第79話 部長三人に啖呵切る俺って恰好いいと思っていたら宇宙人に拉致された
文字数 1,400文字
県警本部が、ひどく懐かしい。
しかし、感傷に浸っている暇はない。
そもそも似合わないという自覚はあった。
目指す部屋が見つかる。
ノックはしたが、相手の返事を待たずに北条は無遠慮に入室した。
それを非難するでもなく、いつもの能面顔。
警備部長の浅妻は、北条を見ていた。
ただ、見ていた。
冷房が入っておらず、閉め切られた部屋。
暑くて仕方ないはず。
だが『浅妻空間』に一歩足を踏み入れた瞬間から、エスキモーでも凍死する寒気が足元から這い上がってくる。
「スンマセン、この写真見てもらって、知らねえ奴が……」
「なぜ電車の後始末をしていない」
三流俳優でも、こんな棒読みはしない。
感情のままに生きる北条と、感情を知らない浅妻。
両者の間に漂う空気の密度が歪に濃くなる。
「これ、その電車で撮った写真っす。ハムがわんさか送り込んだお陰で、見かけねえツラが多くてね。ハムじゃねえのに、チャカのんでる奴いたら、東署の本部でいいんで連絡よろしくっす」
浅妻のディスクに、ゴムで挟んだ写真の束を置く。
北条はさっさと退散した。
最後まで、浅妻は北条を見ていた。
ただ、見ていた。
次に、監察室長の沼津に、北条は同様のことを行った。
「監察なら、結構な数のお巡りの顔写真あるでしょ。ワルも把握してるでしょ。照会、よろしく。連絡は、東署本部まで」
呆然の沼津を残して、北条は東署・本部へ急いだ。
(さて、餌はまいたぞっと。どいつが食いついてくっかな)
武田は唖然としていた。
目の前に北条が立って、写真がどうのこうのと言っている。
「おいおい待て待て! 北条! お前は手榴弾で吹っ飛ばされて死んだって聞いたぞ!? 死体も残らんほどの爆発だったと」
「ウソっす、そんなの。あ、電車の後始末、サボッてスンマセン」
「い、いや、構わん。お前に勤勉さを求める馬鹿はおらん」
武田の本音に、密かに傷つく。
されど、写真の照会は依頼する。
前線に戻ろうとして……。
「北条君。何だか懐かしいねえ。まだ二日目なんだけどね」
いた! 宇宙人! ゲッ! マイ茶碗じゃねえか!
「身代金授受の電車内を、携帯で撮影したんだよね。それを現像して、照会する、か。北条君も、真相に近付いてるわけだ」
『人類も少しは進化してるんだ』としか、聞こえない。
本部のホワイトボード前で二人は話している。
そのホワイトボードは、関係者の写真やその相関関係などで埋め尽くされている。
めざとく美和の写真を見つけた北条が、発情する。
「課長、この美和嬢の写真ください! たまんないっす!」
……この目だ。
その瞳に、吸い寄せられる。
この瞳を形用する色が、誰も思いつかない。
妖しく光る、その瞳の色を。
小寺がのっそりと美和の写真を見る。
「ああ、しまったっ!」
小寺の動揺に、ちっぽけな人類の北条がひっくり返る。
小寺が、北条を部屋の隅に連れて行く。
このまま誘拐されて、改造されんのかっ?
と不安な北条だったが、小寺の話は、北条の勘を裏付けるものだった。
小寺がある発見を伝え、締めくくる。
「本部は任せてよ。北条君は前線と、さつきちゃんをよろしくね」
地球の運命半分は、ホ乳類ヒト科に託された。
しかし、感傷に浸っている暇はない。
そもそも似合わないという自覚はあった。
目指す部屋が見つかる。
ノックはしたが、相手の返事を待たずに北条は無遠慮に入室した。
それを非難するでもなく、いつもの能面顔。
警備部長の浅妻は、北条を見ていた。
ただ、見ていた。
冷房が入っておらず、閉め切られた部屋。
暑くて仕方ないはず。
だが『浅妻空間』に一歩足を踏み入れた瞬間から、エスキモーでも凍死する寒気が足元から這い上がってくる。
「スンマセン、この写真見てもらって、知らねえ奴が……」
「なぜ電車の後始末をしていない」
三流俳優でも、こんな棒読みはしない。
感情のままに生きる北条と、感情を知らない浅妻。
両者の間に漂う空気の密度が歪に濃くなる。
「これ、その電車で撮った写真っす。ハムがわんさか送り込んだお陰で、見かけねえツラが多くてね。ハムじゃねえのに、チャカのんでる奴いたら、東署の本部でいいんで連絡よろしくっす」
浅妻のディスクに、ゴムで挟んだ写真の束を置く。
北条はさっさと退散した。
最後まで、浅妻は北条を見ていた。
ただ、見ていた。
次に、監察室長の沼津に、北条は同様のことを行った。
「監察なら、結構な数のお巡りの顔写真あるでしょ。ワルも把握してるでしょ。照会、よろしく。連絡は、東署本部まで」
呆然の沼津を残して、北条は東署・本部へ急いだ。
(さて、餌はまいたぞっと。どいつが食いついてくっかな)
武田は唖然としていた。
目の前に北条が立って、写真がどうのこうのと言っている。
「おいおい待て待て! 北条! お前は手榴弾で吹っ飛ばされて死んだって聞いたぞ!? 死体も残らんほどの爆発だったと」
「ウソっす、そんなの。あ、電車の後始末、サボッてスンマセン」
「い、いや、構わん。お前に勤勉さを求める馬鹿はおらん」
武田の本音に、密かに傷つく。
されど、写真の照会は依頼する。
前線に戻ろうとして……。
「北条君。何だか懐かしいねえ。まだ二日目なんだけどね」
いた! 宇宙人! ゲッ! マイ茶碗じゃねえか!
「身代金授受の電車内を、携帯で撮影したんだよね。それを現像して、照会する、か。北条君も、真相に近付いてるわけだ」
『人類も少しは進化してるんだ』としか、聞こえない。
本部のホワイトボード前で二人は話している。
そのホワイトボードは、関係者の写真やその相関関係などで埋め尽くされている。
めざとく美和の写真を見つけた北条が、発情する。
「課長、この美和嬢の写真ください! たまんないっす!」
……この目だ。
その瞳に、吸い寄せられる。
この瞳を形用する色が、誰も思いつかない。
妖しく光る、その瞳の色を。
小寺がのっそりと美和の写真を見る。
「ああ、しまったっ!」
小寺の動揺に、ちっぽけな人類の北条がひっくり返る。
小寺が、北条を部屋の隅に連れて行く。
このまま誘拐されて、改造されんのかっ?
と不安な北条だったが、小寺の話は、北条の勘を裏付けるものだった。
小寺がある発見を伝え、締めくくる。
「本部は任せてよ。北条君は前線と、さつきちゃんをよろしくね」
地球の運命半分は、ホ乳類ヒト科に託された。