅することになるからのう。
 出足をかなり鈍らせることは、可能だったじゃろ」

「ニンチ。絶対に私の見えない所でなら、用を足してきてもいいわ」

 キャッホーイとはしゃぎながら、ニンチが近くの茂みに飛び込む。
 高齢魔法使いは、至福の表情で放尿している。
 本当に自爆する覚悟があったのか、怪しい。

 ニンチの魔法石騒ぎで、リーナは冷静さを取り戻した。

(安易に、攻撃はできない。
 カサンで、ブラムスは私達を取り逃がした。
 今、私達がカートンにいることを、吸血鬼達が知れば……。
 プライドが高い吸血鬼のことだから、
 私達を皆殺しにすることを最優先にする。
 特に、戦局に余裕がある今の状況では)

 リーナが、現状を分析する。

(戦争が本当の勝負時を迎えたとき、きっと私達の力が必要になる。
 そうなるように、グランなら友軍にチャンスをあたえてくれる)

 最近は、すれ違いばかりの幼馴染。
 だが信じる心は、変わらない。


 *******************************


 ガクリと、オルグが膝をつく。
 スキル「かばう」を、一度も発動していないのに。
 「『かばう』を今、使ってはいけない」。
 それはクロエとミン、二人からの指示だった。
 ダメージを一手に引き受ければ、すぐに死ぬことになると。
 その通りだった。
 ミンとクロエもエトーの魔法攻撃を食らい、深手を負っている。

「まーだ立ってる! ボクも勃っちゃう! うーんっ、すごくイイ!
 いいよいいよ、ナイスだねー!
 こんなに興奮したの、いつ以来かも思い出せないよ」

 調子づくエトーはしかし、本物の強さを持っていた。
 クロエ達がエトーの元に到着したとき、すでに多くの兵士が魔法で殺されるか生け捕りにされていた。
 兵士達はエトーを取り囲むものの、手の打ちようが無く、固まってしまっていた。
 今はクロエ達が相手をしているから、被害は出ていない。
 だが、長く持ちそうにない。

「何度だって、放ってみせるわ! ご主人様直伝の魔法よ!」

 クロエが叫びながら、エトーに風刃を放つ。

「亡国の秘儀は、お前などに屈しない」

 ミンも気合とともに、エトーに気功を放つ。

「馬鹿の一つ覚えみたいな攻撃しちゃって、もう。
 でも君達可愛いから、許せちゃう! うーん、素晴らしいー!」

 エトーに、風刃と気功が直撃する。
 問題は、ここからだ。

「それでは元気に、イッてみょー!」

 エトーがはしゃぐと、大小様々な火球がクロエを襲う。
 忘我の境地で放った透明な気功が、欲望まみれのドス黒い色の塊に変わり、クロエを襲う。

「ウッ!……クッ……」

 クロエは魔法防壁を張り、火球による全身火だるまだけは防いだ。
 だが威力までは防げず、クロエは肋骨を折られた。
 もう一発食らえば、肋骨は粉砕し、内臓に突き刺さるだろう。

「グハッ!」

 鳩尾(みぞおち)に黒い気功が叩き込まれ、ミンは嘔吐してしまう。
 嘔吐の中に、血が混じっている。
 内臓を損傷したらしい。

「あれー、もうお終い!?
 ボク、まだまだ君達みたいな可愛い子ちゃんと遊びたいよ!
 だから、スペシャル・プレゼントをあげる! ボクの秘密だよ!」

 クロエ達三人は荒い息をつきながら、視線だけはエトーに向ける。

「ボクの秘密の力は……発表します! 『反作用』だよ!
 クロエさ、思い出してごらんよ。
 ボクに放った魔法、全部返ってきちゃったでしょ?
 でも、魔法属性は真逆だったよね?」

 クロエはハッとした。
 何て重大なことを、見逃していたんだろう。
 火魔法には水魔法が。
 水魔法には雷魔法が。
 攻撃した魔法とは対局に位置する属性の魔法攻撃が返ってきた。

「ミンの気功も、原理は魔法と同じだからね。
 って言ってもー、絶対に君達には理解できない原理の法則なんだけどー。
 まあ要するに、ミンの気功だって反作用で、お返しできるんだよ。
 これでもやっぱ、難しい? うんとねぇ」

 クロエ達には難解な理屈だが、グランなら好きそうな理論だ。
 エトーは腕組みをして、何やら考えている。

「あ、こんな表現なら、どう?
 ボクに攻撃の意志を持って放った攻撃魔法は、全て術者にはね返るんだよ。
 うん、我ながら分かりやすい説明だ。
 一文字たりとも間違えてない、イッツ・パーフェクトワールド!」

