第56話 サッチョウも刑事部長も暴走、レナ裏切り説優勢で詰みそうなんだが?

文字数 1,395文字

「なんで犯人は、お前の名前、階級を知っとるんや?」

 前線が最も触れられたくない部分に、ズバッと切りこむ管野。

「管野さん、それは……」

「上杉警部補、本部から連絡が入っています」

 管野に説明しかけた上杉に、堀が割って入る。
 上杉が心中で舌打ちする。
 マル害との信頼関係を結ぶためには、痛い問いであっても、誠実な対応が求められる。
 それを途中で遮られるとは。
 マル害に逃げている印象をあたえる。
 しかも、逆探が何らかの要因で失敗したことは、深田から報告されている。
 本部からの連絡は、ロクでもないことに違いない。
 上杉が、無線のマイクを持ち上げる。

「はい、そちらイヤホン」

 やはり、な。

 本部の一声に、上杉は小さく溜め息をつく。

 『そちらイヤホン』の意味するところは、『イヤホンを装着して、無線で話せ』。
 要は、マル害に聞かれてはマズイことを、これから打ち合わせるわけだ。

 上杉は、菅野と美和に一言断りを入れてから、リビングの隣室に移動する。

「はい、こちらイヤホン」

 上杉が本部に、準備が整ったことを告げる。

「武田だ」

 部長直々、か。

「逆探は……成功とも失敗とも言えん」

 珍しく、武田の歯切れが悪い。

「逆探の結果だが。発信先は……何と、ここだ。本部だとよ」

 武田が、ふんと鼻を鳴らす。
 敵も小癪な真似をする。

「こっちは、科捜研に通信指令課も突っ込んだ。報告によると、音声変換した上で、さらに国内外のサーバーを経由させた可能性が高いんだとよ。割り出しに、最低三日はかかるそうだ」

 つまり、『逆探はあきらめろ』だ。

「サッチョウが、オブザーバーを派遣してきやがった。余計なことしやがる。ノコノコとアホ面さげてやって来た連中は、今川と小早川。二人とも警部だ」

 上杉はヒヤヒヤした。
 本部には、警官しかいない。
 よって、会話を秘匿する必要はない。
 武田の言葉は全て、周囲に聞こえている。
 サッチョウからの派遣組なら、間違いなくひな壇にいる。
 その二人組にも聞かれている……。

「おい上杉、聞いてるのか!」

「はい、聞こえております」

(ご機嫌斜めも甚だしいな。やれやれ、部長の直下で働いている本部の連中には同情する)

「二人組は、犯人のパソコンオタクを受けて、サッチョウからハイテク捜査班の派遣を決定しやがった。さらに、桜田門からSIT、サッチョウから専門家。県警は、元々俺が部長通達を出したから、全警官が総動員されてる。なのに、アホ面二人組は『広域』の可能性大と、隣県にも応援要請しやがった。お巡りがウジャウジャ、このクソ田舎に溢れ返るわけだ」

 上杉は黙って聞いていた。
 本当に言いたいことは、そんなことではないだろう?

「上杉。犯人の最後の言葉は無視できん」

 やはり。
 本題はそれか。

「川村が『イヌ』ではないことを証明するのは難しい。灰色の警官がいるという事実があるため、ハムが動き出した」

 レナがイヌ――裏切り者のわけがない。
 ハムの動きも早過ぎる……。
 しばしの沈黙のあと、武田が続ける。

「『帝国』の奴等が絡んでるな。実働部隊のキャノンの下っ端どもも、どこかに潜んでやがる」

 武田の爆弾発言。
 冷静を絵に描いた上杉も、ひっくり返りそうになる。
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