第24話 「私をどうするつもりだ!?」「犯すに決まっているだろう」

文字数 3,597文字

 リーナは忍耐を強いられていた。
 上等ミノタウロス率いる中隊の存在が確実なので、本来は討伐に行かねばならない。
 ただし、今いる場所がそれを許さない。
 レイジ国の都市・カサン。
 吸血鬼の国・ブラムスに最も近い人間領域。
 よって、最も吸血鬼やその配下にある魔物達に襲われている都市。
 連合軍は一個師団、二万人が配置されている。
 それでも戦死者は多く、兵士の入れ替わりは激しい。

 リーナパーティが到着してから、ブラムスからの襲撃はない。
 ブラムスに、リーナ達の到着は伝わっているはずだ。
 だから、襲ってこないのか。
 それとも襲うタイミングを、計算しているのか。
 後者なら、中隊討伐に迎える。
 ただ、どちらなのか判断材料がない。
 ニンチが使い魔を飛ばしているが、ハッキリしない。
 グランが使い魔を飛ばしたなら、すぐに結論が出るのに……。

「力不足で迷惑をかけるのう」

 ニンチに謝られて、リーナはドキリとする。
 偶然のタイミングだろうが、心の中を見透かされたようで。
 今、リーナパーティは宿屋で缶詰状態だ。
 カサンの領主越しに、首脳会議から下された命令は「遊軍」。
 つまり軍事行動を起こすタイミングも内容も、自分達で決めろということだ。

 外は大雨。
 お陰で、ムサイとウザイは外で鍛錬ができずストレスが溜まっている。
 使い魔で必死にブラムスを観察しているニンチも、魔力と体力がそろそろ限界だ。
 連合軍の魔法使いから、情報をもらう方向に切り替えるタイミングだろう。
 ターリロは瞑想を繰り返しているが、力を持て余している。
 ターリロは魔法学校卒業後、しばらく神殿付きの白魔導士を務めたが、制約が多過ぎると神殿を飛び出した。
 今は大国の神官の座を狙っている。
 そんな野心でギラついたターリロにしてみれば、何も行動しないで待つ今は、さぞストレスがたまるだろう。
 パーティの士気にもかかわる。
 そして、目の前の魔物を放置している現状。

 リーナは決断した。

「みんな、待ち伏せしている魔物の中隊を倒しに行こう」

 全員から勝ち(どき)が上がる。
 特にムサイとウザイはうるさいほど、はしゃいでいる。
 これから大雨に打たれながら移動し、待ち受ける上等級の魔物二百匹と戦うというのに。
 けれど、バトル・ハイでもバトルジャンキーでもない。
 理由は二つある。
 吸血鬼を初め、魔物を壊滅させることが、己の存在意義であることが一つ。
 そして敵が巨大になるほど、日頃鍛えた成果を存分に出せる。
 何より、自分達は世界ランキング一位であるという自負。
 それを常に、第三者に意識させてやりたいという高いプライドが一つ。

 ムサイとウザイの前衛コンビが装備を身につけ、お互いに確認し合う。
 ニンチは使い魔を解き、戦闘に備えて魔力の回復に努める。
 ターロリは魔力を軽く練りながら、魔法発動をスムーズに行えるよう調整する。
 リーナは雨の中を走り、連合軍指揮官に今後の行動を伝える。
 兵站を各々が背負う。
 これで出発準備は整った。
 世界ランキング一位パーティ、出撃。



「カサン付近は雨だな」

 セレナが空を見上げる。

「ええ。それもひどい大雨のようだわ」

 応じたのはユリアだった。

 曇天模様の下、セレナパーティはカサンに向けて移動していた。
 グランは使い魔を飛ばし続けている。
 だが上等ミノタウロス率いる中隊は、頻繁に待ち伏せ場所を移動しているようだ。
 正に、使い魔対策だろう。
 それでもまだ、敵の攻撃範囲には入っていない。
 そうグランに聞かされているので、パーティの移動する速度は早い。

 昨夜犯されたミンは俯き、無表情だが、肌や髪のツヤが違う。
 同じ武闘家が見れば、筋肉のキレも違うことに気付くだろう。
 まだグランの女になることに抵抗感はあるが、股間の奥底は求めている状態だ。
 オルグはどうでもいい。

 途中、足場の悪い山岳地域を通ることになった。
 左右を岩で塞がれ、人一人がやっと通れる幅しかない。
 せり出した岩のせいで、すぐ前を行くメンバーの姿が視界から消えるほどだ。
 暗殺には向いてるな、とグランは考える。
 そして、待ち伏せにも。
 同じ考えに至ったらしいセレナが、グランの方をジッと見てくる。
 人使いが荒い勇者様だと内心苦笑しながら、大きさが異なる灰色の烏と梟を使い魔として送り込む。
 しばらく彼等の目を通して、この山岳地帯周辺を偵察する。

