第28話 日本スパイがペットを飼育したら飼育日記できた

文字数 747文字

 山本は暴走組だが、テロには関与していない。
 木島が面倒を見たからだ。
 祖国にいる山本の家族の近況も、木島なら伝えることが可能だった。
 独自に築いたパイプを持っているから。
 見返りに、山本は暴走組の情報を提供した。
 同胞を裏切る行為だ。

 だが、木島の山本への献身ぶりは何物にも優った。
 明智は『暴走組は簡単にSにできる』と言った。

 嘘だ。

 彼等の祖国への忠誠心。
 それは北本国で、死人が出るほどの訓練・思想教育で細胞レベルに叩き込まれる。
 
 木島は真摯な態度を貫くことで、山本をSとして運用出来た。
 だが、それも終わりを告げる。
 北が海外に放った諜報員・工作員は、侵入先の国々で身柄を拘束されるか、殺された。
 それでも、彼等は口を割らない。
 地獄の訓練の賜物。
 また、それを計算して将軍様は工作員リストを各国へ提供した。
 残る問題は、北本国にいる家族。
 他国へのリスト提供を、家族が知ったとする。
 それを国内外で吹聴されれば、独裁基盤を脅かす。
 
 北本国の解決策は、実に明快だった。
 『先手を打てばいい』
 家族を粛清――皆殺しにした。
 
 山本の家族も例外ではなかった。
 それを木島は知った。
 山本に知らせなければ、そのまま運用できた。
 だが、正直に伝えた。
 それで山本をSとして運用できない可能性大でも。
 木島は伝えた。
 そういう刑事だった。
 だから山本も、木島に全幅の信頼を寄せていた。
 
 木島は山本との筋を通した。
 そしてもう、Sとして運用しなくなった。
 しかしハムとしては、暴走組の情報は絶対にほしい。
 皇居テロは、全警察官のトラウマだ。
 
 そこで『別のハム』が後任として、山本を運用することになった。
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