第46話 誘拐上等。犯人がデスピサロ級の化け物であれ

文字数 925文字

 当初の打ち合わせ通り、三人は古墳公園で車を降りた。
 小高い丘にある古墳公園は、管野家とその周辺が見下ろせる。
 実に便利だ。

上杉は県警で周辺地図を見たときから、ここで周囲の状況を観察し、車を捨てようと計画していた。

「セレブやなあ。みんな、まっさらや」

 レナが真面目な顔で感想をもらす。

(分かってんな。この辺の家、『金持ってまっせ』が滲み出てやがる。金には困ってねえ。身代金なんざあ、ちっともいらねえ連中だ。
 マル害とそのご近所は、成金の新興住宅地組。てことは、人間関係は薄い。怨恨なんざ、生まれる余地がねえ。だから『まっさら』だわな。
 ま、ご近所さんはマル被から外してよし。
 しかも新興住宅だけに、どうせセキュリティも最新鋭なんだろう。マル被が武装して、あん中のセレブのどっかに入り込んで、そこから監視してる、なんてこともまず有り得ねえ)

 こっそり考えていた北条だったが、本音がポロリと洩れる。

「こいつら、いくら給料もらってやがんだ」

 北条の戯言を無視して、上杉が丘を下りていく。
 レナが身も軽やかに後に続く。

 またSITか……。
 桜田門時代の思い出が走馬灯のように……思い出せない。

 脳裏にはっきり浮かぶ、十七歳の藤間。
 下の名前が、どうしても思い出せない。
 藤間の透き通るような透明な肌。
 知的な顔つき。
 だがその口は耳まで裂け、真っ赤な血が次から次へとこぼれ落ちる。

 俺は間違ってないよな、柴田?

 そこで北条は激しく頭を振る。
 感傷に浸るのは、ガラじゃねえ。

 他の犯罪と、誘拐・立てこもりの相違点。

 それは、『現在進行形の犯罪』であること。
 現在進行形では、次々と予測不可の事態が勃発する。
 いかに柔軟かつ素早く対応し、マル被の先を行けるか。

 相手もプロ。
 こちらもプロ。

 どちらが 『現場をつくれるか』。

 主語を『マル被』ではなく、『警察』にしなければならない。
 
(上等、上等。警視庁でも誘拐なんて一年に一回あるかないかだ。それが、このド田舎で発生した。これ明らかに、俺の出番だわ)

丘を下っていく北条の顔は、ふてぶてしく、ギラついていた。
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