第38話 犯人を蹴り飛ばしたんだが処分ナシでオナシャス!
文字数 1,810文字
明智と北条は、言葉さえ見つからない。
公園で渡されたチラシの文面を思い出す。
『……カンナが生きるためには……四千万円が必要で……』。
「家族の死を伝えなければ、木島は山本をSとして運用出来た。だが、木島は山本に筋を通した。そして山本も、その恩義に報いようとした。通帳が、何よりそれを語っている」
上杉が説明を終えた。
その後の明智への言葉に、上杉らしくない棘が含まれる。
「銃火器を横流しし、不当な金を得て、恥を感じないか、明智?」
明智の目が、急に怪しく光り出す。
放たれる、攻撃の意思。
「上杉、もういい」
北条が反論を許さない口調で、上杉を牽制する。
「明智、さっき言ったろ。俺はお前を救いに来た。出頭しろ」
上杉と明智が驚く。
「俺達の十代は、社会からクズだゴミだと言われっ放しだ。でも今は、何とお巡りやってんだぜ。更正組? 上等じゃねえか。何度でも、何があっても、這い上がってやろうぜ」
明智の目から攻撃の色が消える。
新しく浮かぶ、悔恨、絶望。
「北条。お前には礼の言葉もないわ。お前とガキんときに会っとれば、もう少しマシな人生送れたかもしれんのう」
「あのな。何かやんのに、遅いも早いもねえ」
「北条、もういい!」
上杉が強い口調で割り込んでくる。
「詳細を説明する気も必要もない。今は、ただ聞くんだ。『帝国』という組織が存在する。その実行部隊が『キャノン機関』だ。これらは我が国にとって、敵性勢力だ。そして、明智はキャノンだ。帝国にとって邪魔な存在を排除する、それが任務だ」
「うるせえ!」
今度は北条が怒鳴る。
「訳の分かんねえ組織のことなんか、今はどうでもいい。銃器管理室の若造は余計なこと喋んねえように、散々脅しといた。だから……」
「北条。明智は、高性能の銃火器を暴走組やキャノンに提供していた。明智はハム落ちじゃない。この任務を遂行するため、帝国によって生安に送り込まれたんだ」
上杉が一拍置いて続ける。
「明智から山本への指示には、テープが使われていた。形が残る。高いリスクを伴う。電話やメールは、即座に監視網に引っ掛かるから使えないにしてもな。導き出される結論は一つ。明智は……明智は使い捨ての駒だ。他のキャノンと同じく」
明智が泣き笑いの顔で話し出す。
「俺はな、一本釣りで、お巡りになったんや。ム所行きのヤンチャを握り潰す交換条件としてや。条件は、さっき上杉警部補が言った通りなんやのう。キャノンとして、帝国に邪魔な奴を殺すんや。ほやさけ、俺は抜け出せんのや。俺はな……俺は、更正なんてしてないんや」
明智の目から、大粒の雫が頬を伝う。
一本釣りとは、直接、警察にスカウトすること。
「何だ、一緒じゃねえか。俺も一本釣りだ。ま、俺の場合は、親父のダチからだけどな。交換条件? んなの知らね。明智。仲間との約束以外は、破るためにあんだ」
強さと優しさが同居した心根を、明智は北条の中に見た。
明智は心から思う。
『最後にこいつと出会えて良かった』と。
一方、上杉。
地下駐車場で待ち合わせた日。
上杉は、明智の過去を調査していて集合に遅れた。
明智は確かに、児童関係の施設に入所している。
しかし、それは親からの虐待が原因ではない。
逆だ。
親を初め、周囲の人間達に暴行を続けた。
その質と頻度は、常軌を逸していた。
見かねた児童相談所・家庭裁判所が、明智を児童自立支援施設に入所させた。
児童自立支援施設は、非行した児童が入所する。
明智には幼少期から、悪の萌芽があった。
しかし上杉は、それを口にしない。
今の北条に、何を言っても無駄だから。
そして何より。
今それを口にするのは野暮だ。
「今から更正しろ。そしたら俺達、今度はホントの更正組コンビだ。せいぜい、派手に暴れてやろうぜ! お巡りじゃなくていい。殺した二人の罪を償って……」
「北条、ありがとう」
頬を伝う雫もそのままに、明智が心からの笑顔を浮かべる。
(しまった!)