「この辺りは大丈夫だ。具体的には、この岩場を出るまでは攻撃されることはない」

 他のパーティメンバーは安堵の息をついたが、セレナは言葉尻を捕まえる。

「この岩場を出たらどうなる?」

 詰問口調だが、内心の揺れが見られる。
 武者震いか、恐怖か。

「臨戦態勢を整えた方がいいな。いつ敵中隊と遭遇しても、おかしくない」

 パーティの雰囲気が引き締まる。
 全員の顔に闘志が浮かぶ。

(いい表情だ。心強いな、全く。空に無数にいる魔物どもも、問題にならないな)

 こっそりグランは片頬を歪める。
 行軍が再会された。
 足場が悪く、岩壁に挟まれて細い道を何とか進んでいく。
 ミンは体格的にもジョブ的にも、こういった行軍は得意だった。
 だから、パーティの先頭にいたはずだった。
 だが気が付くと、随分後方を歩いている。
 不思議に思ったとき、肩を掴まれた。
 ミンはショックを受けた。
 武闘家として血がにじむ鍛錬を積んできたのに、後方からとはいえ、簡単に肩を掴まれた。
 だが振り返って、相手がグランだと分かると、納得できた。
 魔法使いの枠を超えた強さがグランにはある。
 それでも、この男に屈するわけにはいかない。
 自分は誇り高きヴァルキリーの武闘家だから。

「何の用? あんたは、黒魔法で私の行軍の順番を入れ替えた。
 どうしてそんな真似をする?」

 パァンッ!

 小気味いい音を立てて、ミンの右頬をグランがぶつ。

「なっ……! い、一体何を……」

 パァンッ!

 もう一度小気味いい音を、ミンの左頬が立てる。
 また、グランにぶたれたのだ。

「昨夜、お前を小娘から女にしてやったのは、誰だ?」

 迫るグランの迫力に圧倒される。
 さらに昨夜の情事が思い出され、頬が朱色に染まる。
 またグランがぶつ真似をすると、ミンは、

「キャッ」

 と声をあげて、顔を庇った。
 直後、またショックに襲われる。
 武闘家の自分が、自分の身一つで難敵を倒してきた自分が、頬をぶたれることを怖れて悲鳴を上げた。
 しかも迎撃の体勢ではなく、ただ頬を庇っているだけ。
 なぜここまで、無力になってしまうのか。

「心配するな。本当の敵の前では、お前はそんな醜態は晒さない。
 俺という圧倒的な牡の前だけ、お前は弱くなる。
 徐々に牝奴隷への道を歩き出したからだ」

「そんなことない! フザけたことを……アッ!」

 尻を、グランに鷲掴みされる。
 移動用武闘着は、昨夜の寝間着よりは生地が厚いが、それでも尻肉に食い込む指の感触がハッキリと分かる。
 悪路はグランにとって、他メンバーの視界や空間認識力などを歪めて、行軍の順番を入れ替えるのに都合がいい。
 今、ミンと二人で最後尾にいる。
 他のパーティとは、結構な距離が空いている。

 グランは、ミンが背負っている食糧などが詰まった背負い袋を強引に肩から抜き、地面に投げる。

「何をする! 貴重な水や医薬品が入っているんだぞ!」

「水は俺の魔法で作り出せる。治療は俺とクロエで充分だ」

 言い返しなら、グランはミンの両手を後ろに回し、縛る。

「い、一体、何の真似だ! 昨夜のことなら忘れたぞ!
 一度、その……卑猥なことをしたぐらいで、私を支配した気になるな!」

 髪を引っ張られていないミンは、威勢がいい。
 武闘家である自分の腕を、簡単に後ろに回して縛れるグランの身体能力と技術は考えないようにする。
 考えれば、恐怖に支配されてしまうから。

「昨夜とは違う! 大声を出せば、他のパーティメンバーに聞こえるぞ!」

「では、出してみろ」

 心から可笑しそうに笑うグランを見て、すでに手は打たれていることが分かる。

「単純な消音魔法だ。俺とお前が言葉をはじめ、どんな音を立てても、
 外に洩れることはない。試しに、叫んでみるといい」

 余裕たっぷりのグランに、ミンは歯噛みする。
 そもそも、先程から結構な声量を出しているが、パーティメンバーの誰からも反応が返ってこない。

「私をどうするつもりだ!?」

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