第3話 三億円強盗の犯人じゃねえの?

文字数 929文字

鬼のいぬ間にとばかりに、一課の刑事達が好き放題言い散らしていた。
 
 「何でノンキャリアの桜田門が、福井に異動なんやって」

 「知らんって。何ちゅっても『ガキ殺しの外様』やからのう」

 「『都落ちのSAT崩れ』って呼んどる連中もおるんやのう」

 「渾名(あだ名)だけは、ようけあるんやのう」

 「……本人に聞かれたらアカンで。マジで殺されるさけ」

 一課が静まり返った。



 室長室ドアをノックし、声を張り上げる。

 「捜査一課強行班・巡査部長・北条剣、参りました!」

 「入りたまえ」

 室内から抑揚のない声で返答。

 「失礼します!」

 深呼吸して入室する。

 セレブな室内を、黒目を動かさずに視認した。

 横長のソファーが一つ、その前に一人がけのソファーが三つ。
 横長のソファーに二人、一人がけは三つ全て埋まっている。
 計五人が座っていた。

 うち三人は警視正、つまり部長級。

 監察室長の沼津。
 
 刑事部長の武田。

 警備部長の浅妻。

 巡査部長の北条には雲上人。
 臓器に生コンを流し込まれた絶望。 
 自分への死刑言い渡しの席に、なぜ刑事・警備の両部長が?
 
 警備部は、公安・外事・警備の三部門で構成される。
 警備は機動隊の運用、公安・外事は国内外の諜報担当――要はスパイ。
 これらを統べる警備部長がここにいることは、絶対に好ましくない。
 『ハム』の隠語を持つ公安も、警察の警察だから。
 優秀な警察官はハムに配属される。
 犯人を追う刑事部より、警官を追うハムの方が精鋭揃いとは、これいかに。

 沼津に、横長のソファーに座るよう促された。
 三人の雲上人から極力離れた場所に座る。

 他二人の男達をそっと見やる。
 北条と同世代の刑事達だ。
  
 一人は、上杉警部補。
 『SIT』――誘拐・人質救出を主任務とする特殊部隊に属する。
 だが『部隊』とは名ばかりで、福井県警のSITは上杉ただ一人。
 田舎警察のこのお粗末加減はザラな話。

 その隣に、明智巡査部長。
 細く尖った顔の輪郭。
 キツネ目。
 知らずに見れば、ヤクザの鉄砲玉か三億円強盗の犯人以外の何者でもない。
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