第54話 犯人の方が超上手で、本部では刑事部長がマジ切れとかいう修羅場
文字数 1,852文字
上杉が声に出さず、レナを大絶賛する。
(おお、やるねえ。あ、ヤベ、惚れ直しちまいそうだ。でもなあ、美和嬢も捨てがたいよなー。けど、旦那いるしよお。何で、あんな無愛想眼鏡と結婚すんだよ。俺がいるだろ、俺が! ったく、運命と恋の女神は、性悪な奴等だ)
北条の本音日記が、恋愛に揺れる乙女日記に変わる。
しかし。
先程の北条の感想が、早速的中する。
マル被は手強かった。
「分割か。結構だ。では支払いの度に、さつきちゃんの体をパーツごとにお返ししよう。百万円で、腕一本」
「そ、そんな」
身代金分割を快諾する間抜けはいない。
レナ達も初めから、期待などしていない。
技官が満足していないので、時間稼ぎをしただけだ。
レナが技官二人を見る。
二人とも、無表情で浅く頷く。
満足できる結果は得られていないが、これ以上電話を続けても無駄ということか。
レナはストップウォッチ、上杉はオメガ、北条はG―ショックに目を落とす。
会話は三分を超えている。
充分な時間稼ぎ。
これ以上の引き伸ばしは、いたずらに犯人を刺激するだけだ。
三人が目だけで、電話を切ることを確認し合う。
犯人からの一度目の連絡に対して、レナは満点の結果を出した。
しかしここでも、犯人の方が一枚も二枚も上手だった。
「菅野の口座に、四千万円あることは承知している。次の嘘は、一生後悔する結果を生むだけだ。今後の連絡はメールで行う」
「メールって……。パソコンですか? それとも夫か私の携帯ですか? それに、何で夫の口座の金額をご存知なんですか?」
現在進行形の犯罪に、不測の事態は付き物。
どれだけ、柔軟かつ迅速に対応できるか、だ。
『メール連絡』は不測の事態。
だが、『メールの送り先はどこ?』というレナの問いへの犯人の回答は、どこまで管野家が下調べされているかを測る、いい物差しだ。
順調な滑り出しだった。
犯人の次の言葉までは。
「管野の切れ痔は、香辛料の過剰摂取と変態性行為が原因だ。
専任でもないのに、交渉は上出切だった、『川村レナ巡査長』」
前線本部も指揮本部も、上へ下への大騒ぎとなった。
本部に、二人の異物が入り込んでいる。
サッチョウから派遣されてきた、今川・小早川の両警部。
犯罪の凶悪化・複雑化・広域化を受けて、必要に応じ、サッチョウからオブザーバーが派遣されてくる。
誘拐はその最たる例だ。
サッチョウはキャリア組の巣窟だ。
当初は、キャリアが派遣されていた。
現場で何十年も飯を食っている捜査員が頭を抱える難事件に、お坊ちゃんお嬢ちゃんが介入する。
邪魔どころか、余計な障害にしかならない。
その声は高まり続けた。
そこでサッチョウは、ノンキャリアのスペシャリストを吸い上げて派遣することで、面子を保つ手段を取った。
サッチョウによると、今川・小早川は、SIT出身。
サッチョウが派遣するほどの刑事達だ。
優秀だが、その百倍プライドは高い。
本部の捜査員が怒鳴りながら走り回っているなか、二人組は涼しい顔で雛壇に座っている。
「部長。犯人の声は、パソコンで電子化された音声です。キーボードで打った言語を音声化できるソフトを使用したのでしょう」
武田より階級が二つも下の今川が、デキの悪い生徒に接する教師のような口調で話しかける。
(こいつら、犯人の最後の言葉を聞いてなかったのか? 警察の介入がバレる可能性はある。しかし犯人は、川村のフルネーム、さらに階級まで知ってやがった。結論は一つしかないだろうが……)
武田の怒りを感じとったのか、小早川が苦笑して引き継ぐ。
「部長。まずは、今の電話を時系列で分析することが、肝要です」
分析だあ? 何を偉そうに、このガキどもは……。
今川と小早川は、精鋭部隊であるSIT出身らしく角刈りで体つきはガッシリしているが、それだけではない。
二人とも、まだ三十代半ばほどで、警部。
エリート意識の塊にならない方がおかしい。
しかし武田にしてみれば、面白いわけがない。
「川村巡査長の対応は、まあ合格をあたえて、差し支えないでしょう。少しでも、犯人の正体か居場所に繋がる情報を引き出してほしかったものですが。所詮、SITを少しかじった程度です」
