第8話 ヤロー三人がお昼に公園にいますよー、断トツで不審者ですよー

文字数 1,343文字

 「最低限のマナーだ。禁煙の取調室で喫煙した時点で、下品な本性が丸裸だがな」

 お前は口を開くな、上杉。
 『考えるよりも』というより、考えた試しがない北条がとっとと歩き出す。
 明智が慌てて、北条の腕を掴む。

 「どこ行くんや? アイツは今日、非番や。公園におるんやのう」

 「公園? リストラ親父ごっこか? てか、マル被ってどんな奴? 名前と人着(にんちゃく)は?」
 
 呆然とする明智。
 天を仰ぐ上杉。
 北条のお家芸、炸裂。

 人着とは、顔や着衣のこと。

 「マル被は、『木島克洋』っていうんやのう。三十四歳の警部補や。なんで公園かは、現地に行けば分かるやろ」

 「貴重な時間をムダにしたくない。行くぞ」
 
 明智の返答後、上杉が風を切るように出て行く。
 北条も後に続こうとした。

 「ちょっと待てや」

 明智が呼び止める。

 「これからイヤでも、三人で特命を何とかせんとアカンのや。まずは、お互いを知ることが大事やろ。自己紹介もしてないんやのう」

 明智の発言は当然。

(キツネ目でも、たまにフッツーのこと言うのな)

 北条なりの感心。
 明智の通知簿は右肩上がり。
 オール5まで、あと一歩。

「まず北条や。お前は、元プロボクサーやな。デビュー戦で派手に揉めたの、知っとるんやのう。俺はハム出身やから、地獄耳……」
 
 明智の通知簿、一瞬でオール1へ。
 無表情になる北条。

 「おら、行くぞ。お前が運転だ」

 覆面パトカー(覆面)の鍵を明智に投げ、北条は歩き出した。



 晴れもせず、雨も降らず。
 生殺しのような曇天模様。

 県警から十五分ほど、覆面を走らせると、公園というより広場に近い空間が見えてきた。
 明智がそのまま、覆面で公園に近づく。
 その一画に、お揃いの黄色いジャンパーを着た集団がいた。
 何やら、声を張り上げている。

 「ゲッ! 選挙か宗教か!? どっちも嫌いで苦手だわぁ」

 「決めつけるのは早いんやのう」

 北条の嫌悪に、訳知り顔の明智。

 十五人ほどの黄色一味の周囲に、三十人ほどの人だかりができている。

 「おいおい。あの『いかにも』って集団は何だ?」
 
 不気味そうに問う北条に答えたのは、意外にも上杉だった。

 「『木島カンナ』という少女が、重篤な心臓疾患らしい。アメリカでの手術が必要だそうだ。そのための資金集めだ」

 「何や、アンタ知っとるのか?」

 怪訝顔の明智に、上杉が視線を集団に向けたまま答える。

 「ノボリやタスキに、そう書いてあるが? 少女の名字が木島か。マル被の娘だな?」
 
 上杉が明智に確認する。
 明智が視線を前に向けたまま頷く。

 「で、どれが木島だ?」 

 「あれや」

 明智が一人の男を顎でしゃくる。

 黄色いジャンパー姿の眼鏡をかけた柔和な表情の男。

 木島克洋――モグラ。

 優しさと前向きな強さを感じさせる。
 木島は周囲の人間達に、必死に何かを訴え、頭を下げている。

 北条が覆面のドアを開けようとする。
 
「待てや! どんだけ『いきなり』フェチなんや!」

 北条の暴挙に慌てる明智は、ちょっぴり怒っていた。
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