第90話 ラスボスとの最終戦争の勝敗を報告しまっす

文字数 1,607文字

 美和が自室に飛び込む。
 拳銃と手榴弾を隠した衣装ダンスに手をかけようとして――レナが飛び込んでくる。

 レナは左肩を下げ力を抜き、右手に握った特殊警棒を構える。

「日本の女警察が、私に勝てると思ってるの?」

 挑発したが、レナは乗ってこない。
 北で『死なせてください』と懇願する諜報訓練を受けた人間を目の前にして、
 レナはその集中力を失わない。

(集中力は爆発的な力を生み出す。隙は見せられない……。
 日本語で『窮鼠、猫を噛む』だったか。
 所詮、目の前の小娘は鼠に過ぎない)

 美和は知らなかった。
 『蛇に睨まれた蛙』という諺を。
 
 レナと睨み合ったその数秒が、命取りとなった。

「お、レナ、生きてたか。しっかし、ひでえ顔だな。美和嬢にボコボコにされたか。ん? 無視してんじゃねえよ」

 シグを構えて、北条が入ってきた。
 軽口を叩いているが、照準は美和に定まっている。

「こいつは許せへん。最初、ウチが本気でDVを心配したときな、こいつ、泣きよった。そう思った。けど、違った。こいつ、笑いをかみ殺しとったんや」

「何で分かんだよ? ……おい! 次動いたら、頭をブチ抜くぞ! 
 北でとんでもねえ訓練受けて、偵察局まで配属された奴でも、俺は外さねえよ。
 大人しくしてろ、イ・ヨンヒ」
 
(名前まで知られている、か。
 そして、この男は絶対に外さない。
 一人でも多く道連れにしたかったが、ここまでか。
 大佐が皇居襲撃に、自分を加えない理由が分かった。
 詰めが甘いのね)

 美和が右手二本の指を左目に突き刺した。
 
 それが引き金となった。

 レナが美和に飛び掛ろうとする。
 それを北条が押さえつける。
 美和の左目から小さな爆発音と、オレンジ色の閃光が走った。
 
 暴走組、イ・ヨンヒもまた、自爆した。



 北条とレナは、首から上が無くなった美和の亡骸をしばらく眺めていた。
 口を開いたのは、北条だった。

「美和嬢の本名や簡単な素性は、ここに来る途中、上杉が無線で知らせてきた。何でアイツが知ってんのか知らねえ。あ、そだ。表に黒いワゴンが乗り捨ててあってな。中に、元気なさつきちゃんがいるとよ」

 戦闘で無線機が壊れたレナに、北条が教える。

「ホンマに!? 良かったあー!」

 脱力するレナ。
 限界以上の力を出し続けた結果だ。

「さっきは答え聞けなかったけどよ。何でお前、美和嬢のウソ泣き見抜けたんだ?」

 ユカが少し遠い目をする。

「高校二年生の頃や。大親友がレイプされて……世間体を気にしたその親友の親と、とても裁判に耐える気がせえへんかったその親友は、泣き寝入りや。
 夕方から次の日の朝まで、ウチら二人で大号泣や。
 しかも、その親友は妊娠までしとった……堕ろしたわ。
 その時も二人で一晩、大号泣や。
 ウチは、ホンマの女の涙を二回見とんねん。
 ウソ泣きぐらい、なんぼでも見破れるっちゅうねん!」
 
 言ってるうちに、レナが『思い出し怒り』をしかけたので、北条が、慌てて話題を変える。

「俺達、まださつきちゃんに会ってねえ。会うのが、楽しみだ」

 二人はゆっくりと、管野家の出口へ向かった。

 何人もの人間が死んだ。
 マル被であろうと、人命に変わりはない。

「逆探は成功した。そっちのマル被はパクったんか?」

「上杉によると、逃げられたってよ。携帯は、エリアだけしか特定できねえしな。プリペイド携帯だったんだけどよお。買った時の身分証明も、モチ偽造だった」

「そうなんか……。そや。誘拐初日の、夜のミーティング。堀の盗聴器、深田の逆探への疑問。あんた、答え分かっとったんやろ」

「『分かる』とは、ちーと違うわな。勘でピンと来た。でもよ。勘を話して、信じてもらったことねえんだよ。何でだ?」

「日頃の行いや」
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