 お喋りなチャラ淫魔のお陰で、クロエは一つだけ打開策を思いついた。
 しかし、現実的ではない。
 だが、他に打開策が無いのも確かだ。
 周囲の兵士達は、エトーに恐怖を感じてしまっている。
 それが原因で士気は低く、実力が出せていない。
 魔物達に、いいように(なぶ)られている。
 ユリアが巨人を倒した近辺の兵士達は、士気高く戦えているようだ。
 この辺りの兵士達の士気も早く上げて、盛り返さなければ。
 それが出来なければ、敗戦が待っている。
 それ程、戦局はブラムスに傾いている。

「あんた、淫魔ならオッパイに興味津々でしょ?」

 クロエ、突然の暴走。
 深手を負っているミンやオルグでさえ、クロエを二度見してしまう。

「オパーイなんて、見飽きたね」

 エトーはクロエに取り合わず、溜息をつく。
 特級の淫魔なら、人間の乳など腐るほど見ている。

「このミンのオッパイはどう?
 引き締まったお椀型よ。揉み甲斐あるわよ」

 ミンがギヨッとする。
 何を勝手に、人の乳を勧めているのか。

「チッパイに興味なーし。
 かと言って、ただの巨乳ではボクを落とせないよ?」

「ロリータの隠れ巨乳は?」

 エトーの顔色と顔つきが変わる。
 一大事だ。
 「ロリータの隠れ巨乳」。
 何だその末代までの財宝は。

「それはつまり……」

「私があんたに、オッパイを見せてあげるってこと」

 ミンとオルグはクロエの意図が読めず、キョトンとしている。
 傷口からは、止めどなく出血しているのに。

「そんなお宝タイムくれるからには、君にも条件があるんでしょ?」

 エトーの目は九割方ハートマークだが、一割だけ疑心と警戒を残している。

「この建物でほんの少し、作戦を話し合わせてよ」

 クロエが右隣りにある民家を指さす。

「うーん。建物に身を隠すのはいいよ。
 籠城しても、そこから逃げようとしても、ボクが魔法で殺せるから。
 でもなー、作戦タイムまでサービスはなあ。
 だって君達一応、世界ランキング二位のパーティでしょ?
 人間の中では、結構強い方でしょ?
 リーナ嬢達には敵わないにしても」

 最後の一言で、クロエの脳内で何か線の切れる音がした。

「ロリータのアナル、見せてあげる」

「な!?」

「しかも、ね。そのロリアナ、剛毛な陰毛で毛だらけよ」

「……!」

 さすがのエトーも、言葉が出ない。
 ロリータフェイスなのに、肛門周りに毛が生えた尻!
 そんな奇跡を拝めると!?
 実現したら引退して、故郷に帰ってもいい。
 吸血鬼の女王など、どうでもいい。
 いや、女王の肛門は見たいが。

「どうするの? 早く決めなさい」

「作戦タイムあげるから!
 だからボクにもちょーだいよ!」

 エトーが譲歩した。
 クロエも、約束は守る。
 まず、上半身のローブをはだける。

 ブルルンッ!

 ヨトゥンより巨大な乳が現れる。
 瞳と同じ明るい茶色をした大きめの乳輪は、劣情をそそる。
 ピンッと天空を向いて勃った乳首は、巨大な山の上に建てられた仙人の塔のようだ。
 厳しさの中にも、ほんのりと優しさを感じられる逸品に仕上がっている。
 周囲の兵士と魔物達の五割が戦闘を止めて、クロエの爆乳山脈に魅入っている。
 イチネンボッキの集中投下で、魅力もバストサイズも飛躍的に向上した。
 クロエが、上半身のローブを元に戻す。
 再び周囲で、合戦が再開される。

 続いてクロエは下肢のローブを緩め、エトーに尻を突き出した。
 全ての悪と欲を吸い尽くすかのような、神秘的な黒穴が尻の真ん中で存在感を放っている。
 その肛門から四方に、皺が伸びている。
 それは見た瞬間に背筋がシャンッ伸びるほど、ピンッと張ったアナル皺だった。
 尻穴だけでも、孫の代まで贅沢し放題の財宝だ。
 それに加えて。
 男の欲情そのものを具現化したような尻穴の周囲を、黒い森が鬱蒼と囲んでいる。
 そのコントラストは卑猥を超越して、芸術の域だ。
 「世界」そのものかもしれない。

 エトーが血走った目で、クロエの尻穴を凝視している。
 周囲の兵士と魔物達は全員、戦いを止めていた。
 皆、突然現れた「世界」に目を奪われている。

「……こんなに沢山の男の人に見られて、クロエ、恥ずかしいわ。
 もう、いいでしょ?」

 骨が折れる勢いで、エトーが首を縦に振る。

「それで、合格かしら?」

「作戦タイム、やってどうぞ!」

 クロエの問いに、エトーは明確なイエスを示す。
 「世界」の余韻に浸っていた兵士と魔物達が、我に帰る。
 慌てて戦闘を再開する。
 が、両者とも精彩を欠いている。
 
 爆乳山脈と剛毛の丘は、戦士達の戦意を粉砕する。

 女体の聖地では雄の闘志など、ただただ無力だった。
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