もうコイツらを殴ってもいいだろ。
サッチョウが黙っていないだろうが、知ったことか。
(おお、やるねえ。あ、ヤベ、惚れ直しちまいそうだ。でもなあ、美和嬢も捨てがたいよなー。けど、旦那いるしよお。何で、あんな無愛想眼鏡と結婚すんだよ。俺がいるだろ、俺が! ったく、運命と恋の女神は、性悪な奴等だ)
北条の本音日記が、恋愛に揺れる乙女日記に変わる。
しかし。
先程の北条の感想が、早速的中する。
マル被は手強かった。
「分割か。結構だ。では支払いの度に、さつきちゃんの体をパーツごとにお返ししよう。百万円で、腕一本」
「そ、そんな」
身代金分割を快諾する間抜けはいない。
レナ達も初めから、期待などしていない。
技官が満足していないので、時間稼ぎをしただけだ。
レナが技官二人を見る。
二人とも、無表情で浅く頷く。
満足できる結果は得られていないが、これ以上電話を続けても無駄ということか。
レナはストップウォッチ、上杉はオメガ、北条はG―ショックに目を落とす。
会話は三分を超えている。
充分な時間稼ぎ。
これ以上の引き伸ばしは、いたずらに犯人を刺激するだけだ。
三人が目だけで、電話を切ることを確認し合う。
犯人からの一度目の連絡に対して、レナは満点の結果を出した。
しかしここでも、犯人の方が一枚も二枚も上手だった。
「菅野の口座に、四千万円あることは承知している。次の嘘は、一生後悔する結果を生むだけだ。今後の連絡はメールで行う」
「メールって……。パソコンですか? それとも夫か私の携帯ですか? それに、何で夫の口座の金額をご存知なんですか?」
現在進行形の犯罪に、不測の事態は付き物。
どれだけ、柔軟かつ迅速に対応できるか、だ。
『メール連絡』は不測の事態。
だが、『メールの送り先はどこ?』というレナの問いへの犯人の回答は、どこまで管野家が下調べされているかを測る、いい物差しだ。
順調な滑り出しだった。
犯人の次の言葉までは。
「管野の切れ痔は、香辛料の過剰摂取と変態性行為が原因だ。
専任でもないのに、交渉は上出切だった、『川村レナ巡査長』」
前線本部も指揮本部も、上へ下への大騒ぎとなった。
本部に、二人の異物が入り込んでいる。
サッチョウから派遣されてきた、今川・小早川の両警部。
犯罪の凶悪化・複雑化・広域化を受けて、必要に応じ、サッチョウからオブザーバーが派遣されてくる。
誘拐はその最たる例だ。
サッチョウはキャリア組の巣窟だ。
当初は、キャリアが派遣されていた。
現場で何十年も飯を食っている捜査員が頭を抱える難事件に、お坊ちゃんお嬢ちゃんが介入する。
邪魔どころか、余計な障害にしかならない。
その声は高まり続けた。
そこでサッチョウは、ノンキャリアのスペシャリストを吸い上げて派遣することで、面子を保つ手段を取った。
サッチョウによると、今川・小早川は、SIT出身。
サッチョウが派遣するほどの刑事達だ。
優秀だが、その百倍プライドは高い。
本部の捜査員が怒鳴りながら走り回っているなか、二人組は涼しい顔で雛壇に座っている。
「部長。犯人の声は、パソコンで電子化された音声です。キーボードで打った言語を音声化できるソフトを使用したのでしょう」
武田より階級が二つも下の今川が、デキの悪い生徒に接する教師のような口調で話しかける。
(こいつら、犯人の最後の言葉を聞いてなかったのか? 警察の介入がバレる可能性はある。しかし犯人は、川村のフルネーム、さらに階級まで知ってやがった。結論は一つしかないだろうが……)
武田の怒りを感じとったのか、小早川が苦笑して引き継ぐ。
「部長。まずは、今の電話を時系列で分析することが、肝要です」
分析だあ? 何を偉そうに、このガキどもは……。
今川と小早川は、精鋭部隊であるSIT出身らしく角刈りで体つきはガッシリしているが、それだけではない。
二人とも、まだ三十代半ばほどで、警部。
エリート意識の塊にならない方がおかしい。
しかし武田にしてみれば、面白いわけがない。
「川村巡査長の対応は、まあ合格をあたえて、差し支えないでしょう。少しでも、犯人の正体か居場所に繋がる情報を引き出してほしかったものですが。所詮、SITを少しかじった程度です」
もうコイツらを殴ってもいいだろ。
サッチョウが黙っていないだろうが、知ったことか。