第10話 ガチで仲間割れしていいっすかね?

文字数 1,709文字

 覆面に乗り込もうとする北条と上杉。

 「なあ。次の一手はあるんか?」

 明智が真剣な表情で聞いてくる。

 「横流しされたチャカを追うしかねえ」

 ふてくされる北条。

 監視・盗撮・盗聴・戸籍に通帳などの無断閲覧。
 やりたい放題のハムにとって、最も手強い相手。

 それは、同じハム捜査員。

 手の内を、全て知られている。
 つまり抜け道・対処も熟知している。
 しかもハムでは、捜査員個々が独立して諜報活動を行っている例が多い。

 捜査員達が築き上げた人的情報網は、引き継げるものではない。
 上司ですら把握していないケースなど、珍しくも何ともない。
 しかし『警察』は組織に『牙』を剥いた者を、必ず潰す。
 手段を問わず。

 それでも、木島は生きている。
 生活している。
 それどころか、今も現職のハム。

 ハムが潰せないハム・木島。

 かなり価値がある情報源を持っている可能性が高い。
 それだけの情報源を持てる諜報力がある。
 腕が立つ。
 そんな相手に、どう戦う?
 
 同時に、それは木島が限りなく『#犯人__クロ__#』に近い状況証拠でもある。
 機密任務の『S(情報提供者)獲得』の予算は、領収書が不要。

 だから当然のように、幹部が予算をピンハネする。
 S獲得の資金は、自腹を切らされる。

 木島も例外ではないだろう。
 そこに、娘の高額医療費……。

 「管理出来ていない拳銃は何丁あるんだ? 『長モノ』もあるのか? それはいつ始まった? 木島はなぜその銃火器を流せる?」

 上杉の詰問マシンガン、明智を蜂の巣に。
 『長モノ』とは、ライフルやショットガンなどを指す。

 「何丁か分からんから、管理できんのやのう。そして迷子さんは、サブマシンガンに『長モノ』まで、色取り取りや。『いつ、なぜ』は、それこそ木島に聞いてほしいんやのう」

 「木島がクロだと仮定して……なぜ幹部達はそれを断定できた?」

 明智が目を細めて上杉を見据える。

 「『仮定して』やって? まるで木島が、クロじゃないみたいな言い方やのう」

 「まるで木島が、クロのような言い方だな。証拠を見せろ」
 
 明智と上杉の視線が火花を散らす。
 
 「チャカの線から捜査すんの、やっぱ面倒くせえ。てか、タクシー強盗の捜査しねえとマズイ。運ちゃん達の組合が、圧力かけやがってよ。オエライサンどもが早くパクれってうるせえ」

 空気が読めない・読む気も無い北条が、ダラダラと喋りだす。

 「お前、それでよく桜田門にいられたな。いられなかったから、ここにいるわけか」
 
 上杉が冷ややかな言葉を北条にぶつける。

 「東京の話が聞きてえのか? おのぼりさんか、お前は」
 
 北条と上杉のやり取りの横で、険しい顔の明智。

 「アイツを頼るしかねえんかのう。くそっ、タブーのカードやのに」

 「おっ、何か楽ができ……頼もしそうじゃねえか! チャッチャと片付けんぞ。ああ、面倒くせえ」
 
 北条の適当発言など聞き流し、上杉の視線が鋭さを帯びる。
 その視線の先に誰がいるのか、今の北条は知らない。
 


 帰りの車内。
 北条が運転、助手席に明智。
 上杉は後部座席で寛いでいる。

 「お前等、『更正組』なのか?」

 上杉が、爆弾に着火。

 「地獄耳やな、あんた」

 それだけ言い返すのが精一杯の明智。
 
 更正組。

 任官前は暴走族・不良・チーマーなど「ワル」だった者達の蔑称だ。
 過去であっても、『ワル』を見る警察官の目は厳しい。
 『更正組』のレッテルは肩身が狭く、他の警官から軽蔑される。
 居場所を無くしていく。

 「希少品の更正組。それが二人仲良く並んでいるのは、絶景だな」
 
 上杉爆弾、炸裂。
 北条が急ブレーキをかける。

 「上杉。ちーと外出ろや」

 北条と上杉が黙って車外へ。

 二人が、三メートルの間隔で対峙する。

(ほんまに何しとんや! ヤンチャ過ぎや!)

 明智が毒づきながら、車外へ出ようとドアを開け――その音が開戦の合図となった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み