第66話 人質奪還中の刑事、エロ昇天と脱糞のピンチ!

文字数 1,418文字

 管野家に戻った。
 覆面を駐車してから玄関までがやたら遠く、北条はイライラする。
 そんな北条の不機嫌は、美和の手料理で吹き飛んだ。
 人質奪還中に昇天必至の刑事、ここにあり。

「ほら、俺の携帯と、我が家のノートパソコンや」

 管野がそれらを堀に渡す。
 そんな管野の素直な姿勢を見て、北条との同行は正解だと、上杉がほくそ笑む。
 身代金を上杉に預けた北条は、またも腹痛で便所に急いでいた。

(管野の下痢、うつったんじゃねえだろうな……しかしまあ、広え家だな。部屋、こんだけいる? 三人暮らしだろ? やたら曲がり角多いし)

 あれこれ考えていると、トイレについた。中に入る。

(オムツ交換テーブル……管野、もしかして子作り中か! 美和嬢相手に作ってんじゃねえ! ……あ! ヤバイ、漏れる! 漏れる!!)

人質奪還中に脱糞しかけた北条は、慌ててズボンを下げた。

 夕食が終わり、食器の洗い物が始まった。
 建前上、手伝えを申し出たレナだったが、美和はマナー通り断った。
 レナにしても、犯人からの連絡がいつあるか分からない。
 正直、洗い物の手伝いをしている場合ではない。
 しかし気になることがあったので、レナはダイニングと対面式のキッチンに向かった。

 洗い物をしている美和に近付く。
 七人分の食器を、放心した顔で洗っている。
 さつき誘拐のショックは、美和の中の何かを破壊したのかもしれない。
 レナがすぐ側まで行き、話しかける。

「美和さん、ちょっとよろしいですか?」

「え! あ、スイマセン。驚いてしまって……。どうしました?」

 美和が洗い物の手を止める。
 タオルで手を拭きながら、レナに体を向ける。

「突然で申し訳ないんですけど。その左目、どうなさいました?」

「ああ、これのことですか。吹き出物です」

 美和が疲れたような笑顔で答える。

 あらかじめ準備された、嘘。

 郵便で受け取った資料に、『管野が前妻にDV歴あり』とあった。
 レナが、グイッと顔を美和に近づける。
 管野が二階の自室に引き上げたのは確認した。
 だが、唐突に現れないとも限らない。
 声を潜める必要がある。

「不躾ですが。誰かの暴力が原因ではありませんか? 吹き出物で、そんな珍しいガーゼを使っているのは、見たことありません」

 眼帯のサイズは、通常よりやや大きかった。
 中のガーゼは、普段見えない。
 今は洗い物で動いたのか、眼帯が少しずれ、レナが見たことのないガーゼ地がちらりと顔を覗かせている。

「打ち明けるのがしんどいのは、よく分かります。私が十代の頃、大切な親友が男性に暴行されて、泣き寝入りした経験がありますから。でも私はもう、あの頃の無力な学生ではありません。警察官として、最後まであなたに付き合います。守り抜きます」

 俯いている美和。
 一拍置くレナ。

「もう一度だけ。その左目、誰かの暴力が原因ではありませんか?」

 俯いた美和の肩が、小刻みに震える。
 抑えていた感情が、堰を切ったか。
 嗚咽に似た音が、レナの耳に入ってくる。

「お、お願い。あの子、あの子が……さつきが帰ってくるまで、それまで、ソッとしておいて……」

 顔を上げずに、発する美和の声が震える。

「分かりました。必ず、さつきちゃんは無事に保護いたします」

 それだけ言って、レナはリビングへ戻った。
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