上杉が心中で叫ぶ。
明智が腰にしのばせた拳銃を、自身の顎下に構える。
北条が左足で明智の右手首を蹴る。
衝撃と激痛で、拳銃が壁まで吹っ飛ぶ。
北条の左足はそのまま、明智の顎を蹴り飛ばした。
公園で渡されたチラシの文面を思い出す。
『……カンナが生きるためには……四千万円が必要で……』。
「家族の死を伝えなければ、木島は山本をSとして運用出来た。だが、木島は山本に筋を通した。そして山本も、その恩義に報いようとした。通帳が、何よりそれを語っている」
上杉が説明を終えた。
その後の明智への言葉に、上杉らしくない棘が含まれる。
「銃火器を横流しし、不当な金を得て、恥を感じないか、明智?」
明智の目が、急に怪しく光り出す。
放たれる、攻撃の意思。
「上杉、もういい」
北条が反論を許さない口調で、上杉を牽制する。
「明智、さっき言ったろ。俺はお前を救いに来た。出頭しろ」
上杉と明智が驚く。
「俺達の十代は、社会からクズだゴミだと言われっ放しだ。でも今は、何とお巡りやってんだぜ。更正組? 上等じゃねえか。何度でも、何があっても、這い上がってやろうぜ」
明智の目から攻撃の色が消える。
新しく浮かぶ、悔恨、絶望。
「北条。お前には礼の言葉もないわ。お前とガキんときに会っとれば、もう少しマシな人生送れたかもしれんのう」
「あのな。何かやんのに、遅いも早いもねえ」
「北条、もういい!」
上杉が強い口調で割り込んでくる。
「詳細を説明する気も必要もない。今は、ただ聞くんだ。『帝国』という組織が存在する。その実行部隊が『キャノン機関』だ。これらは我が国にとって、敵性勢力だ。そして、明智はキャノンだ。帝国にとって邪魔な存在を排除する、それが任務だ」
「うるせえ!」
今度は北条が怒鳴る。
「訳の分かんねえ組織のことなんか、今はどうでもいい。銃器管理室の若造は余計なこと喋んねえように、散々脅しといた。だから……」
「北条。明智は、高性能の銃火器を暴走組やキャノンに提供していた。明智はハム落ちじゃない。この任務を遂行するため、帝国によって生安に送り込まれたんだ」
上杉が一拍置いて続ける。
「明智から山本への指示には、テープが使われていた。形が残る。高いリスクを伴う。電話やメールは、即座に監視網に引っ掛かるから使えないにしてもな。導き出される結論は一つ。明智は……明智は使い捨ての駒だ。他のキャノンと同じく」
明智が泣き笑いの顔で話し出す。
「俺はな、一本釣りで、お巡りになったんや。ム所行きのヤンチャを握り潰す交換条件としてや。条件は、さっき上杉警部補が言った通りなんやのう。キャノンとして、帝国に邪魔な奴を殺すんや。ほやさけ、俺は抜け出せんのや。俺はな……俺は、更正なんてしてないんや」
明智の目から、大粒の雫が頬を伝う。
一本釣りとは、直接、警察にスカウトすること。
「何だ、一緒じゃねえか。俺も一本釣りだ。ま、俺の場合は、親父のダチからだけどな。交換条件? んなの知らね。明智。仲間との約束以外は、破るためにあんだ」
強さと優しさが同居した心根を、明智は北条の中に見た。
明智は心から思う。
『最後にこいつと出会えて良かった』と。
一方、上杉。
地下駐車場で待ち合わせた日。
上杉は、明智の過去を調査していて集合に遅れた。
明智は確かに、児童関係の施設に入所している。
しかし、それは親からの虐待が原因ではない。
逆だ。
親を初め、周囲の人間達に暴行を続けた。
その質と頻度は、常軌を逸していた。
見かねた児童相談所・家庭裁判所が、明智を児童自立支援施設に入所させた。
児童自立支援施設は、非行した児童が入所する。
明智には幼少期から、悪の萌芽があった。
しかし上杉は、それを口にしない。
今の北条に、何を言っても無駄だから。
そして何より。
今それを口にするのは野暮だ。
「今から更正しろ。そしたら俺達、今度はホントの更正組コンビだ。せいぜい、派手に暴れてやろうぜ! お巡りじゃなくていい。殺した二人の罪を償って……」
「北条、ありがとう」
頬を伝う雫もそのままに、明智が心からの笑顔を浮かべる。
(しまった!)
上杉が心中で叫ぶ。
明智が腰にしのばせた拳銃を、自身の顎下に構える。
北条が左足で明智の右手首を蹴る。
衝撃と激痛で、拳銃が壁まで吹っ飛ぶ。
北条の左足はそのまま、明智の顎を蹴り飛ばした。