第71話 田舎の少女誘拐に国家機密まで投入するってマジキチだろ

文字数 1,039文字

 仮眠のため、リビングへ出て行く技官達とレナ。
 北条が、深田をこっそり呼び止め小声で話しかける。

「オーダーされた通り、機器はありますが……。本当に実行するんですか?」

「うん。面倒くせーと思うけど、よろしく頼むわ」

 渋面の深田が退室してから、北条はレナを小声で呼び止める。

「何なん? ウチの代わりに寝たいん……」

 レナは最後まで話せない。
 レナを見る北条の目から、息さえできない『圧』を感じたから。

「おい、レナ。『油断するな』どこじゃねえ。いつでも、ド突ける体勢でいろ。覚悟を決めろ」

 それだけ言って、北条がレナに背を向ける。

 レナはしばし呆然と立っていたが……

「考えても分からないないことは考えへん! 言われんでも、いっつも全力や!」

 と眠前の咆哮を心中であげた。



 リビングには、北条と上杉の二人だけ。

 北条は半分夢の世界で、少し考えていた。
 マル被逮捕は、逆探か身代金授受を押さえるしかない。

 現在、前者は絶望的。
 だが、後者もそう簡単にいかない。

(面倒くせえ。上杉にふるか)

「武田部長が、サッチョウにかけ合ってくれた。全ての通信会社とプロバイダーに圧力をかけて、監視体制は整った」

「早く言えよ。ん? でも無理だろ。マル被は……」

「通信の暗号化と複数のサーバー経由対策に、『三沢』と『ヤマ』の運用が決定した」

 上杉と北条の顔から、表情が消える。
 すでに、二人がついていける次元ではない。

 ヤマ――大戦前から『ヤマ機関』として、国内で最大規模にして最高レベルの通信傍受を行っていた機関。
 今は警察庁外事課が運用している……。
 そんな『都市伝説』と化した機関。

 三沢――アメリカを中心とした西側諸国が運用する世界最大の盗聴機関。
 それは『エシュロン』と呼ばれる。
 『三沢』は、その日本支店。
 当のアメリカが、その存在さえ認めないほどの電波傍受をやってのける組織。

 少女一人の誘拐に、日本どころか、世界の国家機密まで用いる。

(明智の事件みてぇに、タイコクだかノートだか、あと……時計屋かカメラ屋みてぇな名前の、ワケ分かんねえ連中が絡んでるわけだ。ならそっちの方は、俺は知らねえ)

「北条、これは最高機密だ。絶対に他言するな」

「言ったとこで、誰が信じるってんだ?」

 北条は上杉にさっさと背を向け、ソファで居眠りを始めた。

 上杉は一人、リビングで立っていた。
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