第23話 悶絶可愛い婦警がド変態なので晒す

文字数 2,109文字

 地震が起きなくても、倒壊しそうな三階建てのビル。
 タクシー組合の事務所は、その二階の一室に陣取っている。

 CCDが撮影した映像は、事務所内の記録媒体に一週間分記録されている。
 運転手が、慣れた手さばきで事故当時の映像を見せてくれた。

(俺が救うんだ……俺が救うんだ! どんな崖っぷちでも見捨てねえ! お坊ちゃんお嬢さんには分かんねえだろがな!)

 狭い一室で、北条とレナ、運転手が一台のモニターを見詰める。

 山本を追う明智が映る。
 二人が歩道に出る。
 北条が拳を握り締める。

 明智を見て、レナが一時停止ボタンを押す。

「おい! 急に止めんな! スッゲー可愛いくても許さん! このロケットオッパ……あ!」

「ちょっと! 最後、何言おうとしたんや!? ……可愛い言うてくれたのは嬉しいけど」

 北条とレナが俯く。
 頬が朱色に染まる。
 運転手はドッチラケ。

 「この人、生安の人やろ? 今話題の」

  気を取り直すレナ。

 「明智って奴だ。話題? 殺人鬼みてえな顔だからか?」

 「生安にも拳銃摘発のノルマがあるんや。みんなそれで苦しんどる。ああ、分かるわぁ」

 「あのよ。今、スッゲー大事なもん見てん……」

 「この明智さんやけど! ハムから来て拳銃摘発のノルマいきなりクリアーしたんやで! 有り得へん! ヤラセに決まっとるわ!」
 
 即頭部をハンマーで殴られた衝撃。

(とんでもねえもん、見落としてた)。

 拳銃摘発のノルマは歴史が古い。

 古き良き時代は、持ちつ持たれつの暴力団が『提供』してくれた。
 だが暴力団新法後、状況は一変する。
 警察と暴力団の仲良しこよしは、終わった。
 そして。
 暴力団は一切、警察に協力しなくなった。
 拳銃摘発は年々、難化の一途を辿っている。

 「チャカの横流しは、木島じゃなかった」

  北条が呟く。

 「何独り言言うとん? 続き、見るで」
 
 レナが映像を再開する。

 ……覚悟していた現実が、北条を襲った。

 「ちょ、これって……」

 さすがのレナも言葉に詰まる。

 黙って立ち上がった北条が、部屋を出て行く。

 状況は絶望的。
 だからこそ、自分だ。

 涙が溜まったキツネ目を思い出しながら、北条はビルを出た。

 「ちょっと待ちいや! これからどうするんやっ? 私達の手に負えへんって!」
 
  私達……。

(仲間だ。チームだ。一人じゃねえ。一人にさせねえ! 待っててくれ!)

 上杉はどうだろう? 
 ふとそう考えていた矢先。
 内ポケットから、冷えた夜気を蹴散らす勇壮な宇宙戦艦ヤマトが流れる。

 「ウソ! 信じられへん! 今時、スマホの着ウタとか! それもアレやしな!」

 レナが叫ぶ。

 (携帯の着ウタなんか放っとけ。スッゲー可愛いけど。センスがどうこう言ってんじゃねえ! もんの凄く可愛いけど)

 毒づく北条に、

 「私と同じ着ウタやん!」

 アンビリバボーなレナの発言が襲いかかる。

 脱力しながら、北条は携帯の液晶を見る。
 上杉からだ。

 レナとは、長い付き合いになる。
 そんな予感を抱きながら、北条は携帯を耳にあてた。

 「木島の遺体は、行政解剖に回される。犯罪性はないから、司法解剖まではいかない」

 「お前、本気で犯罪性なしって思ってんのか?」

 「……」

 「病死だか事故死だか、そんな適当な捏造で納得いくか?」

 「俺が納得するかどうかは、問題じゃな……」

 「大問題だろ! 俺達三人はチームなんだ! 仲間がとんでもねえことに巻き込まれてる! ここで勝負しねえのか!? だったらいつ勝負すんだ!?」

 「俺が明智の立場でも、お前は闘うのか?」

 「当たり前だろ!」

 即答する北条。
 一瞬、黙り込む上杉。

 「更正組、か。確かに更正組同士にしか分かち合えない価値観、友情は存在する」

 「……お前、何知ったような口きいてんだ?」

 「もう解剖が始まる頃だろう。明朝には死亡原因が特定される」

 「福井で行政解剖っつったら……どこ?」

  春に移動してきたばかりなので、ド田舎・福井でもラビリンス。

 「お前が病院を知って、どうする?」

 「捜査するに決まってんだろ。こう見えてもデカなんだ、俺。知ってた?」

 「……嶺北大付属病院だ」

 溜め息を吐きつつ、上杉が教える。

「サンキュ! 性格ワリィ割に、いい奴だな! じゃ!」

 電話を切る気配に、上杉が慌てる。

 「今は動くな!」

 「階級と年が一個上だからって、命令される筋合いはねえ。アラサー括りだ」

 「そうじゃない。お前の知らない真相が……」

 「明智はどこにいる?」

 「お前がそれを知ってどうする? 知っても、それこそどうにもならない」

 「ハムが監禁してんだろ?」

 「……」

 「お前って、意外と分かりやすい奴だな」

 北条が携帯を内ポケットにしまう。
 そして、タクシー運転手に告げた。

「嶺北大付属病院まで頼む」
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