第39話 貧弱君のくせにサプライズ激白

文字数 1,359文字

 脳震盪から醒めた明智に、上杉が手錠をかける。
 まだ足がふらつく明智を、北条と上杉が両方から支える。

「こいつ、前に言ってたよな。『俺の牙は抜けた』って。牙は生えてた。ドス黒い血で汚れた牙が。明智に牙うえつけて抜かせなかった奴等を、俺は絶対に許さねえ」

 そう宣言した北条は、部屋を出た。



 北条が倒した六人組は、まだ気絶していた。
 狭い廊下を進む。
 まだ完全に覚醒していない明智が、覚束ない口調で語りかける。

「ほ、北条、お、俺、俺、ほ、ほん、ほんまに、やり直したいんや。更正、した、いんや」

「任せとけって! 俺がいるんだぞ、俺が……」

 明智に顔を向ける北条。

 ほんの一瞬、生じた隙。

 ビシッ。

 廊下の窓ガラスが割れる音。
 木島の胸部左寄り中央に穴が開いた。

「狙撃だ! 上杉伏せろ!」

 北条が明智を抱えて壁際に伏せる。

 上杉は壁際でしゃがみ込み、グロックを抜く。
 すぐ目の前で北条と明智が、わずかに会話している。
 しかし、それどころではない。
 どこだ? どこから狙撃してきた? 

 一分が経過した。
 それを長いとも短いとも感じなかった。
 北条が丁寧に明智を床に寝かせ、上からスカジャンをかける。

「逝っちまった」

 北条が声を絞り出す。
 そして、躊躇いなく立ち上がる。

「北条、気をつけろ! まだ狙撃が……」

「超がつく一流の狙撃手が、いつまでも同じトコにボサッといることはねえ」

 上杉も立ち上がった。

「どこからだ?」

「角度的に、あのビルしかねえ」

 北条が指差した先は、地元テレビ局のビル。
 その距離、千メートル以上。

(この距離で、しかも動いている明智の心臓を撃ち抜いたのかっ?)

 悪寒に襲われる上杉。

 北条は、足元の明智を見下ろした。

「小寺課長が言ってた。『誰もが更正できるわけじゃない』って。課長は分かってたのか、明智のこと」

 北条が、ポツリともらす。

 上杉が、前を向いたまま口を開く。

「誰もが更正できるわけじゃない、か。耳に痛い言葉だ」

 怪訝な北条。

(まさか?)

「俺も更正組だ」

 上杉タイプは、北条が嫌悪する好例。
 なのに嫌うどころか、自分と同じ匂いがした。
 その理由が、これか。

 同じ、更正組。

 幾重ものサイレンの音が聞こえてきた。

「俺に聞きたいことが、山ほどあるんじゃないか?」

「今日はいい。バカほど報告書書いて、みっちり説教くらって、それからタクシー強盗の捜査だ。解決してから、洗いざらい、お前を吐かせる」

 北条と上杉は、狙撃手がいたビルを睨みつけた。

 (三人……。俺の関わった事件で、また人が死んだ。俺は俺を許せねえ! ケジメは取る。だが、その前に……)

 ビルを睨みつけながら、北条は誓う。

(山本を轢き殺した奴だ。間違いねえ。刺し違えてでも、てめえは殺してやる)。

 ビルを睨む二人の刑事を、夕焼けがオレンジ色に染める。



 北条は実に大事なことを失念していた。
 それをフォローしたのは、人類ではなかった。

 のそのそと立ち上がった小寺が、ノロノロと歩き、目をショボショボさせながら、北条の辞表をシュレッダーにかけた。
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