第5話 任務はモグラさんを狩ることです

文字数 1,003文字

 「それでは、この三人に任務を任せてよろしいですね?」
 
 沼津の問いに、武田と浅妻の両部長が無表情で頷く。
 警視正になると、表情を失うらしい。
 
 (何だ、任務って? タクシー強盗追ってんだけど、今)

 キョトンとしている北条に沼津が淡々と告げる。

 「君にはこの二人と組んで、モグラ狩りをしてもらう。本事案が解決するまで、現在抱えている事件は忘れたまえ」

 モグラ狩り――内部に潜むスパイを暴き出すこと。

 「最近、『暴走組』が福井で跳梁跋扈しているのは知ってるな?」

 世界で最もホットな国が、日本の原発にテロを仕掛ける――という話は、生まれたての赤ん坊でも知っている都市伝説。

 ところが十五年前、状況は激変した。

 十五年前。
 食糧危機・財政破綻で、北――北朝鮮は崩壊寸前まで追い詰められた。
 狡猾な北の将軍様は、先進国と取り引きした。
 結果、権力の椅子を死守した。

 将軍様が先進国に提供したもの――それは、各国に送り込んだ自国の諜報員・工作員のリスト。
 結果、彼等は見殺しにされた。
 だが本国で、細胞レベルで植えつけられた忠誠心は揺るがなかった。
 本国からの具体的な命令がない中、彼等は当初の命令を忠実に実行した。
 それは――潜伏先の国家破壊。

 こうして彼等は『指揮官なきテロリスト』という、最も危険な存在となった。

 そんな彼等に『暴走組』という通称が定着した。
 その最悪の暴走が、十年前の皇居襲撃。
 小型化された核兵器を所持した暴走組が、皇居に突入しようとした。
 対して、皇宮護衛官達が文字通り体を張って盾となった。
 警察も全戦力を投入した。
 多くの犠牲者は出したが、寸前で阻止した。

 ここから政治・外交・国防・公安の流れは急変した。
 他の暴走組のテロが後に続き、都市伝説だった『北のテロ』は現実の脅威となった。

 「モグラは、暴走組に武器と情報を流している。『サッチョウ』からの情報だ」
 
 『サッチョウ』とは警察庁を指す。
 警察庁・警視庁は、全国本社・東京本社と呼ばれる。

 「何らかの襲撃への下準備だろう」

 沼津が、恐ろしい予言をサラリと言ってのける。

 「モグラ狩りって、俺達はどこまでやるんすか? 他の捜査員は?」

 北条の最もな問い。

 「全てを君達だけで捜査するんだ」

 沼津の最もでない返答。
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