第76話 美人人妻に痔のオッサンが何したか確かめよう

文字数 1,242文字

 北条達が身代金戦争を繰り広げている一方。
 菅野家でも、静かな戦いが火蓋を切っていた。

「美和さん、今よろしいですか?」

 一人、放心状態でダイニングにいる美和にレナが声をかける。
 レナは深田を伴っていた。
 美和の前に置かれたカップから、湯気はもう立っていない。
 紅茶も、口をつけた気配はない。

「あ、はい……。何でしょうか……」

 蚊の鳴き声が雷鳴に聞こえるほど、返答は弱々しい。

「こんな時に申し訳ないんですが。いえ、こんな時だからこそ、です! 管野さんのDVについて、正直に教えてください」

 言いながら、レナと深田が美和のすぐ側まで寄る。

「……何のことですか……」

 返す美和に、生気が感じられない。

「今回の誘拐なんですが。……管野さんにDVを振るわれた前妻の怨恨……その可能性があると、報告が入っています」

 美和がポカンとしている。
 いきなり、鼻同士がこすれ合うほど深田が美和に顔を近づける。
 声にならない悲鳴をあげ、座った姿勢から、美和が後方へ飛びのく。
 飛びのいても、体に力が入らないのか、左肩が下がり、歪な姿勢になる。

(この体勢! ……まさかやで。ウチの考えすぎや)

 心中で独り相撲を終え、レナが話を続ける。

「眼の傷を見せてください。深田は以前、生活安全課にいました。DVで二度、夫を逮捕した経験の持ち主です。私と深田に任せていただけませんか?」

 美和が澱んだ目で、二人を見る。

「今日は……せめて今日は、もう何もしないで……」

 悲しみと苦痛で、枯れ果てた声。

「分かりました。ですが、泣き寝入りはしないで、ね!」

 それだけ言うと、レナと深田はリビングへ戻った。

「彼女、危険ですよ。誰かが側にいるべきでは?」

「お互い、まだ動くべき時やないで。ただ、その時は必ず来るはずなんや。深田さんは、ウチの頼んだことやってくれへん? 北条が頼んだことは、堀さんがしてくれてるんやな?」

 初見で年上の技官に、レナはタメ口。
 生意気ではない。
 理由がある。
 だがそれに、技官達は気付かない。

「ええ。この家中に、極小型のスピーカーをつけて回ってます。あ、家屋外にも」

 警察滞在はマル被にバレている。
 上杉の許可と北条の強引な推しもあり、技官は堂々と外で任務をこなしている。

「スピーカー? 今度はこっちが菅野家の中を盗聴するの?」

「双方向性なので、可能ですが……。ただ、北条さんの依頼が不思議なんです」

「北条、ア・リトル・アホな子やから。そんで、何て依頼してきたん?」

「『外で怒鳴る時がくる。だから、それを菅野家中に響くようにしろ』です」

 レナと技官が目を合わせて肩をすくめ、首をかしげる。
 そんなレナが可愛いくて、つい技官は浮かれる。
 だが。
 美和の瞳には、敵わない。
 男の全てを引き寄せて離さない美和の瞳。
 その引力には、レナのロケットオッパイもカンパイ。
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